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敷地をいっきに駆け抜けたところに何人かの兵士が待機していた。
「小隊長、ハンニャとミロシュです」
ハンニャに肩を貸していっしょに走った兵士が報告する。
「ダルコだ。まだ、走れるか?」
「はい」
ハンニャは、返事をしてミロシュを見た。
ミロシュは、相当参っているはずだ。
実際、ミロシュは座り込んで大きく肩を上下させていた。
「ミロシュ…走れるか?」
ダルコがミロシュの顔を覗き込む。
「はい」
ミロシュは、ダルコの問いかけに、すっと立ち上がった。
建物の反対側で車のエンジン音が響いた。
「アンジェラ」
ダルコは副長のアンジェラを呼んだ。
「はい」
「やつらを引きつける。しばらく待って予定通り集合地点に急げ。ビェラク、ボシュコ、俺から離れて援護しろ」
ダルコは、指示を終えると、即座に駆け出した。
遅れまいとビェラク、ボシュコがついて行く。
ダルコは、消音器を外して、走りながら何発か撃つ。
ダッ…ダッ…ダッ
敵と味方の両方に自分の位置を教えるためだ。
AK47とわずかだがウージーの発射音が、ダルコを追って来た。
離れろという指示だったが、実際、ビェラク、ボシュコはダルコについていけない。
みるみる距離が離れていく。
車のエンジン音が近づいてきた。
二台、まっすぐダルコのほうに向かっている。
ヘッドライトがダルコの周囲を照らした。
相手を照らせば、自分の位置も知られる。
子供でもそのくらいのことはわかる。
しかも車は前後に並んで、後ろの車までライトをつけている。
前の車は、後ろの車に照らされて丸見えだ。
1.5tの貨物トラック、荷台に兵士が二人乗っていた。
(ど素人が…。恨むんなら、後ろの車の仲間をうらめ)
ビェラクは前の車の運転席を、ボシュコは後ろの車の運転席を狙う。
ドスッ…ドスッ
ビェラクが運転席に2射。
前の車は急激に左に曲がり横転して、荷台の兵士が投げ出された。
ドスッ…ドスッ…ドスッ…ドスッ
ヘッドライトの位置から当たりをつけ、ボシュコが運転席と思われる場所に連続して撃ち込む。
前の車を避けようと若干右に曲がった後続車のエンジン音が急激に上がった。
ドライバーがアクセルを踏んだまま死んだのか、車は前輪を窪地に落とし、大きく前方に飛び跳ねて一回転して木に激突した。
「小隊長、ミロシュがそっちに向かいました」
ダルコのインカムにアンジェラの慌てた声が入った。
「作戦変更。アンジェラ、二人連れてハンニャと先に予定地点に行け。他のものは、ミロシュを保護しろ」
こうなることを予測していたかのようにダルコの指示は早かった。
「ビェラク、ボシュコ、ひとりも生かすな。制圧しろ」
「了解」
人質を救出して速やかに撤収する予定だったが、作戦は変更された。
ビェラクとボシュコは、ドラグノフを肩に掛け、ホルダーからVz61スコーピオンを取り出した。
Vz61スコーピオン
旧チェコスロバキアで作られたサブマシンガン。
ウージーよりもコンパクトではるかに軽い。
4kg近いウージーに比べてスコーピオンは、わずかに1.3kgしかない。
大きさも、大型の軍用拳銃と変わらない。
発射速度は、1分間に850~950発。
口径は7.65ミリと9ミリのウージーよりも小さく、破壊力では劣るが、もともと何かを破壊するような兵器ではない。
圧倒的な信頼性を誇り、初心者でも簡単に扱えるという点ではウージーに一歩譲るが、そのコンパクトさからプロの特殊部隊や警察、戦車兵など用途は広く、ウージーと人気を二分している。