.. | 比翼連理 ~執事の愛が重い件~

比翼連理 ~執事の愛が重い件~

当ブログは、年の差11歳の主従が送る日常の風景。ネグレクトの母から赤子の私を引き取り育ててくれた付き人の白侶(ハクロ)は、その美貌と優雅さで見る者を虜にする外面の良い悪魔。そんな彼のドス黒い“本性”を主人ならではの目線で書き綴るノンフィクションです。

あ ま り に 急 す ぎ て 、
驚 き 過 ぎ て  金 縛 り に な っ た 。






「正面」から抱き締められたのは初めてで、それも、いつもとは違う抱き方だった。


いつもは、“護るため”に。

それ以外の無駄はなく、余計な動きも一切しない。
普段は、ね。





左首に、顔を埋めるのが癖なのかも。

普段後ろからくる時も、必ず顔を埋めてくる。


仕舞いには、痺れて、まったく動けなくなった・・・



何度か噛まれた。

強くじゃないけど。
それが却ってくすぐたかった。


噛むのも癖だ。
大型の犬みたい。

頭を押さえれたら、動けない。
強引に後ろ髪を引っ張られたら───抗えない。


痺れはどんどん広がって、気が付いたら金縛り状態。

起きてて金縛りになるなんて・・・・・


もしかしたら、「魂縛」でも掛けられたのかも知れない。

何でも出来る奴だから。
それくらい、簡単にやってのける。




くすぐったさと、驚愕と困惑と羞恥。

入り交じって、訳の解らなくなった全神経。


痺れた左半身、
動かない腕。

押し返すことも出来ず、
話すことも許されない。




腕はおろか、緊張で指一本動かせないまま、数分。

為す術なんて無い。


・・・あったとして、一体どうしろって言うんだ。



普段、「正面」から抱き締められる事はない。
あれが私の前に立つことは、滅多に無いから。





───バレンタイン当日。


自分が「壊滅的料理音痴」だとは知っていたけど・・・

バカでも生チョコくらい作れるだろうと言われて、普段世話になっている妻と、あいつの分だけ手作った。

『その位してもバチは当たらない』
『日頃の“感謝”不足のツケを払え』

周囲から、散々な言われよう。


けど、否定はしなかった。
概ねその通りだし。


で、なるほどバカでも簡単に作れた「生チョコ」を、相手のイメージに合った白銀色のBOXに詰めて渡した。


私がしたのはそれだけ。

本当にそれだけだ。


正座して、
顔も見ないままそっぽ向いて・・・

こっそり、
人知れず渡した結果が───



───これである。





驚 き す ぎ て 、
驚 愕 を 通 り 越 し て 放 心 し た 。


家出した心臓が、まだ戻って来てない。



奴は結局、礼の言葉も無いまま去った。

一度も顔を見ないままの私と、
見ることを許さなかった奴と。


ただ、何故か綺麗な笑顔を見た気がしたのは───

気のせいじゃないと思う。


見たこと無い顔だった。
もしかしたら違う人の顔を錯覚したのかもと思うくらい、人が違ってた。

意地の悪い笑みを浮かべることはあっても、笑うことなんて無い奴だったのに。


・・・・・・・ビックリした・・・


それしか感想はない。



物心ついてから初めて───「正面」───から抱き締められた。

それは脅威から護る為でも・・・
自分が育てた“子供”を、あやす為でもない。



ああいう顔もするんだ…



あんなに喜ぶなら、
もっと前からあげれば良かった。


そうも思うけど───

衝撃の「正面ハグ」をされながら、自分はきっと、来世でもその先でも、アイツとの“契約”だけは果たさないだろうと確信した。


本人に言ったらどうなることか。

けど、やっぱり、そう。


私は、




お前だけは、

選ばない。





私の転生はあと二回。

古くて、ヒビの入ったこの魂は、その二回のうちに完全に砕け散るそうだ。


奴のことだから、その時が来たら私に付き合うに決まってる。
元々、それを望んでいたんだし。

だからこそ、



お前の“想い”にだけは、
気付かない振りをしてきた。



それが私なりの、返答だったんだよ。



私は、


初めて私に愛をくれたお前だけは、
恐れずに、抱き締めてくれたお前だけは、

傍で、ずっと護ってくれたお前だけは───





生かしたい...


願わくは、消えないで。
俺に、付き合わないで。

もう傍にいなくてもいいから、

どうか自分の人生を、
“魂”の天寿を、

全うしてよ...