昨年秋に色々あったせいか、急に読書から離れていましたが、今年からまた読んでいます。そんなわけで、独断と偏見による読書感想文コーナー。


恒川光太郎『竜が最後に帰る場所』

恐ろしくも美しいファンタジーの世界は、短編集でも恒川さんらしさに溢れています。


「迷走のオルオラ」
DV男に母親を殺された少年の歪んだ復讐劇がテーマになっており、少年時代から大人になるまでの壮大な計画を実行する彼の姿は、『夜市』でファンになった私には少し意外であり、重たい話でした。直接手を下すわけではないものの、後味があまり良くない。

私が恒川作品を好きな理由はその独特な世界観なので、ありきたりなテーマというところもハマらなかったかな。もちろん、よく見聞きする復讐劇とは違う切り口ではありますが、ぶっちゃけ好きじゃない…。


「夜行(やぎょう)の冬」
しんしんと雪降る静かな夜に、どこからか響く不思議な音に気付き外へ出てみた主人公。赤いコートを着た謎のガイドさんを先頭に歩く一行はどこから来てどこへ向かうのか…。興味を持った主人公が一夜の旅について行くところから物語ははじまります。

これは私の好きな感じ。ひょんなことがきっかけで日常から非日常へ。歩き慣れたはずの道から未知の世界へ…。魅力的な別世界への入口は、美しさの中に恐ろしさも秘めています。

雪降る人気のない街の静けさ。そこに響く音色。シンプルで無駄のない洗練された文章が、読者を一気に不思議な世界へ連れていきます。


「鸚鵡(おうむ)幻想曲」
これもまた独特の世界。何かの集合体が、別の大きな物に化けている集合体を見分け、更には解体することが出来るという不思議な男と出会う僕。彼が僕に近付いだ理由が分かった時、僕に起こったこととは…。

身近な話から突然壮大な話へと展開し、話のキーにもなるオウムと共に物語も大きく羽ばたきます。ラストもまた魅力的で、恒川流の輪廻転生を描いた作品なのかな~と解釈しました。

他では見た事のないとても飛躍したストーリーですが、色鮮やかなオウムの群れや美しい南の島を容易に想像させる表現力はさすが。


「ゴロンド」
オタマジャクシのような小さな生命体ゴロンドがこの世に生まれてから、成長してゆくまでを描いています。短編集なのにこの本には表題作がないなと思っていたら、この話の中で「竜が最後に帰る場所」の話が出てきます。

まだ小さいゴロンドが遭遇するたくさんの危険。兄弟たちが次々と大きな魚や鳥に捕食されていく様子や、縄張り争い。未知なる土地への好奇心と新たな危険…。ゴロンドの目を通し、生物としてのシンプルな生き様が命のきらめきを表現しているように感じました。単純に弱肉強食を描いている作品にはとどまりません。


でもやっぱり…私には「夜市」と夜市と共に綴られていた「風の古道」が秀逸すぎて、この2作を超える作品にまだ出会えないなというのが率直な感想です。もちろん好みの問題ですが、もし誰かに恒川光太郎さんの本でオススメは?!と聞かれたら迷わす『夜市』を選びます。