其れはそれ 此れはこれだと 割り切って

   未練断ちても 影は寄り添う

 

 「其れはそれ,此れはこれだと,割り切る」ことは理性的な行動であるところ,感情はそれとは別の次元にあり,頭では「仕方ない」と分かっていても,心が追い付かないという気持ちを,誰しもが一度は経験するようです。

 

 「情け」や「未練」は,弱さと捉えられることもあるようですが,それは裏を返せば「人間らしさ」の証かと思われ,特に日本文化では「未練がましい」ことを悪としながらも,「情を忘れぬ人」を美徳としても尊ぶこともあり,

 

 記憶や感情は完全に消えるのではなく,むしろ,その人の人格や人生観に深く根ざしていくもので,何かの匂い・風景・言葉に触れたときに,ふと浮かび上がる「影」は,過去が「今の自分」に寄り添っている証でもあるのではなかろうかと考えておりました。

 

 そんなことで,生きている限り,人は理性で割り切っても,心の奥底にある「情け」や「記憶」は,まるで影のように付き添ってくるものと思われ,それは人間である証であり,ある意味で美しいことでもあるのでしょう。