8月13日(日)午前2時7分 

 朝から雨が降ってます。 

 このところ、天気の移り変わりが激しくて、今日なんか、夏がいつの間にか過ぎ去ったように感じています。 

 航空券だけど、9月2日は宮崎行きの16時が取れなくて、松山行きの12時50分発が取れました。 

 だから、松山空港まで、迎えに来てね。 

 今の予定では、2日に松山へ着き一泊し、3日に二人で宮崎へ行き、4日に直は一人で松山へ帰るから、私は5日の18時30分宮崎発の飛行機で東京へ戻ります。 

 切符が取れたので、あとは計画を実行できます。 

 松山港から大分までの、船の方はお願いしますね。 

 近頃は、よく手紙を出してるから、4級から3級になってるのかな。 

 もしかして2級かな。 

 両親には昨日手紙を出し、直と二人で、9月3日に家に行くという内容にしておきました。

 そして、四国での写真も同封しました。さて、両親がどういう反応を示すのか楽しみであり不安でもあります。 

 最近思うことだけど、直は私に比べると大人ですね。 

 私は、年齢こそ22歳と大人の仲間入りをしているけれど、内容はまだまだ世間知らずの子供です。

 他人との付き合いも上手じゃないし、いわゆる世渡りが下手みたい。

 考え方が甘いのよきっと。

 でも、そこは直がカバーしてね。 

 それと、私は自分自身を表現するというか、自分の考えを相手に伝えるのが苦手なの。

 それでいて、自分の思い通りにならないと、嫌なのよね。

 本当に、自己中心的で困ってます。 

 そこのところ、直は私に比べ年が上だけでなく、内容もしっかりしているから安心できます。 

 今日は準夜なんだけど、電話かかってくるかな。 

 かけてね。待ってるから。 

 手紙に書こうと思っていた事だけど、病院を辞めるのは12月になる前でもいいんです。

 私は、なるべく早く辞めたいの。

 12月だと寒いし、年末で忙しいでしょう。

 10月でも、いいのです。

 病院の方は、1ヵ月前に言えば辞められるの。

 何となく、辞めてしまいそうな気がしてます。

 それには、私の両親や、直の両親の許しをもらわなくっちゃね。

 この話は宮崎へ帰った時に、ゆっくりと両親に話してみたいと思います。 

 前にも話したけれど、私の故郷は本当に田舎だから驚かないでね。 

 とても静かで、いい所でもあるけれど。 

 秋の国試が、8月24日にあります。

 理恵は、この日に私の寮へ来る事になっています。

 今度の試験で、全員合格すればいいのにね。

 皆頑張っているとは思うけれど。 

 夏は、もう終わりかしら。 

 麦わら帽子なんて、見かけなくなりました。 

 でも、天気の良い日なんか、蝉はしきりに鳴いてるよ。 

 最後の力を振り絞って、夏の終わりを告げてるみたい。 

 付き合い始めて、まだ一年にもならないのに、とても長い時間が過ぎたような気がするね。

 直はいい人なの。いい人よね。私は悪い人には出会わないみたい。 

 なかでも直は一番なのです。なんてベタほめ。 

 早く松山へ行きたいな。 

 さて、普段の私に戻りましょう。 

 このような手紙を書くのは嫌です。 

 あとあと、弱味を握られてしまうような、気がするので。 

 だから、何時もは書かないようにしているけど、このところの何通かは恋文みたいな内容になってしまいました。 

 9月2日に再会ですね。 

 今から楽しみにしています。 


 8月14日(月)午後1時10分 

 さっき、直から電話がありました。 

 昨夜とは違って、言葉がはっきりしていました。 

 転勤は8月18日に、決定したそうですね。 

 社員住宅での、一人暮らしは、辛い事もあると思われます。 

 だけど、9月3日に宮崎へ帰り、両親に賛成してもらわないことには、病院を辞める訳にはいかないの。 

 もちろん、千穂は直の転勤先へ、行きたい気持ちでいっぱいです。 

 12月と言わず、9月でも10月にでも仕事を辞めて、直と一緒に生活したいの。 

 でも、宮崎の両親は結婚式も挙げないで、一緒に暮らすのはどうであるとか、子供でも生まれたらとかを心配し反対すると思うけれど、直自身にはきっと良い印象を得ることでしょう。

 それは、私の保証付きですから、ご安心を。 

 それにしても、最近の千穂は、よく手紙を書くね。 


 8月15日(火)午後7時 

 昨夜も、休息中に電話ありがとう。 

 今の私には、直からの電話と手紙が生活の支えというか、原動力になっています。 

 元気そうな、声を聞けて安心しました。 

 早く、9月にならないかな。 

 あと15日くらいだけど、待ち遠しくて、1日がとても長く感じられます。 

 両親からの手紙が、2~3日すれば届くと思いますが、何と書かれているのでしょう。 

 その内容を、直に知らせますね。 

 千穂は、やっぱり、どうかしてるのかな。 

 両親からの手紙が届く前から、既に賛成されているものと思い込み、仕事を辞める時には病院内の何処へ挨拶に行かなければとか、荷物は直の転勤先へ、いつ頃に送ろうかと考えてしまうのです。 

 今日は33回目の終戦記念日であり、戦争を知らない人が、国民の半数以上を占めているそうです。私たちもその中の二人ですね。 


 8月17日(木)   午前6時50分 

 一昨日の続きになります。 

 少し肌寒く感じる朝です。 

 誰かが外で、縄跳びをしているようです。 

 昨日ですが、直からの手紙が届いてました。 

 今回も分厚い手紙だったので、ニヤニヤしながら封を切り、直の顔を思い浮かべながら読みましたよ。 

 そして、心のこもった内容だったので、私の気持ちは、今でも揺れているのです。 

 そんな訳ではないけれど、病院を12月末に辞めようと思っていたのが、9月末か10月上旬で辞めようとの思いが強くなっています。 

 でも、直が住んでいる社員住宅がどんな所なのか、あるいは東京に比べると静かな町だろうと思ったり、千穂の両親の意見も聞かず勝手な行動をしてはいけないと考えたりするけれど、9月末で病院を辞めようと一応の決心がつきました。 

 先ほど、松山の自宅へ電話したけれど、もう仕事に出発したとのことでした。 

 社員住宅がどんな間取りであるとか、何世帯の家族が住んでいるのか聞こうと思ったの。 

 今日は、病棟へ出たら婦長さんとお話して、9月末か10月の上旬までということにしてしまいます。 

 それで私は四国へ行こうと思うけれど、四国へ行く事が駄目だったら宮崎の実家で2~3ヶ月過ごし、それから直の転勤先へ行きます。 

 だって、千穂はこれ以上離れているのは辛くて、少しでも早く直のそばに居たい気持ちなのです。 

 千穂って、こんなに悩んでいるのに太ったみたいよ。 

 だって、よく食べるんだもの。 

 もうすぐ9月になるから、間食だけでも減らそうとは思ってるけどね。 

 先ほどから降っていた雨が、急に激しく地面をたたきつけるようになりました。 

 今日は、直に買ってもらった、レインコートを着て出かけるからね。 

 四国へ行ったら、ペアルックを買いたいね。 

 直が期待してるほど、千穂は素敵な奥さんになれるかどうかわかりません。 

 でも頑張るよ。なんてもう結婚した気分よ。駄目ねえ。 

 今日は、日勤の深夜入りです。 

 直は、転勤の前日だね。 

 何かと忙しいと思うので、今日は直からの電話はないと思います。 

 だから9月末で辞める事は、この手紙で知らせることになるのかな。 

 そろそろ身支度をして、寮を出発します。 

 午後6時50分 

 大変蒸し暑い、一日でした。 

 病院では婦長さんに「お話があるんですけど」と言ったら「仕事辞めて結婚するの」と返されました。 

 それで私の考えている事を伝えたら、10月末まで勤務してほしいと言われたのです。 

 でも、どうしてもと言うなら9月末にしましょうとも話されていたので、彼と相談の上またお話することになりますと返事をしておきました。 

 今日は、婦長さんと話しをする事が出来て、何だか安心しちゃった。 

 9月末に病院を辞められなくても、10月上旬には辞める事が可能となりました。 

 千穂の両親だって、直に会い人柄を知ってくれたら、賛成してくれることでしょう。

 但し、すぐ一緒に住む事については、反対するでしょうね。 

 あと半月たらずで、直に逢えるので嬉しい。 

 あと半月たらずで、両親に話さなければならず怖い。 

 転勤先の社員住宅が、素晴らしい所でありますように。 

 今日ね、郵便受に美代ちゃんからの便りが入ってたよ。 

 元気みたいです。 

 でも、赤ちゃんの事なんかは、何も書いてありませんでした。 

 あの二人よく続くものだと思うけれど、そんな二人に感心している暇はなく、今は直とのこれからの事ばかり考えていたいのです。 

 いよいよ、自分の伴侶を選ばなければなりません。 

 これから先長い付き合いとなるでしょうが、直は私にふさわしく、また私は直にふさわしいかしら。 

 一時の憧れとか、妥協とかだけでは結婚できません。 

 慎重に、事を進めたいと思います。