プライドが高い母には、デイサービスから尿失禁の話があったとは言えない。


義実家からの帰り道、母にどうリハパンを切り出せるか考えていた。


父は一時、膀胱炎が悪化し排尿障害を起こし、リハパンを履いた。


あの時は尿毒症になったら死ぬのだと父は理解出来たから、リハパンを受け入れてくれた。


認知症が進んだ母には、リハパンどころか尿失禁を受け入れられるのか。


今年の冬は12月だと言うのに、いつまで経っても暖かく、長く続いた紅葉の街を歩きながら母の為にリハパンや可愛いバケツ、母好みのポーチを買い集めた。



翌日、リハパン一式を持って、母が居る姉のマンションに向かった。

(母は25年前に父と別居して、姉のマンションに転がり込んでいる。)


母の様子を見てから、リハパンの話を切り出さなければ。


母は予定外に私が来たので、ご機嫌の様だった。


「お母さん、あのね。そろそろ準備しておいても良いかなと思ってね。実は埼玉のお義母さんや、お父さんにも買ってあげたんだけどさ。その年齢になると笑った時とか、チビッたりするでしょう?そういうのを気にしないで出掛けられるように、リハパンを買って来たの。案外、使っている人って多いから、お母さんも履いてみたら?」


私は極力明るく、当然の事の様に話した。


「嫌だわ。急に年寄りになったみたいじゃない。悪いけど見たく無いから、あっちの部屋に置いて来て!」 


母は尿失禁どころか、自分がいくつになったつもりなんだろう。


母がリハパンがあるのを覚えていてくれる事に一縷の望みを掛けて、その日の話題は尿失禁を切り出すのを止めて帰った。