聖は死ぬ間際
私に『生きろ』と言った
私は今世でもその言葉を守り
彼の遺言に従い何があっても生き抜いてきた
..本当に、何があっても
私は今世、ほんとうは
聖と生きたかった
それは叶わなかったが
22歳の時
高野山の奥の院で聖と話した
まるで中学生の初デートかよと
思うほど緊張した
空海様から与えられた時間は
短かったが
400年ぶりに呼吸したような
心地よい気分だった
昔と変わらぬ穏やかな話し方
柔和な笑顔
言葉の足らない腹の立つ性格も
何一つ変わらない
最愛の友
なぜ転生しなかったと
責めた私に
「共に生きる方法は1つじゃない」
と言った
聖の言葉は回りくどい
けれどいつだって
私の胸には
その真意が染み込んでくる
私は自分に呪いをかけた結果
幾度も転生を繰り返し
その度に記憶を引き継ぐ生成りだ
聖は普通の人間
私に付き合って
記憶を引き継ぐことは出来ない
だから聖は
転生の輪に入らなかった
「私は転ずれば貴女を忘れてしまう」
「共に生きようと言ったろう」
あの時の笑顔だけで
私は人生を
完遂したような気分だった
「同じ空の下で繋がっていれば
いつだって
心は共に生きている」
現代の言葉で言うなら
聖は私の“推し”なのだ