翌朝、私より早く主人がリビングに降りて行った。


目は覚めていたが少し時間をずらして降りて行くと、主人は慌ててNHKに切り替えた。


またアニメを見ていると、私に叱られると思ったのだろう。


既に階段を降りる時に媚びた声優の声が聞こえていたので、アニメを見ていたのは知っていたが戻すようには言わなかった。


長女は眠れるならば寝かせておくつもりでいると、「明日、会社に来いって。」と同じチームの先輩から呼び出されたと降りて来た。


責任者の許可を貰って休んでいるのに、そんなものはお構い無しの業界なんだそうだ。


今晩中に帰る事になった長女。


このまま帰すのが忍びなくて、「明日の朝、うちから行けば?」と言ってみたが、社員カードを持って来ていなかった。


「昔、皆んなで行った公園の桜が見たい。」と言うので、「お弁当買って公園で食べる?」と言うと、「そうする!」と言って乗った。


都内には有名な桜の名所は各地にあるし、美味しい店だって私より知っているはず。


長女はアニメに首ったけの父親を見るより、外に出た方が良いと思ったのかも知れない。


主人には有無も言わさず、「お茶とお弁当を買って花見に行くよ。」と言って支度をさせた。


まともなアドバイスが出来ないならば、長女が心落ち着く場所に連れて行ってくれるだけで良い。


最寄りに大きな公園がある。


広場には、いくつもの小さなテントが張り出され、子供連れで賑わっていた。


相変わらず主人は人混みがダメで、桜が見渡せる小高いベンチに座り、三人で並んでお弁当を食べた。


長女が中学生以来、この公園には来なかったので、「バドミントンしたよね。」とか「○○(愛犬)が吠えまくってたよね。」とパワハラ上司からは遠い話に傾く。



家に戻ると駅まで送ってやりたいが、私は夕食を作らなければならない時間になっていた。


「夕ご飯食べて行けば?」と言っても、「今日、立て直さなきゃいけないし。」と言って帰り支度をしている。


「パパに送って貰えば?」と言うと「バスに乗って行くから良い。」と断った。


もう独立している以上、黙って見ているしか出来ないのが歯痒い。


バスの時刻になりボサッとしている主人を煽り、バス停まで見送る。


「ババちゃんも大事だけど、ママが無理しちゃダメだよ。」と長女が逆に心配して来た。


此方こそ「大丈夫?」などと余計な事を言ってしまいそうなところを、近所の方がいて普段通りにバスに乗って行く長女を見届けた。


経済的にも体力的にも戻っておいでと言えない以上、偶に帰って来た時に休ませてやるしか出来ない。


ならば、子供には心配掛けずにいたいのだ。