第2章
1.ローマは一日にして…
「竹内、あそこでバイトしてたんだ?」
真治が声をかけて来た。
竹内というのは陽子の苗字だ。
「えっ、ああ、…うん」
陽子は、少し周りを気にするように見回した。
「いつから?」
「4月」
「ふーん」
「中沢君は、あそこよく行くの?」
陽子は、そのまま途切れそうだった話を慌ててつないだ。
「ああ、けっこう行くけど…」
「そうなの?でも会わなかったわね」
「だね。日曜日はけっこう行くんだけど…」
「そうか。わたしは、木曜日と土曜日だから」
「そうなんだ…」
「中沢君、訊いていい?」
「何?」
「あれって、中沢君のご両親?」
「そうだけど…」
「ふーん」
「どうしかした?」
「中沢君のお母さんって、美人だよね?」
「そうかぁ?」
真治が照れくさそうに笑った。
陽子が、バイト先で出会うというような回りくどい方法で真治との出会いを求めたのにはわけがある。
真治には、すでに付き合ってる彼女がいた。
山下佳子。
佳子と陽子は同じクラスだ。
クラスの違う真治が、こうして陽子のクラスに顔を出すのも、佳子のためだ。
廊下の向こうからその佳子がやってきた。
「じゃぁ」
真治はあっさり話を打ち切って、佳子のほうに歩いていった。
いつもの見慣れた光景。
嫉妬はするが、それほど激しいものではない。
陽子が真治を知ったときにはもう、二人は付き合っていた。
佳子は、どちらかというと、おとなしくて控えめなタイプだ。
敵わないほどの美人と言うわけではないが、すでに彼女のいる男にいきなり告ってもまず勝ち目はない。
それに真治が佳子と付き合っていることは、ほとんどの生徒が知っているので、そこに露骨に割り込んでいくのもみっともない。
学校ではなく、外で会いたい。
その結果のバイト作戦だ。
とりあえず、きっかけは作れた。
家族をほめる。
特に母親。
真治がそれを母親に言うかどうかはわからないが、もし伝わったら、おそらく印象はいいはずだ。
(かなり距離を縮めたってぇ感じ)
「愛美、今日、体重量った?」
「うん。でも昨日と同じ」
「そりゃそうよ。まだ1日だもの」
「そうだね」
「お風呂に入って…」
陽子は、今日は、愛美だけをお湯につからせた。
「ペッたんって座って…」
湯船の中で愛美が膝を割って正座する。
「手を後ろについて、背筋を伸ばして…」
愛美は言われた通りに従う。
「息を吸いながら、ゆっくりと胸をそらして、顔を上げて、天井見て、手は後ろで組んで…ゆっくりだよ」
愛美がゆっくりと胸をそらし顔を上げていく。
「そう…息をゆっくりたっぷり吸って…そこで止って…」
「はーい、息を吐きながら元に戻って…ゆっくりだよ」
「気持ちいい」
「でしょ。らくだのポーズね」
「何それ?」
「ヨガってやつ」
「そうなの?」
「まぁ、真似事だけどね。家でもやるのよ」
「うん」
「お湯は、お腹くらいまででね。でないと苦しくなっちゃうから…」
「そうね」
「じゃぁ、今度は体操座りして、膝の後ろを抱えて…」
「今度は何のポーズ?」
「名前は忘れた。そのまま、身体を後ろに倒して足を浮かして…。後ろにもたれちゃだめよ」
「きゃっ、だめ、倒れる」
「ゆっくり、慎重に…バランスとって…、そのまま、そのまま…」
愛美がなんとか倒れずにバランスをとる。
「いい?じゃぁ、そのまま倒れないように、息を吸いながら背筋を伸ばして…、そうそう、今度は吐きながら、左足を伸ばして…」
「わっ、できないよ。無理…」
「できなくてもできるように練習するの。最初は、後ろに倒れてもいいし、足が壁についてもいいから、練習して…いい?」
「わかった」
そうは言っても、愛美はほんの少し足を伸ばすだけですぐに後ろに倒れた。
「背中を着いてもいいから、両足の指先をつかんで、そのまま足をゆっくり伸ばして行って…」
「だめ、伸びない…」
「だめか、じゃぁ、押したげるから、足を伸ばして壁につけて…」
昨日と同じように陽子は、愛美の背中に座って、愛美の背中を押した。
「痛い、痛い…」
昨日より、3cmくらいは曲がるようになった。
(がんばってよ。あんたが痩せてくれないと、ブログが書けないんだから…)
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今日、真治から話しかけられた。
突然だったので、どっきどき。
「あそこでバイトしてるんだぁ」って、まぁ、ただの挨拶みたいなもんだけど…
それでもよかった、バイト辞めなくて…。
とにかく話ができた。
さりげに、“お母さんって美人だよね”って褒めといた。
本当は、それほどでもなかったんだけど…。
でもね、これは重要。
“母親を褒める”ってのは、彼の心をつかむテクニックのひとつ
お父さんはだめ。
あくまでお母さん。
だってお父さんとは仲が悪いことが多いでしょ。
だから、褒めてもムダだし、逆に変態扱いされることもあるから要注意。
効果その一
男の子は、つきあっている彼女のことを親に話したりはしないが、つきあってもいない女の子なら、けっこう平気でその子のことを親に話したりする。
“あそこで同級生がバイトしてて、その子がね、母さんのこと美人だって言ってたよ”ってな具合に…。
お母さんに好感を持ってもらえれば、いつか、彼のうちに遊びに行っても、わりとすんなりと受け入れてもらえるし、もしかしたら母親は、わたしのことを真治の彼女だと勘違いするかもしれない。
効果その二
家族のことなど普通は、話題にしない。
普通じゃない話題の会話っていうのは、ふたりだけの会話になる可能性が高い。
しかも、知らない人が聞くと、ものすごく親密な関係のように感じる。
外側から、親密な関係という既成事実を作り上げていくには最適の話題。
みなさんも試してみるといいですよ。
気の長い話だけどね。
ダイエット
体重に変化なし。
こちらも同じく先の長い話。
“ローマは一日にして成らず”
されど、運命の日は、一日近づいて、後69日。
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昨日のアクセス数、75。
なんか、いい感じ。