加齢なる一族、猿若祭二月大歌舞伎に行く〜の続きです…。
三、籠釣瓶花街酔醒
下野国佐野の絹商人の次郎左衛門(中村勘九郎)は、下男の治六(中村橋之助)と一緒に桜が咲き誇る吉原仲之町へとやってきます。
絢爛豪華な兵庫屋八ツ橋(中村七之助)の花魁道中に出くわすと、そのあまりの美しさに魂を奪われてしまいます。
人柄も気前も良い次郎左衛門は、江戸に来るたびに八ツ橋のもとへと通い、遂には身請け話も出始めます。
しかし、八ツ橋には繁山栄之丞(片岡仁左衛門)という情夫がいて…。
籠釣瓶と言えば、私の中では、吉右衛門さんと勘三郎さんです。
勘三郎さんの十三回忌追善公演ですから、勘九郎さんと七之助さん兄弟でこの籠釣瓶を演じられること、勘三郎さんも喜んでいることでしょう・・・。
勘九郎さんの次郎左衛門が出てきた時、勘三郎さんかと思いました。確か平成22年に観た勘三郎さんの声、抑揚、全てが、よく似ています。親子とは、こんなにも似るんですね。
七之助さんの八ツ橋、豪華な衣裳に負けず、本当に美しい〜。
花道で、止まって、次郎左衛門に向かって微笑む有名な場面では、控えめでそれでいて、色気があって、じっくり間をとって、微笑みました。
次郎左衛門でなくても、ズキュン!
八ツ橋の情夫は、仁左衛門さん。勘三郎さんの時も、栄之氶でした。
八ツ橋が惚れるのも納得の色男。
着物を着て、するすると帯を締める手が、色気があって素敵♡と友人が言ってました。
栄之氶は、自分の見栄やプライドの為に、満座の席で、次郎左衛門に恥をかかせます。
身勝手な男に、惚れた八ツ橋が愚かな選択をするのですけど、仁左衛門さんの栄之氶には、色気と男の狡さ・身勝手さが共存する塩梅が良くて、流石だなあと思いました。
松緑さんの意地の悪い感じ、歌六さんの気風の良さ、児太郎さん、芝のぶさん、鶴松くんの花魁、歌女之丞さんの遣り手と時蔵さんの女将と配役も、勘三郎さんの追善興行らしく、豪華で、そして適材適所。
八ツ橋の愛想尽かしは、有名な場面。
八ツ橋の言葉は、キリキリと私の心を締め付けます。
でも私が好きなのは、愛想尽かしをされて、「花魁そりゃあつれなかろうぜ」の決め台詞からの次郎左衛門の台詞です。
全体的に、勘三郎さんより、熱量が少ない?
もっともっと胸に響くかと思いましたが、これは私のハードルが高すぎだったかも…。
次郎左衛門が、妖刀籠釣瓶を持って、八ツ橋を殺しに行く場面、感情を抑えて、抑えて、そして、感情が爆発し、妖刀に引きづられるように、八ツ橋に斬り掛かるところ、また、斬られた八ツ橋の倒れる姿が、美しくて、見応えありました。
次郎左衛門が、美しい花魁と出会ってしまって、心奪われ、捨てられて、堕ちるところまで堕ちていく物語。
人間の心の闇を覗き込んだような、後味の悪さが忘れられず、クセになるのが「籠釣瓶花街酔醒」です。