三月から新年度の準備で、主人のリモートワークが減っていた。
四月になっても忙しく、九時を過ぎても帰れない日が続いていた。
アラ還の主人には厳しいが、家で仕事をするより社内で仕事をする方が捗るようで、以前より鬱々としなくなった。
私も主人の時間に合わせなくて済み、息を殺して生活しないで済むので助かっていたのだ。
昨夜、いつもと違って、主人がニコニコと帰って来た。
順調に仕事が出来たのかなと、来週の検査代を話しながら遅い夕食を食べた。
食器を片付けリビングに戻ると、主人はタブレットで会社のホームページを見ていた。
先日、福利厚生に誤字を見付け、委託業者に修正して貰うように言っていたので、それを見せるつもりかと思ったのだが。
主人がタブレットの画面を拡大して、会社の財務報告を私に見せて来た。
主人「インサイダーになるから今日まで黙ってたけど、会社がまずい。このままだと何処かと吸収合併か外資に身売りだ。」
青天の霹靂だ。
これまでバブル崩壊もリーマンショックも揺らがない、一部上場の安定企業だった。
止まらない円高に、耐えられる体力が無かったのだ。
今度の株式総会は、大荒れになるだろう。
退職金は401Kで貰えない事は無いが、若い社員を守り年齢が高い順にリストラが始まる。
既に管理職は一割引きの給与だったが、子供たちが独立していたので雇用を守ってくれる方が大事だった。
昨年の私の医療費は、180万掛かった。
限度額申請、生命保険、確定申告を駆使しても3割しか取り戻せない。
主人が本当に来年で定年退職したら、どう削るかを考えていたところたった。
主人が近頃、定年退職後の職探しと言って求人サイトを見ていたのは、これを隠していたのだ。
主人は仕事に関しては責任感があり、家庭に影響がある事でもインサイダーになる事は知らせてくれなかった。
「自分の医療費程度で良いから、働きに出てくれないか。」
派手な暮らしはして来なかったので、定年退職しても年金が貰えるまでは暮らして行ける予定だったが、突然先が見えなくなった。
先日の塗装工事を出し渋ったのも、この話の布石だったのか。
【働きに出てくれないか】と言うには、今の私はボロボロ過ぎる。
180万は私の初任給に満たない額だが、不安しか無い私を誰が雇ってくれるのだろう。
主人が私を働きに出さなかったのは、私が経済力を持ったら逃げて行くのを危惧していたから。
今さら遅過ぎた。
マリモ「今日はニコニコ帰って来たから、仕事が順調に捗ったのかと思ってた。」
「いや、笑って無かったら、若い社員が不安になるから笑ってただけだ。」
私に小遣いも渡さず遣り繰りしていた主人に、初めて家計の不安を持たされた。
明日は明日の風が吹くなんて、お気楽な事は言ってられない。
仕事を探そう。