前作「プルトップの指輪」続編です。
続編とは言っても、1年後になる前のお話です。

ヒチョルさんが出てきますが、悪い役です。
嫌な方は回れ右です。


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それでは、
下に貼った音楽を聴きながら、どうぞ。










プルトップの指輪2



「チャンミナ…」
「ん?」
「大分、治ってきたな」
「まだ色が薄くなっただけだけどね」

確かに背中や胸、腹、脚には打撲の痣や
煙草かなんかの火傷の跡が
残ってはいるが、
毎日俺が軟膏薬を塗ってやってるおかげで
だいぶキレイにはなってきた。

ちゅっ

「…大大、大好き」

チャンミナはありがとうって言うより
大好きって言うのが好きらしく、
毎日俺の唇を素早く
奪ってはそう囁いてくれる。
そういうところがまた色っぽいと
何故か感じてしまうのは
チャンミナの溢れる色気のせいかもしれない。

「ねえ、ユノ。
やっぱりユノに体を撫でられると
感じちゃうよ。今夜も…ね?」

妖艶に微笑んでわざと指先を舐める
仕草をされたら…Noっていう
思考回路になるはずがない。
むしろ身体中が疼いてしまうほど。
まったく…いちいちエロいな。
俺の恋人は。

「あ、そうだ。僕、バイトするよ」
「バイト?なんだ急に」
「僕だって孤児院の施設を建てるための
資金を作りたいんだ。…ね?ユノ?」

そう言って首に腕を回して
体をイヤらしく擦り付けてくる。

「お願い…はぁ…オシゴト…
したいんだ…」

吐息掛かった声で耳元で囁く。
…まったく!ホントに
いちいちエロいヤツだな!
俺はチャンミンを勢いよく押し倒した。

「…やれよ。オシゴトってやつ」
「ユノ………あっ……ふふ」

うなじにキスすればピクンと体が反応する。
たまらない…。
俺は止まらなくなって夜まで待てずそのまま
チャンミナを激しめに抱いてしまった。

結局チャンミナは腰に負荷がかかって
朝を迎える頃には
立ち上がることができなくなってしまった。
そのくせバツが悪いと思って
苦手な昼食作りをしてる俺を
黙って幸せそうに見守ってくれていた。

「うわ、熱っち!!」
「ふふっ…やっぱユノは可愛い」

くっそ、バカにすんなよな?
もう動けるぐらいには回復したものの、心配し、
チャンミナの体を支えながら
テーブルに座らせると、
俺は自己流で作ったしょっぱい
醬油味の卵焼きを振る舞った。

「…美味しくないけど、
愛情は伝わってくるよ、うん。
美味しくないけどね?」
「美味しくない美味しくない言うな!
だったら食わなきゃいいだろ」

俺はチャンミナが咥えてた箸を奪って
さっさと卵焼きを流しへ捨ててしまった。

「なに?それ…。誰かさんが
美味しく作れば良かったんじゃないの?」
「あ?人様が作ってやったのに
その言い草はなんだ」
「僕、食べないとは言ってないでしょ。
なんで自分が愛情いっぱい込めたもの
捨てられるの…」

すると、チャンミナの大きな瞳から
うっすらと涙が…。ああ…ちょっと
振る舞いがぶっきらぼうすぎたか。

「チャンミナ?ご…」
「…バカ」

チャンミナはそれから薄暗い曇り空の中、
独りになりたいと言って出て行ってしまった。

「チッ…しょうがねえな」

俺はチャンミナが出て行ってからすぐ
心配になって心当たりのある場所へ行った。
一昨日行ったカフェ、
昨日行ったパン屋、
昨夜キスした公園…。
どこへ行ってもチャンミナの姿はなかった。
すると、ぽつ、ぽつと冷たいものが頬を伝う。

「くそ、雨か…急がなきゃな」

近くにあったバー。そうだ…俺とチャンミナは
ここで知り合ったんだ。チャンミナにとって
トラウマもあるとこなんだから
いるはずもないと思いつつ入ってみると、
透明感のある歌声が聞こえてきた。



ララララ  ララララ  大気の変化を感じる?
ララララ ララララ  これはあなたへの呪文
ララララ  ララララ  雲が急いで集まってくる
ララララ  ララララ  ここであなたを待ってる

得るものがあっても
失うものなどないあなただから
あなたが足止めを食らって  
ここへ来ざるを得ないよう唄う
雨雲はいま痛手を負った胸からの
指令を黙って待ってる
どうする?どうする? 
引き返せない  振り返れない
雨よ降れ  雨よ降れ



「チャンミナ…」

ったく、バカだな…そんな悲しい歌歌って。
でも、確かに俺には失うものなんてない。
それは、大切なお前のことを守り抜く自身が
あるから。何も大切なものが
ないわけじゃない。俺は優しく笑って
ステージの上に立つチャンミナの元へ向かうと、
1人の中性的な男が俺を遮るように
チャンミンに立ちはだかった。

「チャンミナ…」
「あ、あなたは……」
「忘れてたわけじゃねえようだな。
お前の常連客だったヒチョルだ」

コイツ、確か俺とチャンミンが出会った時に
チャンミナとキスしてた客だ。

「前より一段と色っぽくなったじゃねえの。
まさか、俺からチャンミンを奪った
コイツのこと、本気で好きになった
ワケじゃねえよな?」
「…そのまさかだよ、お客さん…」
「ずいぶん腑抜けになったもんだな、
この淫乱男が。お前、俺がどこの誰だか
分かってるよなあ」
「借金取りの息子さん、だったね」
「お前、約束で済ませてやっただけ
ありがたいと思えよ。俺もいつまでも甘い顔
してると思ったら大間違いだ。俺のもんに
なるって言えば傷つけることなく
何不自由なく生活させてやるよ」
「あいにく、僕はカラダを
傷つけられることには慣れてるんだよ。
そんな拷問されても、僕は屈しない」
「へえ…イイ度胸だ。
お前ら、チャンミンやっちまえ」
「へい!」
「これ以上好き勝手な言動させるかよ」

俺はチャンミンと客の間に入って
客を睨みつけた。

「そうだ…チャンミンをヤるより
コイツを始末した方が思い通りになりそうだ。
お前ら、やっぱコイツ始末して」

すると、ガタイのいい男5人があっという間に
俺を囲んで袋叩きにした。2、3人なら
どうにかなったけど、これは予想外だった。
俺は呆気なく見るも無残な顔になるまで
酷く殴られた。

「や…やめて!お客さん、悪かった!
悪かったから…僕を、好きにして……」
「はっ…2人ともイイ表情(カオ)だ。
じゃあコイツの目の前で
ヤっても平気だよな?」
「う…させねえ、よ…チャンミナ……」

……ジリリリリリ!!!

「か、家事だ!みんな避難しろ!」

スプリンクラーから大量の水が流れて、
這いつくばってる俺はチャンミナの胸に
抱かれながらこの身を濡らした。
この声、聞き覚えが…

「チッ…俺の高級スーツが…
お前ら、とりあえず外へ出るぞ!」
「行ったな…。だ、大丈夫か?ユノ!」
「ドンへ…?」
「機械いじって火災報知器鳴らしてきた。
それにしてもお前バカだなあ。
カッコつけて返り討ちに遭うだなんて…」
「ホントに…バカ……」

チャンミナは泣きながら俺の頭を抱えて
震えている。なんで、震えてんだ?

「怖かった…ユノが死ぬまで
傷つけられると思うと…。ユノ、ごめん…
ごめんね……。僕、ユノが愛情込めたものを
捨てたユノが許せなかった…
それが卵焼きでも……」
「俺こそ、ヤな振る舞いしてゴメンな?」

すると、ぽかんと蚊帳の外にいたドンへが
くっくと笑いをこらえて
腹を抱えながら俺たちを指差した。

「お前ら、いつもそんな犬も食わない
ケンカしてんの?くだらねー!」

確かに…他人に知られたら恥ずかしくなるほど
くだらないケンカに思えてきた。

「まあ、アレだな。
ケンカするほど仲がいいってヤツだ」
「ユノ…早く仲直りのキスしたい…」
「お、おいおい!俺がいるんだから〜!」

ドンへはわざとらしくオーバーに
恥ずかしがってみせる。俺も人間関係全てが
腐れ縁だと思ってた自分を恥じなきゃな…。
俺にはこうして助けてくれる親友と
愛し愛される恋人がいる。
それだけは忘れないようにしなくちゃな。

「そういや、ドンへはどうして…」
「はっ!?お前、チャンミンしか
見えてねーのかよ!俺、後ろで
一生懸命ドラム叩いてたんですけど?」

ああ。そういや高校時代、
軽音楽部やってたんだっけ。

「偶然僕のバックバンドの一員に
なってくれたんだ。僕、このバーで
歌手だけのオシゴトするつもりで」

ああ、それでこのバーにいたのか。

「挨拶のハグした時チャンミン…うふっ。
イイ匂いしたなぁ〜」
「!コイツ!」

俺は背骨を折ろうとドンへを抱えると、
ギブギブと手を叩かれてる俺を見て
クスクスとチャンミナが笑っていた。
ったく。チャンミナは無自覚だ。

一緒に歩いてる時も男女関係なく
見惚れられてんのに全く気づいてない。
5歳児の子供に「お兄さんきれーだね!」
って言われたり、暑化粧のそこそこイイ女に
「お兄さん、色っぽぉい♡
ねぇ、お姉さんとイイコトしない?」
って飲み物買ってきてる隙に
逆ナンされてたり、満員電車で知らないうちに
平気な慣れた顔してオヤジに痴漢に遭ってたり…
ホントに油断も隙もない。そいつらに嫉妬
してばっかだけど、それを知らせる度に
チャンミナはちゅっと音を立ててそいつらに
見せつけるように恥じらいもせずキスをして、

「ユノ、大好き」

そう言ってくれる。されてからガードする
なんて、遅すぎるだろ。狼どもがよだれを
垂らしてチャンミナを狙ってるの、本人は
気づいてねえんだ。チャンミナは
隙がありすぎて怖い。だから俺がずっと
ついてやらなきゃ。そう思った。

「もう俺から離れんなよ?」
「うん、王子様」
「あーもう、また俺は仲間はずれかよ。
チャンミンもうっとり見つめちゃって、
やれやれ…」
「ふふ、ゴメンねドンへさん。
今度奢るから一緒にカクテル飲もう?」
「俺同伴だけどな?」
「えー?ジャマすんなよユノ」

ジャマするさ。親友のお前だって
チャンミナにちょっとは気があるみたいだし。

「「…へっくし!」」

俺とドンへのくしゃみがキレイにハモった。

「風邪引いたら大変だから、
ドンへさんもウチに上がってって?」
「悪いな〜チャンミン」

チャンミンが知ってる裏口からのルートで、
ヒチョルたちに見つからないよう
こそこそしながらも同棲してるウチまで着いた。

「おいドンへ!勝手にウチのバナナ食うなよ」

ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、俺たちは3人
仲良く川の字で寝た。なんで大の男3人で
ベッドなんだよ…狭いよ。
チャンミナが何故か真ん中だし。

「ドンへさん、寝た?」
「………。返事しないってことは
寝たみたいだな」
「ユノ、こっち…来て?」

チャンミナが導いたそこはソファだった。
チャンミナのその大きな瞳は
欲望の炎を灯していて…

「ドンへが起きてもいいのか?」
「いい。むしろ、見せつけた方が
僕は安全だから」
「全く…俺の気持ちも分かれよ。ドンへにお前が
あんあん喘いでる声なんて聞かせられるか」
「僕は大丈夫だけど、ユノが嫌ならやめとく」
「…はあ、残念…」
「あ?ドンへ起きてんのか?」
「ッ!!ぐー!!ぐー!!」

イビキがわざとらしいんだよ、まったく。

「な?油断も隙もないだろ」

チャンミナはまたくすくす笑ってる。
ホントに警戒心ゼロだ。

「エロい恋人持つのも苦労するな…」

俺はチャンミナにキスだけすると
そのままソファで一緒に横になって
今日も温かい朝を迎えた。

「あー…見てるこっちの方が
ドキドキする〜…」

ドンへが迂闊にシャッター音を鳴らして
俺たちを隠し撮りして起こすのも、
なんだか今となっては寛大に許せた。
この後ドンへのスマホを取り上げて
初期化してしまったのは、言うまでもない。



-END-




ユノ、許せてないじゃん😅
しかもほとんど大人な雰囲気ナシ。


ちなみにあたしがスマホを初期化されたら
連絡途絶える友人がいるので、真面目に
間違いなく泣きます。例えそれが
ユノであろうとチャンミンであろうと
ジャンピングラリアットものです。
いや…ホミン相手にそれはできないか、流石に。