女ごころ
9月8日(金)午前1時40分
先ほど勤務を終え、寮に帰ったところです。
9月5日は、午後1時に実家を出発し、宮崎市内の姉の家へ寄り、東京の寮へは午後9時15分に着きました。
あっという間の、お休みでした。
昨晩は準夜でしたが、まだ疲れが残っていたのか、眠くて仕方なかったです。
寮に帰ると、直からの手紙が、2通も届いてました。
社員住宅での一人暮らしは、大変でしょうが当分続きそうですね。
宮崎の家へ帰り、二日間だけど両親と話し合い、結果として、東京の病院で働く事になりました。
私としては、とても働き辛いのですが、身から出た錆だと思い、我慢して真面目に働きます。
今の私には、それしかありません。
両親の反対を押し切って、四国へ行こうという考えが、今は遠のいてしましました。
とても無責任だと、思っているでしょうが、結局のところ、私は親を裏切る事は出来ないようです。
結婚するにしても、皆に祝福されたいと思うし、養子を迎えるかも知れない自分の立場を、今はじっくり考え直したいのです。
直には、謝るにしても適切な言葉が見つからず、ただ申し訳ないと思ってます。
両親も姉・兄も、直という人間に対しては不満はないとのことですが、賛成はしてくれませんでした。
東京を離れるなら、私をどうしても、実家の近くに住まわせたいようです。
両親の、そういった気持ちが十分わかるだけに、私の一大決心も鈍ってしまったのです。
だから、今の私は、早まった言動を慎まなくてはと思っています。
それゆえに、2年間待って欲しいという事は、自信が持てず直には言えないし、私の気持ちだって、何時どのように変化するのか想像もつかないのです。
でも、これからも今までとおり、直と付き合いたいとは思ってます。
さて、一人暮らしは如何ですか。
食事・洗濯・掃除と大変でしょうが、身体に無理をしないよう頑張って下さい。
休みの日には、社員住宅に居るより、松山の実家へ帰った方が良いのでしょうね。
今からの1年半を、私は東京で看護婦として働き、その間に何か資格を得たいと思ってます。
好奇心を大いに生かし、常識を身につけて、人間的に成長したいのです。
こちらに居ると、仕事や友人とのお付き合いで、毎日が過ぎるので気が紛れます。
結婚とは、何でしょう。
互いの愛情だけでは、成り立たないものなのかしら。
私は、周囲に負けてしまったようです。
それと、直に対する私自身の気持ちが、いかなる状態であったのか、疑問にさえ感じているのです。
7月には、まだ結婚したくないと思っていたのに、8月になれば一日も早く結婚したいと考えるようになった。
こうして振り返れば、昨年の12月に知り合った時には、今日まで付き合うことすら考えてもなかったし、ましてや結婚のことを考えるなんて、夢にも思わなかったのです。
そして、今の私自身が、何故このような気持ちになっているのかが、不思議でさえあるのです。
私は、占いによると晩婚だそうですが、今の時代は何歳をそう呼ぶのかしら。
何れにしても、24歳までは結婚出来そうにありません。
結婚して落ち着いた家庭を築き、毎日楽しい生活を送りたいと憧れて、そんな夢ばかりを見ていたのでしょう。
私の両親は年老いてます。
姉が結婚しているだけに、私は両親の事を考えているのです。
今回の帰郷で、それを実感しました。
兄がいるから、当然に両親の面倒を見るべきでしょうが、もし見ないとすれば残るは私になります。
直だって、長男だから将来的には家の後継ぎとして、両親の面倒を見ることになるんでしょう。
でも、直が両親の世話をしないとすれば、残った妹や弟さんが、代わりを努めるのと同じような事なのかな。
自分勝手な考えだと、思われても仕方ありません。
10月に東京へ来るなら、9月20日までに予定を知らせて下さい。
その頃には、勤務表が出来るので、私も直の予定に合わせて、休みを取りたいと思います。
では、健康を維持し、公私共に頑張って下さい。
また、お便りします。
9月30日(土)午後1時30分
久しぶりに投函するつもりで、ペンを持ちました。
宮崎から帰寮した後も、毎日の生活そのものに特別な変化はないけれど、何かが違うように感じております。
直との結婚については、時々考える事があり、親に反対されたからと言ってあきらめるのはおかしいのかも知れないけれど、親の反対により、私の考えが変化しているのは事実です。
結婚するのは自分たちなんだから、直と私の気持ちが第一だと強い意志を持っていたのに、何故だかその気持ちが揺らぎはじめて、今では90パーセント直との結婚をあきらめています。
私の両親の気持ちが、良くわかりました。
以前おじいちゃんが危篤で、病院へ駆けつけた事があったけれど、あんな時だって遠くで生活していたら、間に合わないことだってあると皆から言われたの。
直は、いい人だけど世の中にはいい人は沢山いるから、実家近くの人と結婚するよう勧められました。
直は、私の性格を知ってますか。
恋においては、燃えにくいけど、何かのきっかけで燃え出したら激しくて、その気持ちを自分では抑えられない程になるのに、ある時突然に冷めてしまう性格を。
失恋の経験がない私ですが、その理由は自分の方から、離れてしまうからでしょう。
でも、その人たちとも未だに、友人として付き合いはしています。
直との事を思い出すと、急激な恋の進展だったようです。
知り合った頃は、結婚なんて考えもしなかったし、彼女のいた直にそんなことを望めもしなかったのです。
恋はシーソーゲームだと聞くけれど、何時までもシーソー状態ではいけないのでしょう。
直の事を、このままで良いのかと考えてます。
結婚を反対されたからと言って、これまでの付き合いをどうこうする必要はないと思うので、今までとおり手紙や電話でのやり取りはしたいと考えてます。
ただ、以前のように直との結婚を考えているばかりの、私ではなくなりました。
もう、四国へ行くことはないでしょう。
私が、こちらにいる事は、両親にとって心配な事です。
だから、両親といろいろ約束したので、今は心配を掛けまいと思ってます。
その約束のひとつに、四国へは行かない事も含まれています。
この手紙を読んでいて、直は何を感じているかしら。
私の、心変わりの速さに驚いているのかな。
心変わりと言うより、考えの軽さや甘さにあきれているのかしら。
男と女は、結婚を最終目的としてしか付き合いが出来ないと思ってるのでしたら、直との付き合いはこれで終わりにしたいと思います。
とにかく、今は結婚を、考えていないのです。
直とは、今後どう付き合えば良いのかと考える毎日であり、電話がかかってきたら何を話そうかと思う様になってしまいました。
直のこと、決して嫌いじゃないし、男性としても素敵だし人間的にも心の温かい良い人には違いないのに、何故こんな気持ちになってしまったのか、不思議でさえあるのです。
こんな事ばかり考えていると、私自身が参ってしまうので、何か新しい事を見つけ必死になりたいと思っています。
宮崎へ帰った事で、私の運命は大きく変化しました。
親の反対を押し切って、四国へ行く事は出来なかった。
理恵や美代ちゃんとも話をしましたが、彼女たちは残念に思っているようです。
古風な考えかも知れませんが、私の結婚は私だけのものではないのです。
今日は、9月最後の日ですね。
先月のこの頃は、9月末に荷物をまとめ、四国へ送ろうと思っていたのよね。
心変わりの早い、私かも知れないけれど、無理をして四国へ行ったとしても幸せにはなれないのでしょう。
明日から10月です。
新しく計画を立てて、生活してゆきたいと思ってます。
10月の勤務表を同封します。
10月から、週休2日制を試験的に実施するので、休みが9日間あります。
症例発表とか、勤務交替で忙しい月になりそうです。
10月には会えそうにありませんが、また逢って二人で町を歩きたいね。
この手紙を読み終える頃に、直の心はどのように変化するのかしら。
全く変化ないのかな。
それとも、反対意見や頭にきたことがあれば、手紙で知らせて下さい。
女心と秋の空と思ってるのかしら。