自民党内で安倍晋三首相の「1強」状態が続く中、首相にもモノ申す数少ない人物の一人が、野田聖子衆院議員だろう。自民党の総務会長時代月刊誌に「集団的自衛権に反対」する論文を書き、安倍政権から干された。「初の女性首相候補」という声も一部で強いが、彼女が安倍政権をどう見ているのかについてのインタビューだ。これを読むと野田聖子議員に頑張ってもらいたい。
毎日新聞 2015年04月20日 東京夕刊
◇女性活用、定数削減 首相は約束果たせ
◇未達成ならファイティングポーズ/「日本は斜陽国家」と正直に
自民党内で安倍晋三首相の「1強」状態が続く中、首相にもモノ申す数少ない人物の一人が、野田聖子衆院議員だろう。「初の女性首相候補」ともいわれるが、安倍政権をどう見ているのか。松田喬和・毎日新聞特別顧問が聞いた。【構成・瀬尾忠義、写真・森田剛史】
--統一地方選の前半戦が終わり、自民党は堅調。死角のない「安倍1強」がさらに強まりそうです。
野田氏 なぜ「1強」なのか。私なりに考えてみたんです。実は安倍政権になってから、本当に国論を二分するようなビッグイシュー(大きな争点)には直面していないんですね。集団的自衛権の問題にしても、閣議決定前にざわっとした雰囲気にはなったけれど、国民は集団的自衛権について学んでいないし、日々の暮らしに直接は関係しませんから。消費税だって「上げない」と言われれば、今の景気では反対しにくい。結果がどう出るかは別として、首相はステディー(安定的)に物事を進めているとは言えます。これでは党内に摩擦は生じにくい。けんかにならないんです。
--かつての自民党には多様な議論を交わす土壌がありました。今や安倍首相にモノ申せるのは、野田さん以外では議員バッジを外した人たちだけです。
野田氏 「野田聖子症候群」が広がっているのかも。私は小泉純一郎元首相が打ち出した郵政民営化に反対したことで官邸や党執行部の逆鱗(げきりん)に触れ、離党を余儀なくされました。政党助成金の分配もなくなり露骨な嫌がらせもあり、塗炭(とたん)の苦しみを味わわされた。私は免疫ができましたが、他の方はやはり怖いと思うのでしょう。「野田みたいになりたくない」と。
ただ「1強」といわれても、有権者が安倍政権を積極的に支持しているとは思えません。熱狂的に支持しているなら投票率が下がるはずはない。これから安全保障法制の国会審議が始まり、原発の再稼働に向けた対応も問われます。今までは党内の一部や自公の協議で済みましたが、議論が国民の目にさらされる。その時、寝たふりをして安倍首相に意見を言わなかった人が、起きて意思を表明するのか。本音を言えば、閣内にいて影響力のある石破茂地方創生担当相にも、もっと発信してほしいんです。
--新たなリーダー候補が少ないことも問題です。
野田氏 自民党が組織として、ルーキーを育てていこうという動きはありません。本来なら、国際政治で存在感を示せるような人材を育てる役割を、政党は課せられているはずです。
--野党、とりわけ民主党に勢いがないことが「1強」を助けている?
野田氏 民主党はやはり解党したほうがいい。考え方が違う人が多く、あまりにもまとまりに欠ける。勤労者の政党と言いながら、国会議員を支えているのは一流企業の労働組合。コツコツと地元を回る自民党の議員よりも世間の厳しさを実感しにくいでしょう。
--安保法制や憲法改正に積極的な安倍首相は、祖父の岸信介元首相の遺訓を守ろうとしているようです。しかし安保の要となるべき近隣外交では中国や韓国との対立が解けず、両国のナショナリズムに油を注いだ感すらあります。
野田氏 安倍首相が2012年9月の自民党総裁選に立候補した当時は、直前に韓国の李明博(イミョンバク)大統領(当時)が竹島に上陸するなど中韓ともに反日感情を鮮明にしていました。総裁選で安倍さんは非常に強い軍事的メッセージを発し、鬱屈したムードを払いのけてくれるだろうと期待され、下馬評を覆して勝った。
経済的にはリーマン・ショック後で欧米はもちろんアジアも壊滅状態だった。内政のひどさをごまかすために仮想敵国をつくり、危機をあおるのは常とう手段ですが、それを韓国、中国、そして日本もやってしまった。それぞれのリーダーは人気取りに成功しましたが、関係修復は難しくなった。結果的に3国とも損をしていると思います。
--ずばりうかがいますが、9月に予定されている総裁選に立ちますか。
野田氏 安倍首相の通信簿をつけるとしたら、落第とは書けません。アベノミクスも道半ば。20年間崩れ続けた経済を、あと3年で立て直すとおっしゃった。だから3年は見守らないと。ただし、一度下野した自民党が本当にリニューアルできたかを推し量る政策が二つあって、私はそこにこだわっている。国会議員の定数削減と女性活用です。国民との約束を忘れたふりをされてはかなわない。
--その女性活用では、安倍首相は「20年までに全ての分野で3割、女性が指導的な立場に立つ社会をつくる」と訴えています。
野田氏 現実はお寒い限りです。ある人に「安倍さんは20年には首相じゃないから、女性活用には積極的じゃないよ」と言われ背筋が凍りました。無責任な政策では困ります。目標の実現に向け、女性幹部の枠を一定数割り当てる「クオータ制」を直ちに導入すべきです。少なくとも自民党の女性議員は、現行のままでは絶対に増えないし、目標の30%にはならないから。定数削減も、今国会で決めないと次の衆院選に間に合わない。若干、疑心暗鬼になっています。公約が達成できないことがはっきりしたら、私はファイティングポーズを取りますよ。
男性議員のリーダーに引き上げられる女性議員は私も含めていますが、しかし、ここまで私を強くしてくれたのは小泉元首相。郵政解散で小泉さんと1対1のけんかをして、勝たせていただいたから、今の私があるんです。
--将来、総裁を目指して決起するタイミングは?
野田氏 私の堪忍袋は結構大きいから、分からない(笑い)。ただ安倍首相や官邸と私の根本的な違いは、日本が少子化による人口減少で斜陽国家になったという基本認識を持っているかどうか。安倍首相はかつての自民党のように夢や希望を国民に与えるのが政治だ、と。しかし、私は斜陽の現実を国民と共有し、厳しい状況をどう打破するかを考えたい。秋の総裁選で安倍首相が「日本は世界で最も人口減少が激しい。これが全ての政策に負荷をかけている。解決策を一緒に考えよう」と国民に訴えるなら、全力で支えます。
--首相が仮にそう宣言しなかったら?
野田氏 もちろん安倍首相には直接、提言していきます。首相がどうなさるか。見てみましょう。
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■人物略歴
◇のだ・せいこ
1960年生まれ。上智大外国語学部卒。93年の衆院選で初当選。現在当選8回。郵政相や消費者行政推進担当相、自民党総務会長などを歴任。少子化問題に意欲的に取り組む。
【CafeSta】キーパーソンに聞く! ゲスト:野田聖子総務会長 ナビゲーター:小林史明ネットメディア局次長