辛口評価の多い白川日銀前総裁であるが、私は伝統的なセントラルバンカーとして、一定の評価ができると思っている。私の感想に近い内容を
毎日新聞の潮田編集委員が書いているので紹介する。
水説:白川日銀のアート=潮田道夫
毎日新聞 2013年03月20日 東京朝刊
<sui-setsu>
デフレの原因についてはさまざまな説明があるが、主流の経済学者は日銀犯人説(貨幣数量説)をとらない。最近出た本で吉川洋(ひろし)東大教授の「デフレーション--“日本の慢性病”の全貌を解明する」の世評が高いが、これもデフレ=構造問題説だ。
ポイントは賃金決定メカニズムが日本と欧米では違うこと。その結果、日本では名目賃金の下落幅が欧米よりずっと大きい。これが先進国で日本だけがデフレになっている主因だというものだ。
安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」を推進するリフレ派のひとびとは、デフレは日銀の金融緩和不足のためだと言っている。その代表的論客の黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行総裁と岩田規久男学習院大教授が、ついに日銀正副総裁になって大金融緩和をするらしい。
まだ何もしないうちから円安になり株高になった。だからリフレ派の言うことが正しいかのように聞こえるが、もちろんそうではない。
誰よりも心配しているのは白川方明(まさあき)前日銀総裁だろう。安倍首相の圧力で政府と日銀は共同声明をまとめ2%の物価目標を設定した。そこに早期に達すべく金融緩和を加速することを約束した。
2%になるまで機械的に国債を買う約束ではないし、バブルの気配や国債暴落の兆しがあれば政策変更も可能な文言である。しかし、政治圧力に屈したのは事実であり、危険な経済実験に道を開いた。
総裁を辞任して抵抗すべきだった、という人もいた。わたしは辞任は早計で、この際は2%目標を受け入れるべきだと思った。これ以上ケンカすれば政府と中央銀行の双方が深手を負う。譲歩しても天が落ちてくるわけではない。
白川日銀をふりかえって、リーマン・ショックや欧州通貨危機から日本を隔離したのは大きな手柄だった。海外にはこれを評価する声が多いという。不幸なことに近年の中央銀行総裁は政治家であることを求められている。だが、白川さんは正統派経済学の教義に忠実な理論派だった。
だから会見や講演では、日本経済の実力アップは金融政策ではできないと説いた。ゼロ金利下の金融政策は時間稼ぎに過ぎず国債バブルはいつ崩壊してもおかしくない、政府は危機感をもて、経済改革をなまけるな、と。政治に注文をつけ続けたから、政治家の不興をかった。
それがいつからだろう、金融政策はアート(芸術)であると言いだした。確かに最後の仕事、政府・日銀の2%合意は日銀の独立性を首の皮一枚残したアートの極みかもしれない