千穂が言ってる彼女というのは直が付き合っていた北海道出身のOLで、出会いは互いの通勤途中であり、直から「お早う」と挨拶するようになったことがきっかけで交際が始まった。 

 男と女が大都会で知り合い、互いに引かれ合えば、愛し合うのに長い時間は必要なかった。 

 しかし永遠には続かない男女関係がそこにもあった。 

 直と彼女にも破局が訪れようとしていたのである。 

 直にすれば彼女との付き合いは半年くらいであるが、彼女のことを心から愛し結婚まで考えていた。 

しかし彼女は自分自身が幸せであることを十分承知していながら、直からの愛情を素直に受け入れられない時期があったのである。 

 男と女の関係は何故これほどまでに不可解なのだろう。 

 直の一途さに彼女は戸惑っていたのである。 

 こんなに幸せで良いのか。 

この幸せは長く続かないだろうと彼女が直にふと漏らしたことがあったが、それが現実のこととして直を直撃したのであった。 

 それは、ある日の仕事帰りの街角で、彼女と二人だけで親しく話をしている男性の姿を直が偶然に見つけ、その日の夜になって直から彼女に電話をかけ、男性と何を話していたのかと問い詰めたことから互いの間に何かしらぎくしゃくしないものが芽生え始めたのである。 

 偶然に見かけた男性とは彼女の元彼とのことであったが、そのころから彼女自身に何かしら他人行儀な様子が感じられるようになり、直の不安が的中したのか数日間連絡しないうちに彼女と元彼が密かに逢っていたのである。 

 彼女に言わせれば、自己の将来について相談にのってもらっていたとの事であったが、それだけではなかったようである。 

 女は幸せの絶頂期にあっても、なぜ現実的な考えをしてしまうのか。 

それは彼女にしてみれば何気ない事であったが、普段から人を疑うことをしない直にすれば驚きを隠せない一件でもあった。 

 結局のところ彼女と直は破局を迎えようとしていたのであるが、そんな時に千穂との出会いがあったのである。 

 人生とはちょっとした弾みでその歯車が狂ってしまうことがあるようだ。 

 しかし直にすれば彼女と破局しようとしている時期に、次の恋人である千穂が現れようとは思ってもいなかった。 

 それが巡り合わせとでも言うべきなのか、あまりにもタイミングの良い出会いであり彼女と直を決定的に引き裂く出来事でもあった。