我が家のルンバが公園デビューした。
といっても、掃除機を公園に持って行ったわけではない。
”ルンバ”とは、1歳2ヶ月になる息子に愛を込めて付けたあだ名である。
名付けたのは生後6ヶ月の頃だったと思う。
ハイハイを始めた息子はとにかく何でも口に入れる性で、地面をハイハイしては、ティッシュにゴミに、あらゆるものを食べようとする(娘は全くしなかった。子供の行動って個体によってこんなに違うんだ、と驚いた)。
そして、オムツを替えようとしたある日。オムツの中に、2本の髪の毛が入っていることに気付いた。
(あら、前回オムツを替えた時に、私の髪が入っちゃったのかしら?)
そう思ったが、その髪の毛を取り除こうとすると、何かひっかかった。
(?!)
なんとその髪の毛の一端は息子のお尻の穴の中にあったのだ!
(髪の毛、食べてお尻から出て来たっていうこと?!)
一応部屋はきれいに掃除していたつもりだったし、ゴミを食べないように注意していたつもりだったのに、食べさせてしまっていたことが申し訳なくて、でもなんだか「髪の毛をお尻から回収した」のがちょっと可笑しくて、その「2本の髪の毛の旅」の一連の様子を想像したとき、私の脳裏にこのあだ名が浮かんでしまったのだ。
「ルンバ!」
そう、部屋中を自らハイハイしては、あらゆるものを吸い込む、可愛い掃除機である。
ヘンテコなあだ名をつけてみたものの、「ゴミを食べるのはそのうち止めるだろう、ルンバと呼ぶのも2~3ヶ月ぐらいのことかな」と思っていたが、しかしルンバ氏、活動を止める様子はなかった。ティッシュ、シール、家の中のあらゆる凹凸など、口に入るものはなんでも食べてみたがり、半年以上経った今でも目が離せない。(注)
そんなルンバ氏だったので、公園や親子館などに連れて行く事が、なんとなく躊躇されていた。葉っぱ、土、動物のフン、ゴミ……、あらゆるものを手に取って食べるのが容易に想像されたからだ。
しかし、やっと歩くようになった1歳2ヶ月、気候も良い5月のこと……、私はついに決心し、公園に連れて行くことにした。
ルンバ氏、公園デビューである!
我が家の近くにある公園は、小さいけれどよく整備されていて、床に柔らかめのタイルが張られていたり、色々な植物が植えられていたり、トカゲや時には風変わりな鳥(恐竜みたいに見える)が出没したり、1歳児が冒険するには十分すぎる環境だ。
「1歳児の公園遊びって、こんなに楽しかったっけ」と私は思った。
3歳になった長女ともよく公園には遊びに来るが、3歳児はもう遊具の使い方もお手の物で、子供同士で遊ぶ事もできるので、私は少し離れて見守っているだけで良い。
だけど、1歳児は全て、歌舞伎の黒子のようにぴったりくっついて、ジャングルジムに入れば頭をぶつけないようにガードし、滑り台は一緒に滑り、他の子供に近づけば危害を加えないよう見ていなければならない。
「じゃあ、シューしようか!」
息子を膝に乗せて一緒に滑り台を滑る。
スピードが増して、途中でちょっと浮遊感を感じる瞬間があり、それを予期してちょっとドキドキする。
「滑り台って、楽しいなあ!」いつの間にか、自分が楽しんでいる。
息子がいなかったら、大人になって公園の滑り台を滑ることなんてないだろうと思う。そして、滑り台を一緒に滑らなくてはいけない(一緒に滑らせてくれる)のは、実は本当に短い時間なのだ……、そう思うと、滑り台を滑るこの瞬間ってなんて貴いのだろう、と思える。一緒に滑る一回一回が、神様がくれた幸せのご褒美みたいだ。
さて、今のうちに、その幸せの滑り台を何度でも滑りたいところではあるが、しかしルンバ氏、滑り台よりも葉っぱの方が好きらしい。
滑り台を何回か滑ると満足し、今度は植物の前に座り込んで、葉っぱを延々と引っ張って(食べようとして)遊ぶ。
私は息子が食べないように寸止めで制しながら、公園をゆっくりと見渡す。
午前中の公園には私たちのような子供連れもいるが、(我が公園の)最大勢力は、お年寄りの車いすを押した外国籍のお手伝いさんである。
「お年寄りのお散歩」が大義名分と思われるが、事実上はお手伝いさんのリフレッシュタイムでもあるらしく、同じ東南アジアらしい顔立ちのお手伝いさん達同士でお喋りしたり、スマホを触ったり、なんだか楽しそうだ。
私は、そんなお手伝いさん達の人生に少し思いを馳せてみる。台湾に出稼ぎに来て、ここでの暮らしはどうだろう。
どんな楽しみがあるんだろう、お給料で何を買うんだろう。
故郷の味が懐かしくないかな、祖国に帰ったらどうするのかな?
立場は違えど、海外から台湾に来ていることは同じで、(そして公園でのんびりしていることも同じ)、なんとなくエールを送りたくなる。
(いや、むしろお手伝いさんは公園に来る事でお給料が発生しているので、いいなーと思ったりする。そして色々考えた結果、「公園の後かき氷を食べても許されるだろう」という気がしてくる)
その他にも、犬の散歩をする人、運動する人、スマホで時間つぶしをする僧侶(どんなサイトを見ているのかちょっと気になる)など、いろんな人がいて、観察していて飽きない。
人ばかりではなく、息子と一緒に草を見るのさえ楽しい。
葉っぱの付き方に注目したり(植物の外見の様子から名前を検索できるサイトも見つけた。すごい!)、コンクリートの隙間に生えている葉っぱに生命力を感じたり、虫の動きをゆっくり観察したり。公園、面白いな……あっ、ルンちゃん、葉っぱ食べてるーー!!
(注)「ルンバ」氏がハイハイしなくなったら、どんなあだ名になるのだろう、と思っていたところ、歩き始めた息子はスイッチやリモコンにとても興味を示し、暇さえあれば電気やテレビをパチパチとON/OFFしている。そこで考えた新しい名前が「スマートハウス」である。スイッチに手を触れなくても電気が点いたり消えたりする我が家、とほほ、あはは!)