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作戦は制圧に変わった。
制圧とは、敵の戦闘力を完全に奪うことだ。
ビェラクとボシュコはそれぞれがターゲットにした車に近づき、じっくり周囲を伺った。
動くものは撃つ。
ビェラクはじっと待った。
運転席から這い出すものはいない。
少しはなれたところでうめき声がする。
そのうめき声のところに人影が歩み寄った。
荷台にいた二人だ。
パパパパパパパ
小口径の拳銃弾の連続発射。
排気量の小さいバイクのエンジン音のように聞こえる。
少し遅れて、離れた場所で同じ音が聞こえた。
ボシュコだ。
ダルコの横20mくらいのところを人影が走り抜けていった。
ミロシュが何かにとりつかれたようにひたすら敵に突進して行く。
建物から飛び出してきた敵は、ダルコに誘われるように移動していた。
その敵の側面にミロシュが襲い掛かった。
ダララララララ
軽く飛び跳ねるようなスコーピオンの発射音に比べてウージーは、いくぶん音が重い。
突然の発射音に、ダルコを狙っていたAK47とウージーがいっせいにミロシュに向かって吼える。
その発射位置に今度は、ダルコが的確に撃ち込んでいく。
ズンーッ
空気が切り裂かれる音がダルコの耳に響いた。
刹那、肩に痛みが走った。
当たってはいないが、…かすった。
同じ場所にとどまるのは危険だが、移動すれば、ミロシュに銃撃が集中する。
ようやく、ダルコの後方に足音が近づいてきた。
横一列に広がった6人の兵士が、敵を取り囲むように距離を詰めてくる。
攻守は一瞬にして逆転した。
AK47の発射音が、みるみる減っていった。
逃げなければならないのは、敵のほうだ。
残った数名の男達が、自分たちが飛び出してきた建物に向かって走って逃げていく。
もはや追う必要はないが、追うものがひとりいた。
その男に引きずられて部隊も動く。
ミロシュは、建物に飛び込む三人の男達を追った。
パパパ
建物に逃げ込む寸前に最後尾の男の背中に三個の穴があいた。
「あと二人」
ミロシュは右耳と左上腕部、左大腿部に負傷している。
左上腕部からは、だらだらと鮮血が流れ落ちていたが、それでも追撃をやめない。
ミロシュが建物に入った。
音がない。
隠れているのだろう。
(どこだ…)
一部屋一部屋、ミロシュが見ていく。
部屋は、あと三つ。
全ての部屋のドアが開いている。
ドア陰からミロシュがいっきに部屋の中に入る。
いない。
部屋を出た瞬間。
ダッダッダッ
敵も同時に奥の部屋を飛び出し、ミロシュに向かって撃った。
ミロシュは反射的に横に飛び、床に転がる。
ダッ
1発の弾丸がそのミロシュの横をすり抜けるように通り抜け、相手の男の顔を直撃した。
ミロシュには、おそらく脳裏に焼きついて忘れることの出来ない顔の一つだったが、その顔は、今、粉々に吹き飛ばされた。
「もうひとりいます」
ミロシュに駆け寄るダルコにミロシュは大声で伝えた。
「撃たないでくれ…」
今、男が飛び出した同じ部屋の中から、男の声がする。
「たのむ。撃たないでくれ…」
部屋の中で、男が床に銃を置き、膝まずいて両手を挙げている。
ダルコの横に立ったミロシュの顔が、憎悪でゆがむ。
ミロシュの手にウージーはない。
床に転がったときにどこかにやってしまったんだろう。
ダルコは、ホルスターからスコーピオンを抜き出し、マガジンをセットし、ミロシュに渡した。
「やめてくれ…たのむ…お願いだ…」
ダルコは、建物内に入ってきた部下を手で制し、建物を出るように手で合図した。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ
20発、全てが撃ちつくされた。
建物を出たダルコが、部下を見渡す。
負傷者はいない。
「作戦終了。撤収する」