故郷を離れて親思う…演歌歌手、福田こうへい 9月、大阪・新歌舞伎座で座長公演




「南部蝉しぐれ」で鮮烈なデビューを飾って5年。張りのある伸びやかな声、突き抜けるような民謡仕込みの歌唱力で、演歌界に旋風を巻き起こした。2月に行われた東京・明治座座長公演に続き、9月1日からは大阪・新歌舞伎座で2年ぶり2回目の座長公演に臨む。

父、福田岩月さんは名の通った民謡歌手。母のキヌエさんは民舞師範。いわば、民謡界のサラブレッドだ。だが、本人は学校を卒業すると、サラリーマンの道へ。本格的に民謡を習い始めたのは23歳だった。


ところが歌い始めると、瞬く間に頭角を現した。各地の民謡大会で次々と優勝。5年前にデビューするまでしばらくはサラリーマンと民謡歌手との二足のわらじの生活を続けてきた。

 その社会人として働いた経験が、歌手活動にも生かされているという。「上司から言われた通りに仕事をやっていても成長しないと思うんです。歌も同じ。聞いて覚えるだけではなく、どんな声でどう表現すれば人の心に響くのか考えながら歌うようにしています」

新歌舞伎座公演の第1部では、2月に発売されたシングル「母ちゃんの浜唄」にちなんだ芝居を上演する。昭和30年代後半、岩手の中学を卒業し、集団就職で上京した青年の成長物語。「最初に台本を読んだとき、主人公と自分が重なり、涙が出た」と明かす。

劇中、上京してきた母親(角替和枝)が田舎者丸出しなのを恥ずかしく思い、怒鳴りつけて追い返す場面がある。「明治座では、その場面で泣いている方がいらして…。もらい泣きしてしまいそうで、そちらを向くことができませんでした」

 劇中でも歌われる「母ちゃんの浜唄」は、持ち味の勢いよく張り上げるような歌い方を封印している。「詩を語るように、問いかけるように」歌う。

 一方、カップリング曲の「父子鷹」は力強く、福田節炸裂(さくれつ)の一曲。「僕とおやじのけんかをそのまま楽曲にしてもらったんです」。衝突を繰り返した父だったが、12年前に亡くなった。この歌は、今だからこそ歌える歌だという。「おやじなくして僕の演歌の道はありませんでした」

 そんな福田の歌声を堪能できるコンサートは、「元気になる」とファンの間で評判だ。「『来てよかった』と言っていただけるのが一番うれしいです。最近は、付き添いで来たのにファンになった、と言ってくださる方も多くなりました」

 岩手なまりで繰り広げられるトークも人気。「自分の身の回りのことしか話してません。本当は標準語にした方がいいのかもしれませんが、なまりが抜けなくて」。恥ずかしそうにほほえんだ。

(文・杉山みどり)