~
赤い空~
アヌの村では毎夜行なわれる日課がある。
村の中央に火を焚き、それを村人たちが囲む。
そして今日の収穫の喜びを神様に感謝し、村の人たちのお互いの幸せに感謝をする。
村の人たち一人一人が村人全体の幸せを願い天に祈る。
私はこの時間が好き。
この村にいる幸せ、この村の人たちと出会えた幸せを感じられるから。
もちろん普段からも周りの人たちへの感謝の気持ちは忘れていないつもりだけど。
火を囲み、お互いの今日の行いを反省し、労い、称えあう、ステキな時間・・・。
今日もそれで一日が終わるはずだった。
ドンッ!ドンッ!
何かが爆発するような音が遠くに聞こえた。
その音と同時くらいにエンバの兵隊さんの車が村に入ってきた。
「何事か!」
車を降りた兵隊さんが長老さまの元へ走った。
「ゴゾンの国が攻めて来ました!既に国境は突破されすぐそこまで迫ってきています。」
「馬鹿な、エンバは中立を宣言したではないか。」
「”ウィルノムと協力態勢を作る恐れのある国は制圧する。”それがゴゾンの見解です。」
「なんということを・・・。」
遠くの空が赤く染まっていた。
町や村に火が上がったんだ。
「村人の避難を!ここは危険です!」
「・・・。」
長老さまは目を閉じて・・・。
「いや・・・わしらはこの村を捨てぬ。」
「長老!?」
「この村を出たところで戦の火にまかれるのは同じことじゃ。わしらは先祖から守ってきたこの土地以外に生きるつもりはない。この地で生き、またこの地で死を迎える。」
長老さま・・・。
「この村を出たいものは止めぬ。どうか生き延びてくれ。」
長老様の言葉に何も言えず私たちは・・・。
「長老さま。」
口を開いたのはレマお姉さまだった。
「私たちがゴゾンを食い止めます。」
お姉さま・・・!そう、私たちにはお姉さまたちがいる!!
神様のご加護がある!
「レマ・・・」
「私たちはこの日のために”神の像”を与えられました。この村に決してやつらを踏み入れさせはしません。」
長老さまの前にひざまずくお姉さまたち。
「・・・うむ。神のご加護を・・・頼む。」
「はい。」
お姉さまたちは立ち上がって・・・。
「お姉さま・・・。」
お姉さまたちに声を掛ける。
「ルクシェ、何を悲しい顔をしているの?心配はいらないわ。私たちのこの村はきっと守ってみせる。」
「・・・死なないで・・・。」
「当たり前よ。あなたは天使様のお名前をいただいたのでしょう?天使に見送られた私たちが死んだりするものですか。」
レマお姉さまは私の頭を優しくなでてくれた。
「行ってくるわ。待っててね。」
お姉さまはそう言って他のお姉さまたちと森の奥に消えた。
すぐ後に、立ち上がって森の上まで顔を見せたお姉さまたちの乗った”神の像”は、赤く染まった空の方へ進んで行った・・・。
~つづく~