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中2になってすぐの頃、母と男は、よくけんかをするようになった。
母は、男によく殴られた。
わたしは、部屋の隅でいつもそれをじっと見ていた。
怖くて、怖くて、ただじっと見ていた。
でも、その日は、決めていた。
前の日、わたしは近くの工事現場で工具を拾った。
モンキーレンチ。
後でその名前を知った。
なんの道具かも知らない。
銀色に輝いて、持つと片手では重かった。
これを使って…と考えたわけではない。
考えたのは、持ち帰って家についてからだ。
いつものように言い争いは始まった。
わたしは部屋の隅でこっそりモンキーレンチを取り出して握った。
男が母の髪をひっぱって床に引きずり倒した。
今だと思った。
後のことはよく覚えていない。
男は、鎖骨と大腿骨の骨折だったらしい。
わたしは、殴られる母をかばったということで咎められなかった。
でも、母をかばったわけではない。
実際、母も殴ろうと思った。
そのときの母の恐怖にひきつった表情は、今も覚えている。
また、引っ越した。
それっきりその男は来なくなった。
母は、無口になった。
わたしは、アルバイトをしながら高校に通って、高校を出るとすぐに家を出た。
今は、お酒も飲めないのにクラブのママをしている。
子どもができて、また母親と同居することにした。
中学生と小学生の娘がいる。
父親はいない。