さ~て、過去に少し触れた事もある『アブラハム合意』。
その様な中、ある資料を読んでいましたら、またまた、接する機会がありましたため、別途、少し調べて見る事にしました。
以下、公益財団法人中東調査会の公式ホームページに掲載されていた内容を転載させて頂きます。
尚、文章は、中東調査会の高尾賢一郎・研究主幹の手に成るモノです。
また、主旨が変わらない程度で、小職が書き換えています。
令和5年(2023年)度外交・安全保障事業
「アブラハム合意」とは何だったのか
――UAE・バハレーンに取ってのイスラエルとユダヤ
「アブラハム合意」は誰のものか
約3年前、2020年(令和2年)8月13日にUAEとイスラエルの国交正常化合意が発表された。その1カ月後、9月11日にはバハレーンが国交正常化合意を発表し、同15日のワシントンでの調印式による正式履行を経てスーダンとモロッコもこれに続いた。
当初はUAEとイスラエルの国交正常化を指していた「アブラハム合意」が、イスラエル、米国、一部アラブ・イスラーム諸国から成る一種のチームを指す用語としても使われ始めたのはこの頃からであろうか。
新たにイスラエルと国交を結んだ国々、特にUAEとバハレーンはアブラハム合意の扱いに慎重な姿勢を見せた。
その理由は、先ず持ってイスラエルとの公式な関係構築がアラブ諸国の間でタブー視されていた事である。
実際、イスラエルとの国交正常化に踏み切ったエジプトやヨルダンは過去に「裏切り者」の汚名を被り、それはイスラーム過激派が同諸国を攻撃対象に挙げる際の口実とも成って来た。
もうひとつの理由としては、米国とイスラエルの当時の指導者、トランプ大統領とネタニヤフ首相が、アブラハム合意を執拗に自らの事績とアピールした事が挙げられる。
トランプ大統領は、2020年(令和2年)11月の大統領選挙での再選を見据える中でアブラハム合意を歴史的偉業と自賛し、ネタニヤフ首相もまた、中東地域に取ってのエポックメイキングな出来事としてアブラハム合意の意義を強調し続けた。
防衛・セキュリティシステムやITの先進国であるイスラエルと公式に貿易や技術協力を進める事のメリットは論を俟た無い。
しかし、UAEやバハレーンからすれば、決してノーリスクではない決断を米国やイスラエルの手柄とされるのは、当然ながら愉快な話では無い。
アブラハム合意をパレスチナへの裏切りやイスラエル・米国へのおもねりと位置づけるストーリーが出来上がる事態は何としても避けたかった。
「アブラハム合意」で何を得たのか
こうした事情からUAEやバハレーンとしては、イスラエルとの国交正常化を自国による能動的な、また公益性の高い英断とアピールする必要があった。
イスラエルを中東で孤立させるのでは無く、あえてチャンネルを設けることでパレスチナ情勢の打開への道が拓け、引いては地域全体の緊張が緩和されると訴えた事はその象徴であり、また経済面では、今まで公式な関係が無かった国との貿易が開始した事によるメリットを宣伝し続けている。
前者に関しては、率直にいって特段の影響は見られない。
アブラハム合意を経てイスラエル・パレスチナ間の武力衝突が小康状態に入った、ないしUAEやバハレーンが武力衝突を防ぐ、仲介すると言った状況は生まれておらず※1、むしろ2023年(令和5年)には武力衝突が激化、長期化している。
これに対するUAE・バハレーンの対応は、ひとまずイスラエルを批判し、パレスチナへの財政・人道面での支援を表明すると言う、従来通りのものだ。
一方、後者の経済面についてはドラスティックな変化がしばしば報じられる。
UAEは2023年(令和5年)4月のイスラエルとの包括的経済パートナーシップ合意の開始を持って、関税分類品目の96%以上を貿易で扱う事に成り、デジタル貿易にかかわる法整備も進む事に成る※2。
一方のバハレーンは、経済面に加えて防衛分野での関係強化にも注力して居り、2022年(令和4年)2月のガンツ・イスラエル国防相(当時)の初となるバハレーン訪問の際には治安面での協力に関わる了解覚書が二国間で交わされた※3。
尚これは、バハレーンに司令部を置く米軍第5艦隊(U.S. Fifth Fleet)による共同軍事演習のタイミングに合わせたもので、これにはイスラエルも参加していた。
バハレーンからすれば、中東における米国の軍事的プレゼンスを支え、さらにイスラエルと米国の軍事協力におけるプラットフォームとしての役割を担う国としての存在意義を、アブラハム合意を通して示しているとも言える。
「アブラハム合意」は広がるのか
貿易や技術協力に関しては、これまで公式にはゼロだった関係からの積み上げに成るため、大きな影響が生じるのは当然である。
ただしここでは、UAE・バハレーンだけで無くイスラエル、またアブラハム合意の仲介役である米国も積極的な情報発信を行った事が重要である。
とりわけイスラエルには、アブラハム合意に加わることで得られる実利を詳らかにし、それを他のアラブ諸国に対する訴求力としたいとの思惑がうかがえた。
しかしながら、アブラハム合意と言うチームはいまだ拡大の兆しを見せていない。
目下、イスラエルと米国が白羽の矢を立てている筆頭はサウジアラビアである。
アラブ・イスラーム世界の盟主を自認し、イスラーム協力機構(OIC)やOPEC及びOPECプラスの牽引国として地域・国際レベルで強い影響力を有して居り、尚かつイスラエルが(そして米国が中東で)最も警戒するイランと競合する国だ。
ただし、サウジアラビアは正にそのアラブ・イスラーム世界の盟主という立場から、自らが2002年(令和4年)に提案した和平構想(イスラエルによるパレスチナ占領地からの撤退、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の樹立。即ち二国家解決案)を、妥協不可能な大原則としている。
これによって、イスラエルとの国交正常化は同国がパレスチナに譲歩を見せるかどうか次第だとする立場を明確にした。
それでもイスラエルと米国は、折に触れてサウジアラビアがアブラハム合意に加わる可能性に言及し、この話題自体を風化しないように努めている。
例えばサウジアラビアが2020年(令和2年)9月にイスラエル・UAE間の就航便の領空通過を許可した際に続き、2022年(令和4年)7月にバイデン米大統領がイスラエルから直接サウジアラビアを訪問する事を許可した際にも、イスラエルと米国はこれを国交正常化に向けた第一歩としてアピールした。
また、2023年(令和5年)のメッカ巡礼期間に先立ち、イスラエルは自国のイスラーム教徒が直行便でサウジアラビアに渡航出来る様に成るとの見通しを示すなど、サウジアラビアのアブラハム合意参加が着実に進んでいるムードを醸成しようとした。
しかし、これは結局実現せず、イスラエルも米国も、サウジアラビアの早期のアブラハム合意参加は「不可能ではない」が「困難」と述べるに留まった。
UAE・バハレーンの例をみても、サウジアラビアがアラブハム合意に参加するためには、それをサウジアラビア自身によるサウジアラビアのための英断と位置づけるようなプロットが必須である。
自陣がサウジアラビアを翻意させたというプロットにイスラエルと米国がこだわる限り、サウジアラビアが一歩を踏み出す可能性は低い。
さらにいえば、イスラエルはイランの存在を念頭に、アブラハム合意に対して安全保障環境の整備と言う意義を持たせて来た。
その点、2023年(令和5年)3月、サウジアラビアがイランと国交回復で合意した事はイスラエルにとって新たな障害と言える。
(中略)
写真 2022年(令和4年)12月にドバイにオープンしたUAE初のコシェル食料品店。イスラエルや米国からの輸入品が中心と成る(筆者撮影)。
(中略)
何のための「アブラハム合意」か
以上、アブラハム合意を巡って各国が試みて来た多様な位置付け、また活用の事例の一端を紹介した。上述した様に、このチームは今後のさらなる拡大を志向している。
それはイスラエル・米国に取ってはもちろん、UAEやバハレーンに取っても自国の「悪目立ち」が軽減されると言った期待があると思われる。
尚、イスラエルに関して言えば、現在サウジアラビアへのアプローチを強めている背景には2つの要因がある。
ひとつは、既に述べた同国とイランとの国交回復だ。
最近になって、シン・ベト(総保安庁)やモサド(諜報特務庁)を通してイランの潜在的な脅威を声高に叫んでいるのは、アラブ諸国がイランへの警戒を維持する事を望んでのことだろう。
もうひとつは、ネタニヤフ政権が2023年(令和5年)1月に発表した司法制度改革案に対し、国内で幅広い層の市民による抗議運動が起こっている事だ。
イスラエル政府としては、市民の目を国外、とりわけ国内に影響を及ぼす安全保障分野に向けさせる事で政権に対する批判を緩和させる狙いが見られ、そこで強調されるのが、サウジアラビアとの国交正常化と言う偉業に政府が挑んでいると言うストーリーだ。
最もこうした意図を見透かしてか、司法制度改革案に反対する野党イェシュ・アティドのラピード党首(元首相)と、彼と共に政党連合「青と白」の共同代表を務めるガンツ議員(元国防相)は、サウジアラビアとの国交正常化を理由に自分達がネタニヤフ政権に与する事は無いと、政府を牽制する場面が見られた※5。
あるいは、こうした状況が続けば、サウジアラビアとしてはアブラハム合意への参加に際して多大な恩をイスラエルや米国に売る事も可能かも知れない。
(中略)
- ※1 唯一、UAEがイスラエルに対して成した成果と見られたのが、国交正常化合意の発表当時、イスラエルが計画していたヨルダン川西岸地区の併合計画を延期したことである。
- ※2 UAE’s Ministry of Economy, “UAE-Israel Comprehensive Economic Partnership Agreement” (https://www.moec.gov.ae/en/cepa_israel, accessed August 18, 2023).
- ※3 “Israel signs security cooperation agreement with Bahrain,” Al-Monitor, February 3, 2022 (https://www.al-monitor.com/originals/2022/02/israel-signs-security-cooperation-agreement-bahrain, accessed August 18, 2023).
- ※4 高尾賢一郎「アブラハム合意後のアラブ諸国・イスラエル関係と湾岸ユダヤ関係(AGJC)」『中東分析レポート』R22-01、2022年4月、TAKAO Kenichiro, “Exposing the Tradition: Tolerance and Coexistence with Jews in the Contemporary Persian Gulf,” ORIENT: Journal of the Society for Near Eastern Studies in Japan, vol. 58, pp. 37-50.
- ※5 “Lapid, Gants said to reject possibility of joining Netanyahu coalition for Saudi deal,” The Times of Israel, July 31, 2023.
と言う事でした。素晴らしい論文、かなり中東情勢が理解出来た感じがしています。
ところで、先日、新聞を読んでいましたら、『宮狭(みやさ)』姓の方が登場。
由来に興味を持ちましたため、少し調べて見る事にしました。
以下、日本姓氏語源辞典に記載されていた内容を転載させて頂きます。
尚、主旨が変わらない程度で、小職が書き換えています。
奈良県奈良市須川町の小字の宮ノ狭から発祥。同地付近に分布あり、とありました。
では、本日の小職の予定です。
今日は、先ず、教育事案に伍します。
その後、多くの時間、山積している書類と格闘します。