6.
真一の携帯が鳴った。
“はい、シンチです”
(自分でもシンチで名乗るんだ)
別に聞き耳を立てているわけではないが、他に音がないので自然と耳に入る。
“いいよ。来なくて…”
(えっ…)
誰か来る予定だったとか…?
女の人?
“朝は、早くないから、いいんだ”
(モーニングコール?)
手紙の彼女かな?
わたし、もしかしてじゃま?
“いや、だいじょうぶ。ちょっと念のために、医者に寄ってから行くんで…”
(明日もあそこに行くの?)
“ありがとう。じゃぁ…”
真一が電話を切った。
“誰から”って訊きたいのだが…
余計な詮索に違いない。
「明日も、あそこに行くの?」
「ううん」
「でも、今…」
「そう言った方が、心配かけなくて済むかなって…」
(彼女に気を遣ったんだ)
「ごめんね。わたしがここにいて…」
「面倒見てもらってんの、俺のほうだから…」
(うーっ、何か…つらい)
「先生」
(やーね。また先生に戻ったし…)
「何?」
「俺を送って行ったら、すぐに帰るのか?」
(タメ口は、そのままなのね?)
「どういうこと?」
「試合見てくれないか?」
「すぐなの、試合?」
「わかんねぇ」
「まだ、決まってないの?」
「決まってるけど、知らねぇんだ」
「そうなの…」
「だめか?」
(何、その表情?)
切なそうな顔。
そんな顔、初めて見た。
「ううん。見るわ。応援する」
「ありがとう」
(やだ、嬉しそうに…)
「試合、出られるの?」
「出るさ」
「無理しちゃダメよ」
(どうしたの?黙っちゃって…。わたしまた、なんか言った?)
「怪我してるの、俺だけじゃないよ。みんなどっか痛いんだ」
(えっ?)
「我慢比べなんだよ。どこまで無理できるかの勝負なんだ」
(やっぱり、わたしは何もわかってない)
「俺、7番だから…」
(何が、7番?)
「背中に7番ってのが俺だから…」
(ああ、背番号のこと?)
「見ててくれる?」
「見てるわ」
「ありがとう」
「美咲が応援してくれるなら、靭帯、切れてもいいか…」
「何、言ってんのよ」
「怖がってたら、何もできないスポーツみたいなんでね、ラグビーってのは…。No pain No gain(ノーペイン ノーゲイン)。そういうスポーツなんだ」
「シンチ…」
“No pain No gain”
初めて聞く言葉だった。
こう見えても、英語の教師よ、意味はわかるわ。
“痛みを恐れては、何も得られない”
その言葉が、わたしの胸に突き刺さった。