4-1 家計と流通
1⃣経済と家計
(1) 経済…商品を作ったり、使ったりする人間の活動の総称。商品を作ることを生産といい、商品を使うこ
と消費という
① 財(モノ)…食べ物や衣類などの形のある商品
② サービス …電車に乗ったり、美容室で髪を切ったりするなど、形のない商品
③ 情報 …統計データや個人情報など、売買できる情報
(2) 家計…消費活動を行う最小単位、家族や個人など、消費者となる人々をいう。
① 所得…消費を行うための家計の収入、企業で働く報酬の給与所得、個人で農業や商店、会社を経営している消費者が手に入れる事業所得、所有している不動産や株式から得る財産所得の3つがある。
② 消費支出…衣食や教育、医療など現在の生活に必要な商品に対する支出のこと
③ 貯蓄…将来の消費に備えてためておくお金。所得から消費支出と税金、社会保険料を差し引いた残りのお金で、銀行貯金や生命保険料の支払いなどに充てられる。
(3) 消費者問題…情報格差などにより、消費者が売り手に対して不利な立場であることが原因となり生じる問題のこと。医薬品、食品の健康被害や欠陥住宅、詐欺などがある。
① 契約自由の原則…売り手と買い手の合意である契約をそのような内容にするか、どのような方法で結ぶ
かは基本的に自由であるということ
② 消費者の保護…消費者問題を防ぐために行政は自由契約の原則に任せるだけでなく、消費者の権利を保
障する必要がある。1962年、アメリカのケネデイ大統領は消費者の4つの権利とし
て、商品の安全を求める権利、商品についての情報を知らされる権利、商品を選択す
る権利、消費者の意見を商品に反映させる権利を掲げた。
消費者庁の設置…2009年に消費者行政を一元化するために設置された。
製造物責任法(PL法)…欠陥商品で消費者が不利益を受けたとき、企業の責任を定めた法律。
クーリングオフ制度…訪問販売や電話勧誘で商品を購入した場合、8日以内であれば消費者側から契約を取り消すことができる制度
2⃣流通
(1) 流通…生産された商品が消費者に届くまでの流れのこと
商業…流通を専門的に行う小売業や卸売業のこと
小売業者…商品を消費者に届ける業者、スーパーやコンビニエンスストアなど。
卸売業者…生産を行う製造業者や産地から商品を買い付け、小売業者に売る業者
卸売市場…野菜や魚などの生鮮食品が産地から集められセリにかけられる場所
流通関連業…運送業、倉庫業、保険業、広告業など商品の売買にかかわる業者
(2) 流通の合理化…効率的な流通のあり方を模索する中で、これまでの業者を介さずに単純化すること
直接仕入れ…大規模小売業者(イオンなど)卸売業者を通さず、商品を産地から直接仕入れること
一括仕入れ…チェーン店やフランチャイズ店を展開する小売業者(コンビニエンスストアなど)がたく
さんの商品をまとめて仕入れること
4-2企業と労働者の権利
1⃣企業
(1) 企業…基本的な経済活動である生産と消費のうち、生産を担う主体となる組織
資本と呼ばれる資金を元手に設立され、財やサービスを生産・提供する。
① 目的による企業の分類
私企業…利潤の獲得(お金儲け)を目的とする民間企業
公企業…公共の目的のために、国や地方公共団体が資金を出して運営する企業。水道、ガス、公立病院
など。
② 規模による分類
多国籍企業…世界各地に生産拠点などがある企業
大企業…資本金と従業員数が一定より大きい企業
中小企業…日本国内の事業所数の99%がこれにあたり、従業員数も75%を占めている
独自の技術を用いて新たに産業を興すベンチャー企業などもこれにあたる
(2) 株式会社…私企業の代表的な企業形態
① 仕組み…設立者は株式を発行し、それを売ることで資本金を集め、事業を始める。株式の購入者は株主
と呼ばれ、株式会社の事業による利潤・利益の一部を配当金として受け取ることができる。株
式会社の経営方針は株主総会で決定される。株主は投資家のほかに、投機的取引による利ザヤ
を目的としたデイトレーダーと呼ばれる人々もいる
② 証券取引所…発行された株式を売買する場所(株式の売買を行うことで株式市場を形成する)
(3) 企業の社会的責任(CSR)…企業の規模が大きくなると企業活動が社会に大きな影響を及ぼすように
なる。企業は利潤・利益の追求だけでなく、教育や文化、環境保全など
で社会貢献を行うことも求められる。
2⃣労働者の権利
(1) 労働者の権利と義務…国民は勤労の義務を有するが、労働者は使用者である企業に対して弱い立場でも
あるため、労働者の人権は法律によって保障されている
① 労働基準法…労働時間や休日など労働条件について最低限の基準を定める法律
男女同一賃金、労働時間週40時間、1日8時間以内、少なくとも週1回の休日など。
② 労働組合法…憲法に定められている労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を保障する法律。
③ 労働関係調整法…労働者と使用者の対立を防止、解決するための法律。
(2) ワークライフバランス…労働時間を減らしたり、分担すること(ワークシェアリング)によって、
仕事と家庭生活や地域生活と両立できるようにバランスを整えること
(3)多様化する労働者…かつて日本では終身雇用と年功序列賃金のもとで働く正規労働者が多くみられた
が、グローバル化やITの技術革新、コロナ禍によって労働環境が大きく変わり、
在宅ワークやフレックス勤務などが推進されている
① 非正規労働者…パートやアルバイト、派遣労働者、契約労働者のこと。正規労働者と比べ、
賃金(給料)が少なく、雇用期間などが不安定。日本の労働者の40%を占め、
ワーキングプアなどの社会問題となっている場合もある。
② 外国人労働者…日本で働く外国人労働者。特定技能研修制度などによって来日している場合もある
外国人が多い地域では外国人参政権の問題も議論が進んでいる。
4-3市場経済と金融
1⃣市場経済…
(1) 市場経済…モノの売り買いによって成り立つ経済。
資本主義経済とも呼ばれる。商品が売買される場としての市場が世の中の隅々まで張り巡らされている経済のあり様。各商品の生産量が調整され、生産資源が無駄なく効率的に利用されることを想定している。
① 均衡価格…消費者が商品を買おうとする量(需要量)と生産者が
商品を売ろうとする量(供給量)のバランスが最も取
れた時の商品の価格。
② 市場価格…実際にモノの売り買いに使われる価格。需要量と
供給量の関係で常に変動しているが、自由な競
争による商品の売り買いにが達成されることで、アダム・スミスのいう「神の見えざる手」
=市場メカニズムによって、常に均衡価格に近付いていく性質を持っている。
貯蔵のできない生鮮食品や総菜などはその変化が速い。
(2) 市場経済の例外
① 独占・寡占…市場において商品を供給する企業が1社だけ、もしくは少数の状態。1つの企業が独断
で、あるいは少数の企業の結託(カルテル)によって価格や生産量を決めることで、市場
経済における自由な競争が阻害され、消費者が不当に高い価格で商品を買うことになるな
ど、不利益を被ることがある。このため、独占禁止法などの法令により、独占・寡占の状
態での不当な価格操作は禁止されており、公正取引委員会が監視にあたっている。
② 公共料金…地域寡占となっている電気、ガス、水道、公共交通機関などの価格は大きく変動すると国民
生活に大きな影響を与えるため、国や地方公共団体が管理・決定している。
2⃣金融
(1) 金融の方法
① 直接金融…企業や個人が株式や債券などを発行して出資者から直接資金を集めること。
クラウドファンディングもこれに該当する
② 間接金融…企業や個人が銀行などを仲介して資金を集めること。
(2) 一般の銀行の役割
① 貸し出し…人々の貯蓄(預金)として預かったお金をもとに、資金を必要とする個人や企業に貸し出し
をする。資金の借り手は借り入れた金額の返済に加え、利子・利息を支払う必要がある。
利子の利率を金利というが、貸し出し金利のほうが預金金利よりも高くなる。貸し出し金
利は借り手の個人や企業が銀行に返済する際の利子、預金金利は銀行が預金をした人々へ支
払う金利である。
銀行はこの差額を利益として活動している。
② 為替…銀行振り込みなどを通して離れた土地にお金を送ることができる。
電子マネーやクレジットカードなどもこれに含まれる。
(3) 日銀行の役割…日本の中央銀行としての役割を担っている。
① 発券銀行…日本銀行券として、紙幣の発行を行っている。
② 政府の銀行…政府の資金である税金の管理を行う
③ 銀行の銀行…一般の銀行に対して、資金の貸し出しなどを行う
4-4財政と社会保障
1⃣財政
(1) 財政…国や地方公共団体が行う経済活動のこと。1年間の税金の使い道を予算として審議することから始まる。
(2) 国の歳入…国の収入。税金(租税及び印紙収入)と国債
(公債金)で賄われる
① 税金…国が集める税金を国税、地方自治体が集める税
金を地方税と呼ぶ
② 直接税…税金を納める人と負担する人が同じである
税金。企業が納める法人税や個人が納める
所得税、相続税など。税金の公平性を保つために所得税には所得が多い人ほど税率が高くなる
累進課税制度がとられている。
③ 間接税…税金を納める人と負担する人が異なる税金。消費税の場合、消費者がお店に税金を払い、
お店がまとめて国に治める。消費税は所得が低い人ほど、所得のおける税負担の割合が高く
なる傾向があり、税金の公平性の観点から問題があるといわれている。これを逆進性という。
④ 国債…国の借金のこと。税金収入では国の支出を賄えないため、国債が発行される。
歳入全体の5割を占める。
(3) 国の歳出…国の支出。民間企業だけでは賄えない、社会資本と公共サービスの提供に使われる
① 社会保障関係費…憲法25条に定められた生存権を保障するための支出。歳出全体の3割に上る
② 国債費…国債の返済や利子の支払に用いられる支出。歳出全体の25%ほどになる。
③ 地方交付税交付金…地方公共団体間の財政格差の是正のために分配される補助金
④ 公共事業関係費…道路や港湾、橋、学校の校舎の建て替えなどの社会資本を提供するための支出
⑤ 文教及び科学振興費…教育にかかわる支出
⑥ 防衛関係費…自衛隊や国防施設関連に使われる支出
2⃣社会保障
4つの柱
① 社会保険…一定の年齢に達したときに受け取れる年金制度や医療保険、介護保険など。
② 公的扶助…生活保護法に基づき、生活費や教育費などを支給すること。
③ 社会福祉…高齢者や障がい者、子どもなど社会的弱者を支援すること。
④ 公衆衛生…感染症対策や上下水道整備を行うこと。
今後の課題…少子高齢化により給付額は増加する一方、税金収入と保険料収入が減少していくことが課題である。それを補うために2000年に介護保険制度が導入されたが、少子高齢化による現役世代の減少の根本的な解決ができなくなっているために、今後の税制改革や年金制度改革、財政支出の節約を行わないと、財政破綻の危機を迎えることが叫ばれている。
4-5景気変動と為替相場
1⃣景気変動
(1) 景気…経済全体の動きのこと、好景気と不景気が交互に繰り返すことを景気変動(景気循環)という。
① 好景気(好況)…景気が良くなり、商品が売れ、企業の利益が増加し、消費者の所得が増えて消費が拡大し、商品の需要量が増加する。この場合、物価が上昇していくインフレーション(インフレ)が起こりやすくなり、お金の価値が相対的に下がる。
② 不景気(不況)…景気が悪くなり、商品が売れず、企業の業績が悪化し、消費者の所得が減るため、消費が縮小し、商品の需要量が減少する。この場合、物価が下落していくデフレーション(デフレ)に陥りやすい。お金の価値が相対的に上がる。
(2) 財政政策…国の歳入や歳出を通じて景気を安定的に成長させようとする政策
① 好景気の時…景気が良くなりすぎ、バブル景気やインフレが起こることを抑えるために、公共事業を減らして市場に投入される公的資金を減らすことで民間企業の仕事を減らしたり、増税を実施して消費者の消費行動を抑制したりする。
② 不景気の時…景気の回復を促すために、公共事業への支出を増やして市場に公的資金を投入し、民間企業の仕事を増やしたり、減税を行って消費者の消費行動を促進させる。
(3) 金融政策…日本銀行が行う公開市場操作を通じて景気を安定的に成長させようとする政策
① 好景気の時…景気の加速を抑えるために、国債の債権を一般銀行に売る売りオペを行うことで市場に出
回っている現金を日本銀行が回収することで、市場における現金の量を減らし、一般銀行
の資金量を減らして、企業や個人への貸し出し量を減らすことで景気を抑制する
② 不景気の時…景気の回復を促すために国債の債権を一般銀行から買い上げる買いオペを実施して、一般
銀行を通じて市場に現金を投入し、企業や個人への貸し出し量を増やすことで景気を促進
する。
2⃣為替相場
(1) 為替相場…異なる国の通貨と通貨を交換する比率のこと
① 円高…1ドル=100円が1ドル=50円となるときのように、外国通貨に対して円の価値が高くなる
こと。輸出には不利になり、輸入には有利になる
② 円安…1ドル=100円が1ドル=200円になるときのように、外国通貨化に対して円の価値が低く
なること。輸出には有利になり、輸入には不利になる
(2) 産業の空洞化…工場の海外移転や部品調達先の海外企業への切り替え、安い労働力の確保など、様々な
理由で国内企業が海外へ流出し、国内産業が衰退していく現象
5-1国際社会と日本
1⃣国際社会の仕組み
(①) 国際連合(国連)…世界の平和と安全の維持、国際協力の推進を目指して1945年に発足した組織
① 加盟国193か国。すべての加盟国で構成されている総会をはじめ、最も強い権限を持つ安全保障理事会などの機関が設置されており、本部はアメリカのニューヨークにある。安全保障理事会の常任理事国はアメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスであり、この5つの国々には拒否権が与えられている。一つの国でも拒否権を使うと政策決定や国連決議を採択できないために、冷戦構造化ではアメリカと旧ソ連が対立したために、安全保障理事会が事実上の機能不全に陥った。
世界遺産登録など行うUNESCOなど専門機関がおかれ、国連と連携して活動している。
(②) 地域主義(リージョナリズム)…EU(ヨーロッパ連合)に代表されるような経済、環境、安全保障の
分野で同じ課題を抱えている国同士が特定の地域でまとまりを作り、
協調や協力を強めようとする動き
(③) 国際問題
① 地球環境問題…地球温暖化などはじめとした地球全体で取り組まなければならない諸問題。
地球温暖化については1997年に温室効果ガスの排出削減目標を具体的に数値で示した
京都議定書やそれをさらに進めたパリ協定などがある。
② 資源・エネルギー問題…世界のエネルギー消費量は年々増加しているが、石炭、石油、天然ガス等の
地下資源・化石燃料は埋蔵量に限りがあり、枯渇が叫ばれている。そこで資源
確保の問題がなく二酸化炭素も排出しない太陽光や風力、地熱、バイオマスな
どの再生可能エネルギーの開発が急がれている
③ 貧困問題…世界の人口は73億人を超え、2050年には100億人に達するといわれている。
その中で10億人に人々が貧困状態にあり、食糧問題の解決やフードロスをなくす取り組み
が急務である。世界保健機関(WHO)や非政府組織(NGO)が解決に向けて活動している。
④ 新しい戦争…現在のウクライナとロシアに代表されるような地域紛争やテロなど、安全保障環境が逼
迫していることは明白である。地域紛争による難民などの支援については、国連難民高等
弁務官事務所(UNHCR)が対応している。今後は台湾有事や朝鮮半島などでの軍事衝突も
懸念されている。
2⃣国際社会と日本
(1) 国際貢献…日本は発展途上国の開発支援のために、資金援助である政府開発援助(ODA)のほかに国連
が行う平和維持活動(PKO)に自衛隊を派遣するなど、国際社会の安定と発展に向けて取り
組んでいるが、憲法9条などにより、有事の際の戦闘行為が制限されている。旧日本軍の
戦争経験から、自衛隊の最高司令官は内閣総理大臣であり、専守防衛以外の活動には、首
相の武力行使命令が必要である(文民統制・シビリアンコントロール)
(2) 領土問題…日本は戦後処理によって各国と領土問題を残している
① 北方領土…ロシアが実効支配している択捉島、国後島、歯舞群島、色丹島の4島。太平洋戦争末期に
旧ソ連が日ソ中立条約を破棄して軍事侵攻し、火事場泥棒的に奪った島嶼群で、樺太千島交
換条約以後、日本固有の領土である。
② 竹島…韓国が不法に占拠している島根県遠洋の島。戦後に韓国が李承晩ラインと称して一方的に領有権
を主張し始めたが、歴史的にも日本固有の領土である。
③ 尖閣諸島…石油などが埋蔵されている可能性が指摘された後、中国や台湾が領有を主張している島嶼
群。中国が領海侵入を繰り返しているが、当然日本固有の量であるため、この地域に領土
問題は存在しないというのが我が国の公式見解である。