世間では神戸の異人館など知る人も少なくて
トアロード沿いに
今の様にビルが建ち並ぶ事も無く
坂の下から
東天閣の見事な洋館がくっきりと見えて
そしてその坂をゆっくりと上がった
その右手は静かな異国
狭い路地やさらに山の手には
ひっそりと古い洋館が建ち並び
刻の止まったそこは異国だった
見た事も無いようなレースのカーテンがかかった
朽ちてペンキの剥げた
ペパーミントグリーンの窓枠や
坂の上から小さく聞こえて来るピアノのしらべ
人の姿を見かける事は殆ど無いけれど
確かに日常が営まれている
静かな 美しい街だった
刻は過ぎて住む人も去り
いつしか全国的な観光地になってしまい
そして震災に見舞われて洋館も減り
今はもう静かな異国では無いし
全く違うkitanoになってしまったけれど
あの頃のあの風景が忘れられない
レースのカーテンの向こうには
どんな人が暮らしていたのだろう
ピアノを弾いていたのはどんな少女だったのだろうと
訪れた冬の日と同じようなこの時期になると
今でも時々思い出してしまう
美しくて哀しい大切な想い出
散らつく雪の様に淡く消えてしまったけれど
神戸 坂道 エトランゼ
