ゲイのみなづち(@minaduchi)です。
養子縁組したら、同性婚が法制化されても法律上二度と配偶者になれません。
対等なパートナーが「親」と「子」に変えられ、配偶者控除・遺族年金など中核的な保護も得られません。
今日は「養子縁組すればいいじゃん」という言葉の裏にある、深刻な法的問題を解説します。
同性婚の法制化が実現していない日本では、同性カップルが法律上の「家族」になる手段として養子縁組が利用されることがあります。しかし養子縁組は親子関係を創設する制度であり、対等なパートナーシップを法的に保障するものではありません。
2025年までに出そろった全国6件の高裁判決のうち5件が、同性カップルを婚姻制度から排除する現状を違憲または違憲状態と判断しています。
G7で唯一、同性カップルに包括的な法的保護を提供していない日本で、「養子縁組すればいい」という言葉の実態を、民法の条文とデータに基づいて解説します。
📝 30年のパートナーが、紙の上では「親」と「子」になる
養子縁組届を手にした瞬間、30年間対等だったふたりの関係は「養親」と「養子」に変わります。
「養親」と「養子」の欄
区役所の窓口で受け取った用紙。
そこには「養親」と「養子」の欄がある。
30年、一緒に暮らしてきた。
家賃も光熱費も折半してきた。
病気のときは看病し合った。
対等な関係だったはずだ。
それなのに、この紙は言う。
どちらかが「親」で、どちらかが「子」だと。
ふたりの関係を「上下」に変えろと。
制度が決める「役割」
養親は養子より年長でなければならない。
これは民法の定めだ。
年齢の上下で役割が決まる。
たった数か月の差であっても。
苗字も、年少者が年長者の姓に変わる。
制度がそう定めている。
「対等なパートナー」だった関係が、
法律の力で「親と子」に書き換えられる。
同じ区役所の、別の窓口で
隣の窓口を見る。
若いカップルが婚姻届を出している。
紙一枚で「配偶者」になれる。
対等なまま、家族になれる。
財産も、相続も、保険も、年金も。
すべてが自動的についてくる。
こちらの窓口では「親子」になるしかない。
同じ区役所なのに、出口がまるで違う。
⚖️ 養子縁組は「結婚の代わり」にはなれない
養子縁組は親子関係を創設する制度であり、配偶者としての対等な法的保護を提供するものではありません。
養子縁組で得られる法的効果は、法定相続権の取得、同一戸籍への記載、扶養義務の発生、相続税の2割加算回避などです。法的に無関係な「他人」の状態と比べれば、意味のある前進です。
しかし婚姻で自動的に得られる以下の権利は、養子縁組では認められません。
- 財産分与請求権(民法768条、婚姻にのみ適用)
- 婚姻費用分担義務(民法760条、婚姻にのみ適用)
- 不貞行為に対する慰謝料請求
- 配偶者控除(所得控除で最大71万円の控除枠)
- 相続税の配偶者税額軽減(1億6,000万円まで非課税)
- 遺族年金の受給権
たとえば30年間ふたりで築いた財産があっても、関係が破綻した場合に財産分与を求める法的根拠がありません。養子縁組を解消しても「離縁」であって「離婚」ではないため、共に築いた財産の分割を法的に請求できないのです。
配偶者控除(所得控除で年間最大71万円の控除枠)は何十年にもわたって積み重なります。相続税の配偶者税額軽減(1億6,000万円まで非課税)が使えなければ、パートナーが亡くなった際に自宅を手放さなければならないケースすら起こり得ます。
つまり養子縁組は、相続権という一部の法的効果を得る代わりに、配偶者としての包括的な法的保護の大半を伴わない選択です。さらに親族から「縁組意思がない」として無効を主張されるリスクも存在し、有効性が確実に保障されているわけではありません。
🔒 同性婚がないから「親子」になるしかない|民法736条の不可逆リスク
民法736条は、養親子関係にあった者同士の婚姻を、離縁後であっても禁止しています。
民法736条は「養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第729条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない」と定めています。
ここで重要なのは「親族関係が終了した後でも」という文言です。養子縁組を解消して法律上の親子関係が終了しても、元養親と元養子の間では婚姻の道が閉ざされます。同性カップルにとっては「将来の同性婚法制化」という希望そのものを封じる条文です。
一度養子縁組を結んだカップルは以下の袋小路に追い込まれます。
- 離縁する → 民法736条により、法律上配偶者になる道が閉ざされる
- 離縁しない → 「親子」のまま
どちらを選んでも「対等な配偶者」にはなれません。「とりあえず養子縁組しておいて、法改正されたら結婚すればいい」という考えは、民法736条によって事実上封じられています。この事実は、養子縁組を検討するすべてのカップルに届くべき情報です。
また一方が離縁に同意しない場合は裁判離縁となり、民法814条1項が定める「悪意の遺棄」「3年以上の生死不明」「その他縁組を継続しがたい重大な事由」といった限定的な事由が必要です。
離婚と比較しても離縁のハードルは高く、関係が事実上破綻しても法的に「親子」のまま縛られ続ける可能性があります。
📊 養子縁組では変わらない日常|住居と医療の現場から
養子縁組で法律上の「家族」になっても、住居や医療の現場では異性婚カップルとの格差が残ります。
住居面では、賃貸契約時に「養親と養子です」と説明すること自体が精神的な負担になります。住宅ローンの収入合算についても、配偶者であれば多くの金融機関で認められますが、養親子関係での取扱いは金融機関や商品により異なります。
医療面では、パートナーが緊急搬送されたとき「ご家族ですか?」と問われます。養子縁組していれば「家族」として認められやすくなりますが、日本では医療同意の法的整理が明確でなく、配偶者であっても法律上の同意権とは断言できないのが実情です。養親子関係での対応は施設によって異なります。
社会保障面でも格差は明確です。遺族年金の受給権は原則として配偶者に限定されており、養子縁組関係では認められません。健康保険の被扶養者認定も、配偶者として安定的に認められる仕組みとは異なり、個々のケースで判断が分かれます。
法的権利の格差だけでなく、こうした日常の場面で「養親と養子です」と繰り返し説明する負担が積み重なります。養子縁組では、書類上も日常生活でも「配偶者ではない」という壁は消えないのです。
📋 同性婚の代わりにパートナーシップ制度や公正証書では足りない理由
パートナーシップ制度も公正証書も、婚姻に伴う法的保護の「中核」を補うことはできません。
2025年時点で全国530以上の自治体がパートナーシップ制度を導入し、人口カバー率は92.5%に達しています。数字だけを見れば大きな進展です。
しかし法的拘束力がなく、相続権、税制優遇、社会保障といった権利は保障されません。大阪高裁は「別制度は新たな差別」と明言し、福岡高裁も「代替制度では不十分」と指摘しています。
公正証書で遺言や委任状を作成すれば一部の法的保護を個別に手当てできますが、作成には数万円から数十万円の費用がかかります。異性カップルなら無料の婚姻届一枚で得られるものを、同性カップルは多額の費用をかけて「個別に積み上げる」しかない状況です。それでも配偶者控除や遺族年金には届かず、このコスト格差自体が制度的差別の表れです。
2025年には政府が33本の法令について同性パートナーも「事実婚」に含まれ得るとの行政運用を拡大しました。一歩前進ではあるものの、婚姻制度そのもの、税制、相続、年金制度は依然として対象外です。社会保障関係の約120の法令は「含まれ得る」とされておらず、行政運用の拡大だけでは婚姻に伴う包括的な保護を代替することはできません。
🌐 同性婚を法制化した国々と日本の現在地
世界では約40の国・地域が同性婚を法制化し、養子縁組や代替制度ではなく婚姻そのものへの平等なアクセスを保障しています。
台湾は2019年にアジアで初めて同性婚を法制化しました。
かつては養子縁組がパートナー関係の代替手段として使われていましたが、法制化でその必要はなくなりました。法制化後、「同性カップルは婚姻権を持つべき」との回答は2018年の37.4%から2025年には69.9%へ上昇し、同性カップルの養子縁組に賛成する割合も76.9%に達しています(台湾NDC調査、Taipei Times 2024年)。
タイは2025年1月に同性婚法が施行され、アジアで2番目の法制化国となりました。アメリカでは2015年の連邦最高裁判決で同性婚が全州で合法化されています。日本でも全国6件の高裁判決のうち5件が違憲と判断しており、最高裁での判断は早ければ2026年にも出される可能性があります。
RAND研究所の2024年のレビューでは、同性婚の法制化が異性婚に悪影響を与えたという説得的な証拠は見当たらないとされています。法制化は「養子縁組で代替する」時代を終わらせます。
❓ よくある質問(FAQ)
Q1. 将来同性婚が法制化されたら、養子縁組を解消して結婚すればいいのでは?
A. 民法736条は、養親子関係にあった者同士の婚姻を離縁後も認めていません。つまり養子縁組を解消しても、その後に婚姻届を出すことは法律上できないのです。養子縁組は「同性婚が法制化されるまでのつなぎ」にはなり得ません。この不可逆性は養子縁組の最も深刻なリスクのひとつであり、知らずに選択してしまうと取り返しがつきません。
Q2. なぜ異性カップルと同じ婚姻制度が必要なのですか?別制度ではだめですか?
A. 「結婚」と「パートナーシップ」を分けること自体が、「分離すれども平等(Separate but equal)」と同様の差別構造を持つと指摘されています。大阪高裁は「別制度は新たな差別」と明言しました。同性カップルが求めているのは「特別な権利」ではなく、異性カップルと同じ「婚姻届一枚で配偶者になれる権利」です。制度が分かれている限り、法的保護の格差と社会的スティグマは解消されません。
Q3. パートナーシップ制度が全国に広がっていますが、養子縁組の代わりになりませんか?
A. パートナーシップ制度は法的拘束力を持たないため、相続権、税制優遇、社会保障といった権利は保障されません。全国530以上の自治体で導入されていますが、あくまで「象徴的な認知」にとどまります。大阪高裁は「別制度は新たな差別」、福岡高裁も「代替制度では不十分」と指摘しています。養子縁組とパートナーシップ制度を組み合わせても、婚姻で自動的に得られる権利の全体像には遠く及びません。
💡 まとめ:「養子縁組すればいい」では何も解決しない
あなたの周りにも「養子縁組すればいいじゃん」と善意で口にする人がいるかもしれません。しかしその言葉が実際に意味するのは、対等な関係の「親子」への変換であり、民法736条による配偶者への道の永久的な喪失であり、税制・社会保障における中核的な保護の欠落です。
「養子縁組すればいい」という言葉は、異性カップルには決して求めない犠牲を当事者に求めています。全国6件の高裁判決のうち5件が違憲と判断し、台湾やタイでは法制化が実現し社会の理解も進んでいます。婚姻そのものへの平等なアクセスを保障する法改正が不可欠です。
- 養子縁組で得られる法的効果は相続権など一部に限られ、配偶者としての保護は伴わない
- 養子縁組は同性婚法制化までの「つなぎ」にならない(民法736条の不可逆リスク)
- 代替手段(パートナーシップ・公正証書・行政運用拡大)を重ねても婚姻の中核的権利は補えない
「養子縁組すればいい」と言う前に、その選択が何を意味するのか、この記事が立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。
筆者より
この記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
「養子縁組すればいいじゃん」は、知らないからこそ言えてしまう言葉です。30年連れ添ったパートナーが「養親」と「養子」に分けられ、将来婚姻が法制化されても法律上二度と配偶者にはなれない。この現実を「仕方ない」で片付けてはいけないと思っています。
養子縁組の実態を正確に知ってもらうことが法改正への第一歩になると信じています。この記事が同性カップルの置かれている現実を知るきっかけになれば幸いです。もし共感いただけたら、ぜひ周囲の方にもシェアしてください。
この記事をもっと詳しく読みたい方へ
より詳しい情報は、ブログ記事で解説しています:
https://minaduchi.blog/same-sex-couple-adoption-not-marriage
この記事の元になった投稿はこちら
https://www.threads.com/@minaduchi/post/DU6s036EhCz
参考資料
・民法(e-Gov法令検索)
・渋谷区×虹色ダイバーシティ共同調査(2025年5月時点)
・Marriage For All Japan「結婚の自由をすべての人に」訴訟資料
・札幌高裁判決(2024年3月)
・東京高裁判決(2024年10月)
・福岡高裁判決(2024年12月)
・名古屋高裁判決(2025年3月)
・大阪高裁判決(2025年3月)
・東京高裁第2次判決(2025年11月)
・RAND研究所「Same-Sex Marriage」レビュー(2024年)
・台湾NDC調査(2025年)
・Taipei Times(2024年、養子縁組賛成76.9%)







