渋谷PARCO劇場に「欲望という名の電車」を娘と観に行きました
テネシー・ウィリアムズ作・松尾スズキ演出
ブランチ(秋山菜津子)は、欲望という名の電車に乗り妹のステラ(鈴木砂羽)の暮らすニューオーリンズに来た。姉妹は、南部の地主階級出身で、ステラは10年前に南部を出た。南部に残ったブランチは、家屋敷、更に教師の職も失ってステラの家に居候する。
ブランチとステラの夫のスタンリー(池内博之)は事あるごとに、激しく衝突していく。ブランチは、スタンリーの友人ミッチ(オクイシュー)との結婚を望むが・・。
ブランチは、登場とともに有名な台詞を言います。
「欲望という名の電車に乗って、墓場という電車に乗り換えて、六つ目の角で・・・」
秋山ブランチは、ちょっと妖し気で、テンション高め、訳ありな感じ。
鈴木ステラは、優しそうな姉を慕う可愛い妹キャラ。
ブランチが、ステラに家屋敷を失った理由を「病人の介護やお葬式は、とてもお金が掛かるし、お葬式にあなたは、来て帰るだけだから・・。実は、そこまでが大変で、お葬式なんてお花に飾られ美しいものよ」というようなことを言う。ブランチの言うことに、私はとても納得してしまった
だって、私も姉妹の姉で、母の葬儀の時には喪主・・。確かに、亡くなるまでが大変で、葬儀は美しい儀式でしかない。
姉妹なんて、たいてい姉は、おっとりで、妹はしっかりキャラ。
ステラが去ってからの10年、大変だったに決まってる。
ステラの夫スタンリーは、ポーランド系で、労働者階級のマッチョ。元地主階級のブランチを事あるごとに攻撃する。
人種や階級のコンプレックスとブランチの上流階級風の言動が、スタンリーを苛立たせ、彼をより暴力的にする。
ブランチのトランクを勝手に開け、「こんな高そうな服や毛皮!」とステラに見せるけれど、洋服や毛皮は、決して、高そうな、品の良い物でなかった。
ブランチの過去が、何となく想像出来て悲しい
スタンリーは、目の上のたんこぶのブランチを追い出す為、ブランチの哀れな過去をステラや、ブランチに憧れるミッチに伝える。
ブランチは、過去を知られミッチに拒絶され、スタンリーに乱暴され、ついに精神が破綻する!
ブランチは、すでに南部で、ボロボロの精神状態だったが、見栄とプライドで作った鎧を心に着せてステラの前に現れた・・。
でも、スタンリーに心の鎧を剥ぎ取られ、身も心も傷付けられ、精神病院へ・・
ステラは、ブランチとスタンリーの板挟みとなり、苦しんだけれど、女として、母として、スタンリーを選び、親子三人の幸せを望み、ブランチを精神病院に入れるしかないと決意する。
私は、ステラを責める気はない。「ブランチがスタンリーに乱暴されたって言うんだけど、もしそれが本当なら彼を許さない。でもブランチは、あんな状態だから、言うこと信じてない」というような台詞を言う。
お芝居は、ブランチが精神病院に行くところで、終わるけれど、その先を想像すれば、ステラとスタンリーが上手く行く訳がない。
ステラは、今は、信じたくなかっただけで、スタンリーに必ず、あの日ブランチに何をしたの?って、責めることになるから!
ステラも欲望という名の電車に乗ってしまったのね・・・。そして墓場という電車に乗り換えてしまった
ブランチには、同情すべき点は、いっぱいある。
でも、結婚相手のホモセクシュアルな趣味を知って傷付き、夫に、「私はあなたの悍ましい趣味を見た」と言って責めたでしょう。
今から思えば、そこが不幸の始まり
若い新妻には、許せないことかもしれないけど、夫を自殺に追い込むって、スタンリーと全く同じ!
ブランチとスタンリーは似た者同士なのかも・・・。
スタンリーが、嫌悪するブランチを乱暴するって理解出来ない。だから初めて会った時から、惹かれていたはず。プラスとプラスが反発しあうような関係、クルッとひっくり返る瞬間にピッタリ引き付け合うことに・・。そういう感情がなければ、ただの変態になってしまうわ。
だから、池内スタンリーには、もう少し、ブランチに惹かれている?っていう雰囲気があればね
でも、この救いのないお芝居にも救いはあると思った。それは、ブランチが精神病院に行くこと。ブランチは、ずーっと夢を見ていられるわ精神病院だったら、たくさんのお金持ちに美しいって持て囃され、世界一周のクルージングに行くというブランチが作った夢物語の中で生きていける・・・。
テネシー・ウィリアムズの「トタン屋根の上の猫」でも、お父さんが息子に「お前と自殺した友人は、ホモセクシュアルな関係があったのか?」って聞く。
「ない」って言われたら信じるの?「そうだよ」って言われたら怒るの?
何故、そっとしておいてあげないんだろうって、あの時も思った・・。
サド公爵夫人でも、母は、娘に「それでお前は、喜んでいた」と言う・・。
人間って、悲しい(ノ_・。)。愛しく思う人を、傷付ける・・。言うべきことを言わないで、言わないでおくべきことを言うなんて
演出・松尾スズキ
時々松尾風味の笑いの場面があったぐらい。
悲しい哀れな女の話が、何度も何度も再演されるのは、私達が歪みや矛盾の中で、痛みと苦しみの中で、もがきながら生きているからなんでしょうね。
切ないな・・・。
同じ2011年に観た高畑淳子ブランチの感想を次のページに。
参考までに・・・。