side M


今度の休みの日まで、僕は落ち着かない気持ちでいた。


喫茶店で僕と一緒にコーヒーを飲みたいと言った大祐さん。


それってデートみたいだとちょっと浮かれ気分でいたけれど、何か言いたい事があるのだろうかと思うと気になってしまう。


それでも、好きな人と会って話せるのは嬉しいから。

思いを告げられなくても、それで充分だ。


僕は、そう思っていた。




当日の朝、いつもより早く目が覚めてしまった。


もう一度眠る気にはなれず、ベッドから起き上がる。


カーテンを開けると、今日は曇り空。


大祐さんと会う日は晴れている事が多かったのにな。


でも、気分は曇っているわけではないから。


ちょっと早いけれど、出かける準備をしよう。



鏡の前で顔を洗い歯を磨いて、髪を整える。

それから、着ていく服を選んで・・・


ゆっくりと時間をかけて支度したつもりだったけれど、随分と早くにできてしまった。


約束の時間までまだ早いけれど、叔父さんにも言っておかないとならないから、喫茶店へ向かう事にした。




行き慣れた道を歩いて、店の前に着いた。


僕は、準備中と書かれた札が掛かったドアを開ける。


「おはようございます。早くにすみません。」


中に入り、そこにいたのは・・・


「真緒くん?朝からどうしたの?」


香凜ちゃんだった。


「おはよう。香凜ちゃん。

ここで人と会う約束があって。

ちょっと早いんだけど、支度できたから来たんだ。」


「そう・・・

あ。お父さんとお母さん、足りなかった物があって買い出しに行ってるの。」


「そうなんだ。

香凜ちゃんは?今日はどうしてここに?」


「うん・・私もこれから約束があって。

まだ時間が早いからここで待ってたんだけど・・・」


これから出かけるのに、何だか浮かない顔の香凜ちゃん。

どうしたんだろう。


「同じクラスの男の子に誘われたんだけど・・彼とは話も合うし一緒に居て楽しいけど、こうして二人で出かけるとなるとね・・お付き合いしているわけでないから、どうなのかなって思っちゃうのよね。」


うーん・・

僕も高校生の頃にそういう事があったような気がするけれど、その手の事には疎い方だからなぁ。


何と言えばいいのか考えていると、


「真緒くんは、今日は好きな人と会うんでしょ?」


僕の方へ話の矛先が向いた。


「えっ!?あ・・その・・・」


大祐さんの顔が浮かんで、言葉に詰まってしまう。


「いつも来るあの男の人よね?」


「な、何で・・?」


そんな僕に、香凜ちゃんが続ける。


「真緒くんを見てればわかるわ。

彼が来る度に嬉しそうにしてるし、じっと彼の事を見つめていたから。」


「え・・っ?」


驚いた。

僕が大祐さんを見る目が、他の人からはそう写っていたんだ・・・


あれ。でも、僕を見てればわかるって・・?


「真緒くんも彼も男の人だよ?

どうして、真緒くんは男の人に恋をしてるの?

・・何で、私じゃ駄目なの・・?」


「香凜ちゃん?」


「私、ずっと真緒くんが好きだったのよ。

いとこだからだなんて関係ない。

好きなの・・!」


そう言うと、香凜ちゃんが僕の胸に抱きついてきた。


僕は、突然の事で動けなかった。



カランカラン・・・


ドアベルの音にハッとして、叔父さん達が帰って来たのかとそちらを見た。


遠慮がちにドアを開けたのは・・・


「大祐さん・・!?」


「あ・・ごめん。

まだ早かったんだけど、ここまで来たから・・・」


もう一度小さくごめんと言って、大祐さんが店を出て行った。


「大祐さん!」


待ってと言おうとしたら、


「真緒くん!」


香凜ちゃんに呼び止められる。


ああ・・ここはきちんと言わないといけない。


「・・そうだよ。僕は大祐さんが好きだ。

男の人だからとかでなくて、彼だから好きになったんだ。

だから、ごめんね。香凜ちゃん。」


香凜ちゃんの気持ちには応えられないと告げ、僕も大祐さんを追う為に店を出た。




外に出ると、雨が降っていた。


濡れるのも構わずに、大祐さんを探す。


周りを見回しながら走って、やがて前方に彼の後ろ姿を見つけた。


「大祐さん!」


その背中に向かって彼を呼ぶ。


「真緒・・?」


一瞬、大祐さんの目が見開いたけれど、すぐにフッと細められた。


「あの・・・」


夢中で大祐さんを追いかけてきて、何と言おうか考えられずにその先の言葉が出てこない。


「さっきの彼女・・残してきて良かったのか?

何か、タイミング悪く俺が現れてしまって。

ごめんな。」


そう言うと、大祐さんは視線を逸らしてしまう。


違う。そうじゃないんだ。

僕が好きなのは・・・


でもやっぱり言えずに黙ってしまっていると、不意にグイッと腕を掴まれた。


そのまま建物と建物の間の路地に連れ込まれ、背中を壁に押しつけられる。


大祐さんの腕が僕の顔の両脇につき、目線は真っ直ぐに僕を捉えている。


心臓の音がうるさいくらいに鳴る。


「大祐さ・・!」


そして、名前を呼び終わる前に唇が塞がれた。

・・彼の唇で。


え、何・・?

何が起きているの?


突然の事に、思考が着いていけない。


ただ、彼の唇の感触にキスをされたのだと気付いて、僕の頭の中は真っ白になった・・・






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こんばんはニコニコ



お互いの気持ちは同じ二人。


この気持ちを告げる事はできないと思っていたけれど、遂に抑えきれない思いが溢れ出しました。


この後は、二人の思いが通じ合う・・・?



次回へ続きます。

お付き合いよろしくお願いします照れ