松下幸之助、パナソニックの惨状に津賀一宏社長を叱る!64
松下幸之助、パナソニックの惨状に津賀一宏社長を叱る!64 著者が上記の原稿を書いた後、昨年11月13日にパナソニックの社長が津賀一宏氏から楠見雄規氏に交代する旨の発表がありました。これは、通例よりも約4カ月も早い社長交代人事でした。楠見次期社長は、2021年4月1日付けで、CEOに就任し、6月24日付けで社長となり、津賀一宏社長は、4月1日付けでCEOを退任、6月に取締役会長に就任するということです。また、パナソニックは、2022年4月から持株会社制へと移行し、社名をパナソニックホールディングスに変更することも発表されました。 正式に社長交代する2021年6月まで半年以上も任期を残したまま発表する異例の前倒しとなった理由として、津賀氏は会見で「新たな経営体制に移行するため、さまざまなことを決める必要がある」と説明しました。『引き継ぎ期間を長くすることによって、35以上もの事業を抱えるパナソニックの経営の難しさや進むべき方向性を確実に新社長の楠見氏に伝え、共に議論する狙いがある』との説明があります。(2020年11月16日付け日経ビジネスWeb記事)しかし、これまで述べてきたことから明らかな通り、『進むべき方向性』は、津賀氏から引き継ぐべきではありません。もしそれが正しいものであるならば、津賀社長の8年間に成就していたはずですが、結果は“失敗”であったことは先に見た通りです。それ故、『進むべき方向性』は、新社長となる楠見氏自身が自ら“とらわれない素直な心”になって、“自分の利害や感情”などの“私心”から離れたところで『社会が真にパナソニックに求めるもの』を感じ取るべきものです。 楠見雄規新社長は、自身の経験を踏まえ、『私が学んだことは、現場の人が事業を動かしていることであり、それは深く理解したつもりである。現場がやる気を出し、改善することが、競争力につながる。』と述べており、また、津賀社長による楠見新社長の人物評は、『彼の方が現場に密着するねちっこさがある』とのことです。 また、楠見氏は、『新しい会社の形は、創業者のころに似た形である。だが、私の世代にとっては、新しいチャレンジになる。創業者がやってきたことを勉強しなおす。』とも述べています。これは津賀社長を含めて歴代社長が就任直後に必ずやってきたことですが、これが、『創業者のやってきたこと』の表面的な勉強に止まらず、その背後にあった創業者松下幸之助の“心の持ち方”にまで迫り、それらの本当の意義を正しく理解した上で、自分自身の腹に落とし、“強固な信念”としてもらいたいと願うばかりです。そして、他の経営陣に対しても、同じことを要求すべきでしょう。 楠見次期社長は、一方で、津賀社長と同じR&D出身の技術者で『情より理を重んじる理論派』とされ、『その合理性と頭の良さ』という点で、“徹底した合理主義者”の津賀社長に似ている面もあるようです。次の言葉からは、松下幸之助の経営理念を理解した上で、合理的な観点からも考えているようにも思われます。曰く、「パナソニックには、低収益の事業がある。創業者の理念から言うと、社会に貢献した結果で、利益を得ることができる。利益が低いということは、社会貢献の度合いが少なくなっていることであり、競合他社に比べて、貢献度合やスピードなどが後手に回っていたり、負けていることだといえる。その観点から、競争力を徹底的に強化することが必要である。利益を伴った成長をするには、他社の劣後にまわらない要素があったり、他社が追いつけない要素を1つか、2つ持つ必要がある。他社が頑張っても追いつけない、というものがある事業がコアになる」 ただ、これが松下幸之助の経営理念を一応は理解しながらも、結局“建前”に止まり、自身の本音(信念)である“徹底した合理主義”に引き摺られて、『物心共に豊かな人間社会の実現』という最終目的を見失って、“人間大事の経営”を壊してしまった津賀社長と“同じ過ち”をすることのないよう祈るばかりです。 楠見新社長には“松下幸之助の経営理念”の経営陣及び全社での復活とそれを踏まえたパナソニックの真の再生発展を期待しつつ、筆を置くこととします。最後までお読みいただき有難うございました。(2021年3月7日)