「長い間、寝たままでいると、
どうしても足の血行が悪くなって血栓になりやすいので、
血栓予防用のストッキングを穿いて貰います。
それと、血行をよくするためバイブレーターを付けさせて貰いますよ」
ベッドに寝たままの私に看護士は言った。
首から下はピクリとも動かないので、どんなにふうにしているのかは見えない。
ストッキングは、細い金属ワイヤーが、足にぐるぐると強く巻きつけられたようで、ひどく痛かった。
さらに、バイブレーターはボールが膨張収縮し足の裏をマッサージする仕組みらしく、
「シュウゥゥゥー、プシュー」と空気が出入りする音が間断なく聞こえた。
電動式エアーマットに血栓防止用ストッキングとマッサージ装置。
首はカラーで固定されて、ただ横たわっているだけ。
絵で描いたような重症患者だ。
後日、ベッドを少し起こせるようになって足許を見たら、
キリストの頭に絡みついた棘のように鬱陶しかったストッキングは、
金属ワイヤーなんかではなく、ただの普通の白い布製の靴下だった。
メディカル用弾性ストッキングというしろもので、
収縮力は強いが、健康な身体ならば私のように強い痛みは感じることはなく、
痛かったのは頚髄損傷特有の感覚異常によるものだった。
ずっと天井の染みばかりを見ていたからなぁ・・・。
ちょっとベッドに角度をつけて、頭が上がっただけなのに、
こんなにも見える景色が違うのか、
こんなにも入ってくる情報が違うのか・・・。