8月18日(金)午後10時15分 

 先ほど、手紙を投函したばかりなのに、また、こうして書いてます。 

 くやしくて、どうしようもありません。 

 昨日は、婦長に病院を辞めたいと相談し、今朝は、総婦長に話してみました。 

 ところが、総婦長ったら文句ばかりなの。 

 二年という義務年限がある。奨学金を借りてるんでしょう。相手は何処のどんな人で歳はいくつか。付き合いは何時頃から。二年待てないとはろくな人ではない。あなたは常識がない。他の人や後輩に悪い影響を与えるとも言われました。 

 そして、これ以上は書くのも嫌になるくらいの意見も並べられたけれど、こちらも引き下がるのは嫌なので、次回に話す機会を下さいと言っておきました。 

 結婚という理由があっても駄目だなんて「オールドミスのひがみだろうか」と思いたくなります。 

 半年で病院を辞めることは、確かに短い期間だと私も思うけれど、これを口にするまでに私だって十分に考えての事なんだから。 

 やはり両親の賛成をもらい、何と思われようが退職願いを出します。 

 奨学金なんか、受けなければ良かったのにと、今になって思うのです。 

 9月末に辞めようと、計画を立てていたのに残念です。 

 12月に延ばすどころか、2年間は辞められそうにありません。 

 これからの一年半は、とても長くて耐えられません。 

 なのに、あの人たちは。 

 何か、いい知恵はありませんか。 

 神様も意地悪ね。 

 私に力を貸して欲しい。 

 辞めたいと一度思いつめたのに、これから一年以上働くなんて心苦しくて。

 そんなの、働く気にはなれないよ。 

 社会は、そんなに甘いものじゃありませんよ。 

 なんて言っちゃってさ。 

 もう本当に腹の立つこと。 

 一つ解決の見通しがたてば、また問題が起こる。前途多難だな。 

 千穂の愚痴ばかり書いちゃったね。でも怖がることはない。9月に入り直と逢って両親とも納得のゆくまで話し合いましょう。 

 そちらは転勤が決定して、その準備もあり毎日大変でしょうが、季節の変わり目なので身体を大切にして元気な姿で会いましょう。 

 いまだ腹立たしくて精神的にも不安定な私ですが、こんな事くらいで負けてはいられず、苦しみの後の楽しさは一層素晴らしいでしょうから、頑張らなくてはと思っています。 


 8月19日(土)午前11時 

 今朝も深夜明けで、総婦長と1時間以上話をしましたが、互いに意見は変わらず、結論として9月に宮崎へ帰り、両親と直と私で話し合った結果に基づき、もう一度話を聞いてもらう事になりました。 

 辞めようと決心したのに、これから一年以上も今の病院で働くというのは、実に酷な話です。 

 だから、こうして愚痴を手紙で書く事により、千穂自身が落ち着こうとしているの。 

 こうなると、頼りになるのは両親です。 

 やはり直との結婚について、賛成してもらい辞めるしかないのです。 

 東京では、一週間くらい雨が降ったり止んだりの、天気が続いております。 

 9月に、宮崎から帰って来る頃には、この雨も上がり、全てが良い結果であることを願ってます。 

 これまで、いろいろと苦しんできました。 

 総婦長には、直との付き合いは学生時代から続いており、3年目だと言っております。

 本当は、まだ1年にもならないのにね。 

 直は、転勤先での生活が始まったのかな。

 最初は大変でしょうが、私も直と協力して、明るい家庭を築きたいと思ってます。

 互いに、頑張りましょう。 

 苦しくて切ない時は、直の写真をながめ、気を紛らわせています。 

 うまくゴールイン出来たら、是非とも幸せになりたいね。 

 不幸になんて、なれはしない。 

 絶対に、幸せをつかみたい。 

 皆に、うらやましがられるほど幸せに。 

 両親からの便りはありません。

 でも大丈夫です。

 直のこと、私には自身があるんだもの。 

 9月2日、12時25分羽田発の飛行機で松山に行きます。 

 再度のおじゃまになりますが、御家族の皆様方に宜しくお伝え下さい。 
 

 8月22日(火)午後7時20分 

 9月2日まであと11日です。 

 何かと気遣いながらも、ここまで来ました。 

 転勤先での仕事とか、社員住宅の住み心地はいかがですか。 

 一人で寂しいのでしょうね。 

 すぐに行くから待っててね。 

 四国へ行けると決定した訳ではないのに、考えているのは直との新しい生活のことばかり。 

 病院を辞めるのは、一苦労ですが何とかします。 

 上司に対して、上手に説明出来ないこともあるので、最後には気まずく辞めるようになるかも知れないけれど、9月末か10月上旬で辞めさせてもらいます。 


 8月23日(水)午前9時50分 

 病院から帰ると、直からの手紙が届いてました。 

 社員住宅の様子が、おおむね分かったけれど、実際に見るまでは安心出来ません。 

 ところで良い知らせです。 

 先ほど、病院から帰ろうとしていた時に、総婦長に呼ばれ話をしたのです。 

 そこで総婦長から「五十嵐さんの気持ちわかりました。9月に帰郷するそうですが、その前に退職願を出しておきなさい。もし九州へ帰って辞めたくないと思ったら取り消せばいいことだし。病院としては1ヶ月前に届け出る事になっているから、いま退職願を出しておけば9月末で辞められるからね」とやさしい言葉を頂きました。 

 千穂は、もう嬉しくて飛び上がりたい気持ちだったけど、その気持ちを抑えてやっと寮に帰り着いたところです。 

 早速になりますが、明日は退職願を提出します。 

 そして、後は両親をいかに説得しようかと、意気込んでいる私なのです。 

 反対されたらその時に、それから先のことは考えましょう。 
  

 8月24日(木)午後1時20分 

 昨晩だけど、宮崎へ電話したら、母が出て「待ってるからね」と言ってくれました。 

 姉夫婦も、その日は実家に来ると話してたし、兄が宮崎駅まで迎えに来てくれるので心強いです。 

 今日は、看護婦の秋の国試があり、試験終了後に理恵がこちらの寮へ来ることになってます。 

 理恵には、私と直とのことを心配してもらっているので、これからの事を少し話そうと思ってます。 

 ところで、昨晩の電話によると、仕事がとても忙しいようですね。 

 10月になったら、私が手伝いに行きます。 

 それまでの1カ月は、一人では何かと大変でしょうが、頑張って下さい。 

 昨日ですが、退職願の用紙をもらい必要事項を記入したので、今日は準夜勤だけど提出します。 

 いよいよと、なりました。 

 あとは両親を説得するだけです。 

 荷物のほうは、本棚・冷蔵庫・食器棚・整理タンス等があり、運送会社に頼むことになるので調べておきます。 

 今日は、交通公社へ、飛行機の切符を取りに行ってました。 

 いよいよ直と逢える。 

 もう心は四国の方へ飛んで行ってます。 

 この一週間は、直の写真を見なかった日はありません。 

 また、手紙を読み返したりしています。 

 9月の勤務表が出来ました。 

 もし、9月末で辞めることになれば、25日からの夜勤を変更してもらおうかと思ってますが、最後だからそのままやり通すべきでしょうか。 

 とにかく、9月末で辞める予定にして、両親にもそのつもりで話をします。 

 新生活を夢見て、今日はこの辺で。