父は75歳。母とふたりで暮らしているが、今のところ大きな病気もなく、友人とゴルフに出かけたり、朝は練習場に通ったりと、体は元気そのもの。

 

先日、私が実家に顔を出したときのこと。リビングで新聞を読んでいた父が、ふいに言った。

 

 

「おい、俺のメガネ知らないか?」

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。だってそのとき父は、いつも通りメガネをかけていたから。

 

「あら、お父さん、かけてるじゃない」

 

私がそう言うと、母も笑いながら口をはさんだ。

 

「あなた、またそんなこと言って。最近探し物多いわよ」

 

すると父が、ちょっとむっとしたような顔で言い返す。

「なんだよ、お前だって鍋を火にかけたまま忘れて、こがしたくせに」
「この前、荷物抱えて廊下でふらついたとき、俺が支えたんだぞ〜。」

 

「それは…そうだけど」と母が苦笑いする。

私は思わず吹き出しそうになりながら、ふたりのやりとりを眺めていた。

 

 

「お父さんもお母さんも、“お互いさま”だね」
「困ってることとか、気になることがあったら、何でも言ってね」

 

その場は、なんとなく笑いながら丸く収まった。
けれどその夜、あの会話が何度も頭をよぎった。

 

 

 

年を取れば、誰だって物忘れくらいする。
けれど、「もしかして…」という小さな不安が、じわりと心に残った。

父は足腰こそ元気だけれど、少しずつ認知症が心配になってくる年齢かもしれない。
母はしっかり者だけれど、体力やバランス感覚にちょっと不安を感じるようになった。


ふたりそろって元気に見えても、違う形で“老い”は静かに忍び寄っているのかもしれない。

 

 

📝FP視点でひとこと

実際、こうした”そろそろ”の気配が見えてくるのは、数字にも表れています。

 

内閣府『令和6年版 高齢社会白書』によれば、要支援・要介護の認定を受けている人の割合は、65〜74歳では約4%。
それが75〜84歳では約18%、85歳以上になるとおよそ6割にまで増えます。

 

まだ「うちには関係ない」と思っていても、いつの間にかその入り口に立っているのかもしれません。

 

介護は、ある日突然始まるのではなく、「最近ちょっと変わったかも」「心配だな」という違和感から始まります。

 

本人が元気なうちだからこそ、話せること、できることがあります。
制度やお金の備えも大切ですが、まずは”その人らしさ”を普段の生活から感じ取ることが、いちばんの準備になるのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
長井美奈枝(ながいみなえ)
ファイナンシャルプランナー
1970年生まれ。神奈川県川崎市在住。
 
銀行勤務14年を経て、2007年よりファイナンシャルプランナーとして独立。
金融知識だけでなく、暮らしに寄り添ったアドバイスを大切にしながら、
50代以上の女性を中心に、個別相談やライフプラン講座を行っています。

「お金に向きあうことで、これからの人生に安心を」
そんな思いを込めて、日々ブログを更新中。