皇南輝です にっこり





今回も前回に引き続き 小説 の掲載になりますイルカ






皇南輝の連載小説は 1話あたりの文章が長くない ので、すぐに読み終えることができます スター












    小説    慰霊師



        1-3 孤児院の結羽





    安堂結羽 (あんどう ゆうは) は、孤児院で育った。
 生まれたばかりの結羽は、すぐに孤児院へ預けられたのだった。


 18年前。
 東京都郊外にある住宅街の一角に古びたレンガ造りの洋館があった。
 洋館の敷地は広く、芝生や畑があり、数十人の子供を収容できることから孤児院として利用されていた。しかし、建物の経年劣化が激しく、レンガ造りの外壁は至る所で欠損し変色していた。それでも、孤児院から聞こえる子供たちの元気な声は絶えることがなかった。

 ある日の深夜、レンガ造りの正門前に1台の白いベンツが停まった。正門の丸い門灯がベンツを淡い光で照らしている。
 夜の闇に浮かんだ白い車体から2つのシルエットが現れた。一人は女性の姿をしており、何かを大切そうに抱えている。
 ベンツから降りた2つのシルエットは、並んで歩きながら孤児院へと入っていく。しかし、女性のシルエットだけは心なしか足取りが重い。
 2つのシルエットが孤児院へと消えてから再び正門に現れるまで、数分もかからなかった。
 白いベンツに乗り込む2つのシルエット。後部座席に乗り込むシルエットの1つが門灯の淡い光に一瞬だけ照らされた。そこには、気品のある美しい女性の顔があった。その顔は涙に濡れていた。
 やがて、白いベンツは赤いテールランプを揺らしながら闇の中を走り去っていった。


 孤児院の背景が季節の色彩を何度も繰り返し変えながら時が過ぎた。
 孤児院の赤レンガの洋館は美しく修繕され、洋館や敷地を取り囲むレンガ造りの塀も、赤茶けたレンガ一色から動物たちが描かれた明るい色彩に変わった。
 どこからか資金を得たのか、孤児院は明治の雰囲気から現代のそれへと美しく変貌していた。


 数十人が暮らす孤児院の中に、ひとりの幼い少女がいた。黒いおかっぱの髪型の少女は、いつも独りで庭で遊んでいる。しかし、彼女にとっては“独り”ではないようだった。孤児院に棲みついた野良猫、スズメ、カラス、ハト、ネズミ······そういった動物たちを見かけるたびに、彼女は声をかけ、微笑んでいた。
 もしそれだけなら、周りの大人や子供たちは彼女を“動物好きな女の子”として受容できていたに違いない。しかし、彼女は、周りの人々にとって不可解な存在になっていた。

 彼女は、ときどき、誰もいない場所に向かって会話をしていることがあった。それは庭であったり食堂であったり廊下であったり、と場所を選ぶことなく、彼女は虚空に向かって話し、笑い、ときには寂しそうな表情を向けた。そんな彼女を孤児院の誰もが不気味に感じていた。

「結ちゃんは幽霊と話せる」

 いつのまにか、孤児院ではそんな噂が流れるようになった。しかし、おかっぱ頭の少女は成長していくに従って、虚空に向かって会話することはなくなっていった。

 やがて、高校を卒業した少女は孤児院を離れて自立した。どこかの資産家が彼女に生活資金を与えようとしたが、彼女は断った。
 少女はアパートを借りると、アルバイトをしながら生計を立てるようになったのだった。



 日が沈み、公園の白い街灯が夜の帳の中でいくつも浮き始めた。そのうちの1つの灯りの下で、結羽はベンチに腰をかけていた。そして、彼女は正面の誰もいない虚空をじっと見つめていた······。








(つづく)
























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