国税の徴収権は,原則として法定納期限から5年間行使しないことによって時効により消滅するものとされています(国税通則法72条1項)。
他方で,国税の徴収権の消滅時効は,国税通則法73条1項各号掲記の事由又は民法147条各号掲記の事由があった時に中断し,国税通則法73条1項各号に定める期間を経過した時又は時効中断の事由が終了した時から更に進行するものとされています。
その結果,国税を滞納したために滞納者名義の不動産に差押処分がなされた場合,国税の徴収権の消滅時効は当然に中断されることになります(民法147条2号)。
では,不動産に差押登記がなされたままの場合,国税の徴収権の消滅時効は差押登記がなされた時から新たに進行するのでしょうか。
それとも差押登記がなされている限り消滅時効が進行することはないのでしょうか。
この点が争われた事案において,国税不服審判所は,「差押えにより国税の徴収権の時効が中断された場合,当該差押処分の効力が存続している間は、時効中断事由としての差押えが継続しているのであるから,差押えによる国税の徴収権の時効の『中断の事由が終了した時』とは,当該差押処分に係る財産の換価手続が終了した時又は差押えが解除された時をいうものと解するのが相当である。また,差押財産の換価の時期については,原処分庁の合理的な裁量にゆだねられていると解される上,大量かつ反復的に生じる滞納国税の徴収に当たり,画一的に差押え及び換価を実施することが必ずしも望ましいとはいえないこと,差押財産が有する様々な要因等から,差押財産を直ちに換価することが困難な場合もあること,差押財産を公売に付しても公売が成立しない場合もあること,滞納者は財産の差押えを受けたことによって国税の納付が禁止されるわけではなく,財産の差押えを受けた場合であっても早期に完納することが求められることからすれば,差押処分の効力が存続している間は時効が進行しないことをもって,甚だしく不当な結果を滞納者に招来するものであるということはできず,これを根拠に差押えによる時効中断の事由が終了した時を差押処分の手続自体の終了時である差押登記がされた時と解する請求人の主張は採用できない。」と判断しました(平成22年2月22日裁決)。
この裁決に従えば,滞納者の不動産に差押登記がなされたままであれば,「中断の事由が終了した時」にはあたらず,国税の徴収権の消滅時効は中断されたままということになります。