8月8日(火)午前9時35分 

 起床したところです。寝坊していました。 

 直は、もう仕事している、時間でしょうね。 

 昨日は、電話ありがとう。いつも元気そうで、何よりです。 

 今日は、私の故郷の話を、してみたいと思います。 

 とにかく田舎です。 

 こんな田舎は、無いだろうと、思うくらいです。 

 宮崎市内から、車で1時間30分くらい、かかります。 

 家の前は、農道で舗装もされてなく、四国へ行った時にドライブをしていて、山道で迷ってしまい、あの時に見かけた農村のような所です。 

 実家では、両親と兄の3人が暮らしています。父は元教員で現在62歳になり定年退職後は先祖伝来の田畑を細々と耕作しており、母は60歳で家事と父の手伝い、兄は25歳で工務店に勤めています。それと姉が一人いるけれど宮崎市内に嫁いでます。 

 家では、牛・にわとり・犬・猫を飼っています。昔は、牛で農作業をしていましたが、今ではそういう風景は殆ど見られず、農業が機械化されているようです。 

 私は、犬が怖くて、猫としか遊べません。 

 家は、直の実家より、少し広いのかな。 

 近所の、殆どの家が農業をしており、椎茸を作っている、農家もあります。 

 家の近くには川があり、渓流釣りが出来ますよ。 

 とにかく、自然そのものが残っている田舎です。 

 もし、9月に宮崎へ行くようになっても驚かないでね。 

 何れにしても、互いの休みに合わせて、宮崎の両親に会ってもらいたいと思ってます。突然の話に両親はさぞ驚くことでしょう。 

 反対されるか賛成してくれるか分からないけれど、何れにしても今から気にしてもどうしようもないね。 

 私は、飛行機で宮崎へ直行するつもりですが、松山行きの切符が予約出来れば直と一緒に宮崎の家に帰りたいとも思ってます。 

 今とても病院を辞めたいの。 

 仕事が辛いからではなく、むしろ楽しいくらいで人間関係だってうまくいってるのに。でも仕事を終え寮へ帰ってからの時間が実に長くてつまんないの。 

 出来れば12月にでも、病院を辞めたいと思ってます。 

 すごく甘えた考えかも知れないけれど、辞めたい気持ちでいっぱいなのです。 


 8月8日(火)午前11時5分 

 今日は、二通目の手紙を、書くことにしました。 

 何故なら、直への封書を先ほど投函し真っすぐ寮へ帰ると、分厚い手紙がポストに入っており、枚数を数えたらなんと11枚もあったのです。 

 私も負けられないと、直ぐにペンを取りました。 

 手紙を読んだら落ち着いたので急にお腹がすき、パンを食べインスタントコーヒーを飲み、おせんべいをバリバリ、チョコをぺろり。 

 体重のことは、気にしない気にしない。 

 幸というのは、実にいいね。 

 他の事にも、温かい目を向けられる様な気がします。 

 反対に、不幸を感じる時は、何かと自己中心的になりがちです。 

 今の私は、幸そのもの。 

 直からの手紙を読んだ瞬間から、千穂の背中には翼がありフワフワと浮いている感じなのです。 

 ところで、今日の松山の天気はいかがですか。 

 こちらは、昨夜から雨が降ってます。 

 しとしとと雨の降る日は外出がおっくうだけど、あなたへの手紙を出さねばと出かけましたよ。 

 さすが愛とは、強いものですね。 

 やっと2枚目だ。頑張るぞ。 

 直は、いつもアルコールを口にしながら、ペンを走らせているようですね。 

 あいにく、私の部屋にはアルコールはなく、甘い物ばかりです。 

 先ほど隣の住人が寮に帰り、お腹がすいたと言って私の部屋に食パンを持ってきたものだから、冷蔵庫に残っていたレタス・キュウリ・ハムを使ってサンドイッチを作ってあげました。 

 隣の住人は、まだ18歳で昼間は病院勤務して、夜間は高校へ通っているそうです。 

 皆さん、私の知らないところで、頑張っているのね。 

 雨は、まだ止みそうにありません。 

 いまごろ、直は、お昼休みかな。 

 昼食は、何を食べたのでしょう。 

 私が奥さんになったら、週に3回くらいなら、お弁当を作ります。 

 ところで千穂はね、直の存在を付き合う前から、実は知っていたのよ。 

 国立の寮祭があった時に、男性ばかりの何人かのグループで、見学に来ていたでしょう。 

 あの時は話すこともなく、理恵と素敵な人だねなんて言ってました。 

 ところが、12月になりクリスマスパーティーでの出会いが、二人の人生を変えてしまったのよね。 

 あの日の千穂はあまり乗り気じゃなかったけど、理恵も美代ちゃんも行くと言うので、特に何の予定もなかったので、それでは行こうと言うことになり、店に着いたら直がそこにおり、そこから先はもう分かってるよね。 

 もし、あの日に私が行けなかったら、直と出会わなかったはず。 

 もし、あの日に直から電話がなかったら、二人だけで逢えなかったかも。 

 もし、あの日に真っすぐ寮に帰っていたら、今日という日はあっただろうか。 

 勇気のいることを、私は平気でやってのけた。 

 どうせ、彼女のいる人なんだもん。 

 だったら、私さえ良ければいいと、自分に言い聞かせて、帰寮せず外泊してしまった。 

 もちろん、後悔はしてなかった。 

 でも、さすがに理恵は驚いていた。 

 直のことを、批判していたかも知れず、それ以上に私を軽蔑していただろう。 

 しかし理恵の性格は、思っていても口には出さない。 

 そして今に至っては、私の気持ちを十分理解してくれている。 

 理恵といい美代ちゃんといい、私は無二の親友を持ったみたい。 

 二人共とってもいい人よ。 

 直にも、こんな親友いるのかな。 

 そんな私だけど、直と再会するために松山へ行ってからは、気持ちが熱く燃える炎のようになり、冷静な自分自身を取り戻すことが出来ないのです。 

 逢えない間は我慢できたけど、一度逢ってしまうともう駄目なの。 

 だから今すぐにでも結婚したいの。 

 前の手紙にも書いたけど、9月に両親に会ってもらい、賛成してくれたら(たぶん反対すると思うよ)12月には病院を辞めて松山へ行きたいの。 

 とにかく、今は直のそばに行きたい。 

 松山へ行けば、新しい生活があり、それなりの苦労はあると思う。 

 そして、直とうまくやっていけるとは、言いきれない。 

 だけど、直のそばにいたい気持ちは、どうすることも出来ないの。 

 直が、東京に来てくれたところで、直ぐに離れ離れになってしまう。 

 松山から東京に帰り、直の事こんなにも好きなのかと、改めて気づくと同時に、私の直への想いはますます強くなったみたいです。 

 早く9月にならないかな。 

 両親が、何を話すか覚悟しておいてね。要するに両親は、直を見る前から反対しているのよ。宮崎の人でないことが気に入らないみたいね。それは宮崎の家に行ってからゆっくり話し合う事になるのでしょう。 

 直の、休みが取れたら、宮崎の家に連絡します。 

 ところで、今ねえ体重が53キロなの、9月に直と逢うまでは、この体重を維持したいと思ってます。 

 がんばるぞー。