美幸 1 | 風の痛み  Another Tale Of Minako
美幸

わたしは、愛するということがよくわからない。
愛した人はいた。
小さい頃にたったひとり。
それ以来、わたしは誰も愛したことがない。

好きな人はいる。
わたしとずっといっしょにいてくれる人が好きだ。
わたしをずっと守ってくれる人が好きだ。
そうしてくれるなら、誰でもいい。

愛することは、憎むことより難しいと言う。
愛したことのないわたしには、そのことばも難しい。





バレンタインの夜、ほとんどの女の子が、馴染みのお客さんと連れ立って行く中、美幸だけはひとりで帰っていく。
小さなプレゼントの包みを持って…。
「それは、誰にあげるの?」
一度だけ、訊いたことがある。
「お父さんに…」
彼女はそう言った。
わたしも小さいときに父をなくした。
彼女もそうだ。

1.お母さん

2月14日
学校が終わって、わたしはずっと校門のところで立っていた。
「あれ、美幸帰らないの?」
振り返ると同じクラスの香織がいた。
「うん」
「誰か待ってんの?」
「えっ?…う…うん」
「誰?」
「ううん。違う。なんでもない」
わたしは、逃げるように走った。

校門を出て通りをまっすぐ走って交差点を左に曲がったところで立ち止まる。
香織の家は逆方向右だ。
わたしの家も同じ方角だけど、わざと左に曲がって、もう一度校門の前に戻った。
去年もずっと待っていた。
でも来なかった。
今年も…。

バレンタインデー。
わたしは、今日が誕生日だ。
11回目の誕生日。
校門でお母さんを待っていた。
来ると約束したわけではない。
お母さんは、5年前、わたしの誕生日のプレゼントを残したまま家を出て行った。
理由は知らない。
お父さんは何も教えてくれない。
次の年、校門の前でお母さんに会った。
お母さんは、赤いスカートとセーターをくれた。
家に帰ってそれを着ると、お父さんに見つかった。
「誰にもらった?お母さんか?」
そう聞かれたが、わたしは黙ったまま何も答えなかった。
でも、お父さんは、一度聞いただけで、それ以上はもう何も聞かなかった。
わたしは、しばらくずっとそのセーターを着ていたが、お父さんは、何も言わなかった。
次の年も、その次の年も、校門の前にお母さんはいた。
でも、去年は来なかった。
わたしがしゅんとして帰ると、次のお休みの日にお父さんが服を買ってくれた。
そして今年も来なかった。