8月25日(金)午後1時40分 

 理恵は、帰る準備をしています。 

 私が、昨夜の準夜勤を終えて寮に帰ってから、今朝6時まで話をしていました。 

 それから10時まで睡眠し、昼食を済ませ今に至ってます。 

 何を話したかしら。 

 直とのこと、国試のこと、美代ちゃんとか友達のことを話していたら、あっという間に時間は過ぎてしまいました。 

 そして、私が病院を辞め、直と一緒に暮らすという事には、大賛成してくれましたよ。 

 何か、お祝いを美代ちゃんと、してくれるそうですが、期待しないでいましょう。 

 今日は、直から二通も便りが届いてました。 

 銀杏の葉が、二枚入ってました。ありがとう。 

 14時になったら、理恵が帰るので駅まで送ります。 

 だから、この続きはまた後で。 

 14時20分 

 理恵は、帰っちゃった。 

 今夜は、一人この部屋で、眠るのか。 

 9月の勤務は、先日の便りで知らせたけれど、出来れば30日に荷物を送り、同日この寮を出たいと思ってますが、今日病棟へ行って、それ以上の休みが取れるようだったら、少し早目に四国へ行きます。 

 あと1ヶ月だからね。 

 直は、もう東京に来る事はないのかな。 

 私も、来る事ないかもね。 

 でも、結婚してから改めて来ようね。 

 そんな機会も、きっとあるでしょう。 

 八王子・国立・新宿と、想い出の場所は沢山あります。 

 絶対に、来なくてはね。 

 私は、結婚しても、決して楽しい事ばかりじゃないと思うの。 

 仕事のことや人間関係で、時には直にあたる事もあるし、直も私のこと嫌いになる時もあるかも知れないしね。 

 でも、それで終わりにするのではなく、その時期を乗り越えなくてはね。 

 今から、そんな心配しているのよ。馬鹿ね。 

 千穂は、直の良い奥さんに、なれると思いますか。 

 気に入らない事があれば、遠慮しないで厳しく指導してね。 

 鈴虫との生活は、いかがでしょうか。 

 寂しさを、紛らわせてくれるのでしょうか。 

 私の手紙で、寂しさをぶっ飛ばして下さい。 
 

 8月26日(土)午後3時 

 昼過ぎに、父からの手紙が届いてました。 

 内容は、賛成も反対もしていません。 

 ただ「待ってます」との事でした。 

 それが当然の返事だと、私も思ってますが、直はどのように感じますか。 

 恐れることはない、何事もこれからが勝負です。 

 直の人柄は、会ってみないと分からないけど、二日間で分かってもらえるのでしょうか。 

 千穂の選んだ人なんだもの、間違いはないと自信は持ってます。 

 私は、幼い頃から自分の思い通りにならないと、気のすまない我がままな性格があります。 

 好奇心も、人並以上ありました。 

 ところで、看護学校を卒後する時に石田さんが「女としての幸せをつかみたい看護婦である前に一人の女性でありたい」と言った言葉を今でも忘れることが出来ません。 

 私も、そう思いました。 

 看護婦でもあるが、女性である事の方が、大切です。 

 直との結婚生活に不安はあります。 

 不安だらけと言った方がいいくらい。 

 でも、私たち二人なら、何とか上手くやって行けるのでは、ないかと思うのです。


 8月27日(日)午後8時30分 

 しのぎやすい夜です。 

 入浴を済ませ、ブドウを食べながら、手紙を書いてます。 

 今日も寮に帰ってみると、直からの手紙が届いてました。 

 私も、9月2日まであと何日かと数えながらの生活であり、直からの便りは一日を早くしてくれます。 

 だから私も、明日この手紙を出せるよう、今夜のうちに書いてしまいますね。 

 直の仕事は、相変わらず忙しくて、大変のようですね。 

 身体の方は、大丈夫ですか。 

 無理をしないよう、気をつけて下さい。 

 私の方は、痩せることを知らず、また肥えたみたい。 

 お腹が丸みを帯び、ウエストも2センチほど、大きくなってしましました。 

 これ以上太らないよう、気をつけますが、肥えたらごめんね。 

 結婚したら、もっと痩せて美しくなる努力をしますから。 

 再開の日まで、あと6日だよね。 

 今日まで、よく辛抱したと思うよ。 

 もう1ヵ月も、逢ってないんだね。 

 たった1ヵ月なのに、とても長く辛い日々でした。 

 この気持ちも、あと少しの間で、何とかおさまるのでしょう。 

 その日までに、もう一通手紙を書くことになると思います。 

 四国では、台風の影響はありませんか。 

 転勤先は、今日も雨だったのかな。 

 洗濯なんか大変ね。 

 それでは、仕事と家事に忙しい毎日でしょうが、頑張って下さい。 

 私も、勤務で失敗のないようにします。