美咲 6 | 風の痛み  Another Tale Of Minako


中2になってすぐの頃、母と男は、よくけんかをするようになった。
母は、男によく殴られた。
わたしは、部屋の隅でいつもそれをじっと見ていた。
怖くて、怖くて、ただじっと見ていた。
でも、その日は、決めていた。
前の日、わたしは近くの工事現場で工具を拾った。
モンキーレンチ。
後でその名前を知った。
なんの道具かも知らない。
銀色に輝いて、持つと片手では重かった。
これを使って…と考えたわけではない。
考えたのは、持ち帰って家についてからだ。

いつものように言い争いは始まった。
わたしは部屋の隅でこっそりモンキーレンチを取り出して握った。
男が母の髪をひっぱって床に引きずり倒した。
今だと思った。
後のことはよく覚えていない。
男は、鎖骨と大腿骨の骨折だったらしい。
わたしは、殴られる母をかばったということで咎められなかった。
でも、母をかばったわけではない。
実際、母も殴ろうと思った。
そのときの母の恐怖にひきつった表情は、今も覚えている。

また、引っ越した。
それっきりその男は来なくなった。
母は、無口になった。

わたしは、アルバイトをしながら高校に通って、高校を出るとすぐに家を出た。
今は、お酒も飲めないのにクラブのママをしている。
子どもができて、また母親と同居することにした。
中学生と小学生の娘がいる。

父親はいない。