待ち切れなくて、先行上映を観に行った。
ほんの1~2年前まで、わたしはこういう感じの作品に興味がなく、1も2も観ていなかった。何気なくDVDでM:i:1を観たところ、そのおもしろさにすっかり嵌ってしまい、急いで2も観たのを思い出す。3の完成を知ってからは、劇場公開を心待ちにしていた。ある方は世界最速の劇場公開(5月3日、米国公開より早い!)が韓国だということを調べ、なんと韓国釜山・プリマス海雲台まで観に行かれたというから凄い。それからすれば、6月24日の先行上映なんて、可愛らしいもの。
わたしとしては、休日には珍しい早起きをして、1回目の上映(10時10分から)を鑑賞した。

☆いきなりのイーサンの危機に、我を忘れて作品にのめり込む
椅子に縛り付けられ、責められるイーサン。
向かい合わせに拘束されている女性は、イーサンのとても大切な女らしい。
「ラビットフッドはどこだ」と詰め寄る男は、いかにも悪漢という面構えをしている。こいつが今回の宿敵となるディヴィアン。

「10数えるうちに、ラビットフッドの在処を言うんだ。言わなければ、この女を殺す」
女に突き付けられる拳銃。
無情にコールされる10カウント。
同時に響く銃声とイーサンの絶望的な表情、溢れる涙。
女は何者で、ラビットフットとは何なのか。
全てが謎で、わたしは、最初から完全にMiの世界にのめり込んでしまった。

緊迫したシーンから一転して、華やかなパーティのシーン。

イーサンのにやけた顔。
あろうことか、イーサンが結婚するというのだ。
本気なのか。スパイは結婚なんてできないものと相場が決まっている。
ジェームス・ボンドは、結婚してすぐに新妻を殺されている。
ようやく、この作品の魂胆が見えてきた。イーサンに結婚させておいて、彼の愛する新妻を誘拐するのだ。イーサンが新妻を奪還できるかどうか、手に汗握る攻防が続くと言う筋書に違いない。
ふふーん。そんなものじゃ、わたしはびっくりしないわよ。
わたしは高をくくっていた。しかし、それは、良い意味で裏切られる。
そんなものじゃなかったのだ。

☆真の敵は誰なのか
これが最後まで判らないのだ。
わたしは、ずうぅぅーっとディヴィアンが真の敵とばかり思っていた。もちろんディヴィアンも強敵には違いないけれど、安心あれ。そんな単純な展開ではない。
イーサンの愛弟子であったリンジーが命懸けで残したマイクロチップには、

局長のブラッセルが

ディヴィアンと癒着しているとの驚くべき情報が詰まっていた。
リンジーもイーサンも嵌められたのだ。
それならば、合点がいく。
せっかく捕らえたディビィアンを本部へ護送中に襲われ奪還されてしまうのも、内通者がいたからなのだ。こうなると、ディヴィアンがイーサンに宣言した「お前の最愛の女を捕らえ、痛めつけてやる」という言葉が現実味を帯びてくる。
妻のジュリアが危ない。
焦燥感がつのるイーサン。

☆日常生活の中にも同じ感覚が・・・
リンジー救出作戦が失敗に終わった時、

局長のブラッセルは、イーサンとその上司であるマスグレイブを激しく叱責する。
彼の叱責は、作戦が未熟で何の情報も得ることができなかったばかりか、救出作戦失敗でリンジーを殺されてしまったこと、リンジーの「作戦要員としての適性への疑問」と彼女の適性を認めたイーサンの「指導者としての能力の是非」にまで及んだ。死者に鞭打つような酷い言われ方だ。こんなふうに言われたら、こんな上司のもとでは働きたくないと誰だって思うだろう。
確かに「頭の中に小型爆弾を打ち込まれた」状態で救出メンバーに合流することは、メンバー全員の命を危険に晒すことになる。だからと言って、リンジーにどうしろと言うのか。まさか自害しろとでも・・・・・・。
この場合の模範解答は、物語の最終局面で、リンジー同様に頭の中に小型爆弾を埋め込まれたイーサンが自演する。つまり、死を覚悟で高圧電流を自分の身体に流すのである。これにより小型爆弾のタイマーをリセット破壊するのだ。なんとも凄まじい。こんな解答ができるのは、IMFのメンバーの中でも超エリートのイーサンだけだろう。それを新人のリンジーに求めるのは無理というもの。そんなことは、ブラッセルにだって判っていたはず。それを、なんて非情な。

こういう感覚、感情は、わたしのような平凡な人間でも、しばしば日常生活の中で経験する。
仕事上のミスを上司から叱責される。
ミスはミスとして厳正に受け止めなければならないが、言い方があると思うのだ。どこが悪かったのか、それを部下に判りやすく指導・指示できてこそ、上司たる資格があるというものだ。
また、その指導・指示も、部下が受け入れ易いものにする必要がある。感情的な反発を生むようなやり方は、クレバーなやり方とは思えない。

その点、直接の上司のマスグレイブは、何かと部下を庇い、なかなか良いではないか。好感が持てる。

だからこそ、イーサンも、彼を庇い、起死回生のヴァチカンでのディヴィット捕獲作戦を立案・遂行したのであった。人間、意気に感じると無茶をするものだ。トム・クルーズの演じるイーサンは、スパイのくせに、こんなふうに人情的なところがあって、わたしは好きだ。死んだ愛弟子のリンジー、庇ってくれる上司のマスグレイブのために、彼は一肌脱いだのだ。

この作戦は、ほとんど無謀なものであったが、優秀なメンバーたちの活躍もあり、大成功を収める。

しかし、裏切り者がいては、ディヴィアンが簡単に敵に奪還されるのも止むを得ない。

ジュリアを守ろうと彼女のもとに急行したイーサンだったが、一足遅く彼女は敵の手に落ちてしまった。それどころか、イーサン自身もブラッセルに捕らえられてしまう。イーサン、絶体絶命のピンチ!!!

でも、この辺りで妙だなと思った。
なぜならば、敵は、ジュリアを人質にとってまで、イーサンにラビットフットを届けさせようとしているのだ。イーサンを拘束するのでは道理が合わない。
疑問を残しつつ、物語は進行する。
マスグレイブが、拘束されたイーサンの耳元で囁く。
「全ては判っている。上海に逃げろ」
上海でのイーサンの働きは、ヴァチカン以上だった。
振り子の原理を利用した大ジャンプに、

高層ビルからのパラシュート降下。

命がいくらあっても足りないスタントの連続だ。50歳前とはとても思えないトム・クルーズのスピード感溢れる演技に、わたしは酔い痴れてしまった。これだけでも、大いに観る価値がある。

ブラッセルについては、もう1点、ついでだから言っておきたいことがある。
リンジー救出作戦時には、あれほど失敗を非難しておきながら、ディヴィアン捕獲作戦時には、無断の無謀な作戦なのに成功したとなると手のひらを返したように褒める。これが気に入らない。まさに「成果至上主義」ではないか。
プロセスを完全に掌握したうえで成果を評価するのはよいが、成果だけを見て、方法は不問と付すような結果オーライのやり方は、いずれ破綻する。
そんなやり方をしているから、部下が何をしているのか判らず、全てが後手の回るのだ。こんな無能な上司には仕えたくない。
もっとも、ブラッセルにしてもマスグレイブにしても、わたしが仕えてきた上司たちよりは余程ましだけれど・・・・・・。

☆最愛の妻に秘密は保てるのか
問題はここにある。根源的なテーマとも言えるだろう。
今回のミッションインポッシブル3の特徴は、前述した職場での軋轢にしろ、夫婦間の感情の交錯にしろ、とてもリアルで観客の心に迫ってくると言う点だ。
イーサンの秘密に気付き始めたジュリアがイーサンに迫るシーン。
信じて欲しいと訴えるイーサン。このシーンは、今回の作品の性格を伝える極めて象徴的なシーンとなっていると思うのだ。
夫を信じることは妻の役目だと思う。しかし、秘密を作るのはよくない。だから、秘密をなくす必要があり、そうなるように仕向けることが、妻の役目なのだ。
どうやって、そうするか。
その解答は、最後に用意されている。
最後のディヴィアンとの壮絶な戦い。
頭の中に小型爆弾を打ち込まれながら、愛する妻を助けるために、上海の町並みの中をイーサンは疾走する。
この必死の形相。凄まじいの一言。

ようやく辿り着いた敵のアジトでは、宿敵ディヴィアンとの対決が待っていた。
イーサンは死力を尽くして戦い、ようやくディヴィアンを倒すが、頭の中の爆弾の時限装置は刻々とカウントダウンしていく。
もう時間がない。
ぎりぎりの選択の中で、イーサンは全てを愛する妻に託す。
このシーンで、ジュリアは、イーサンから与えられた指令を見事に果たすのだ。
その指令とは、イーサンから短時間で教えられた拳銃の使い方を頼りに、敵と戦うこと、そして、イーサンを蘇生させること。

平凡な一般人の彼女に与えられたこの指令は、まさにミッションインポッシブル(成功不可能な作戦)ではないだろうか。
しかも、彼女の倒した敵こそ、影の黒幕マスグレイブだった。
そうなのだ。リンジーも欺かれていた。
ディヴィアンを影で操っていたのは、なんとイーサンの直接の上司マスグレイブだったのだ。
最後の最後に、それを知った時、あまりにことにわたしは呆然としてしまった。すっかり騙されていた。今時なかなかいないような良い上司だと思っていたくらいなのだ。
イーサンもそうと理解した時は、驚いたことだろう。
これほど狡猾で強力な敵は、イーサンも遭遇したことがなかったはずだ。
それだけにジュリアの活躍が光る。ジュリアは、たった一人でマスグレイブを倒したのだから。イーサンがジュリアのことを凄いと感心したのも当然なのである。
イーサンを蘇生させたのは、彼女の本職が看護士だから、順当なところかな。

かくて秘密はなくなった。
ジュリアとイーサンがIMFのメンバーに祝福を受けるシーンでは、本当によかったと思った。妻が妻たる地位、換言すれば、夫の秘密を全部知る地位を得たからにほかならない。
夫婦たるものそうでなければならない。
ジュリアの満足そうな表情は、それを物語っている。多分、ジュリアもIMFのスタッフになるのだろう。組織の秘密を守るためには、そうするしかないだろう。

結論。
最愛の妻には秘密は保てないし、秘密をつくってはならない。

でもね、トム・クルーズ自身はどうなんだろう。理想は理想として、こんな作品をつくりましたというところかな。

シリーズ中、最高傑作!!!
見逃すのは惜しい。劇場へ急ごう!!!