恭大がリスカした日その夜…。さっきまであれほど荒れていた恭大は何事もなかったように光樹の隣でスヤスヤと眠っていた。光樹は恭大の腕を見て呆れと後悔が混じっていて、寝れなかった。
「はぁ…。まさかこいつがリスカするなんてな…。俺が悪いな…」
光樹の隣で寝ている恭大の腕を見ながらそっと触った
(しかも…ほかのところにもあるし…いつからなんだ?)
「言わなくなったあの日から?いや…まだ半袖着てたし…いつ…?」
光樹は問いかけながら、眠っている恭大の頬にそっと触れる。
(なんで、こんなことするの…?)
「俺の前では……笑ってたやん…。しんどいなら…そう言えや…この馬鹿」
親指で目尻の泣いた薄く残っている跡をなぞりながら、恭大を見つめる
(気づけなかった俺が、全部悪いな。、こんなことするほど追い込んだんだろな)
「……ごめんね、恭大」
そう言ったあとに光樹は優しく恭大の額に自分の額をコツンと当てた
「俺、何見てたんだろ…恭大の」
(一緒にいて、毎日顔合わせて、それでも分からんかった)
自嘲気味に笑い、光樹は片手で自分の目元を覆う。
「…しっかりしねぇとな、俺は」
(もし、今日…恭大が、脈拍まで深く切ってたら…倒れて、呼ばれて、運ばれて…)
想像が勝手に先へ進み、肩を強張らせながら手にわずかに力が入っていった
「俺、電話受けて、間に合いませんでしたって言われたら…」
(その瞬間、多分、立てないよ?きょうた…)
震える声で吐き出し、恭大の服をぎゅっと握る。恭大のいない世界の想像した光樹は目の奥が熱くなり、視界が滲んでくる
(恭大のいない世界とか…ムリやで?朝起きて、恭大がいないって考えるだけで…)
「…俺、誰と笑うの?って…話。」
震える声で小声でそう言った後、涙が流れていた
「頼むから…俺の前からいなくならないでね…恭大」
布団の中に戻り、恭大の隣に横になって、恭大の寝顔をもう一度見つめる。
「おやすみ」
小さく囁き、恭大の肩に額を寄せる。光樹は目を閉じてもそれでも眠れず、頭の中では、何度も“いなくなった未来”が再生されていた。
ーーー数時間後ーーー
すっかり明るくなった朝の光が、窓から部屋に差し込んでいた。光樹は恭大の手を絡めたまま、いつの間にか眠っている。
「ん…あれ…?」
パチッと目を覚まして起き上がって見渡した。そこには眠っている光樹の姿があった
「Zzz…」
恭大の手を未だにギュッと握っていた。指先に残る強い力で、逃がすまいとするような、無意識の握り方をしていた
「みつき…。…やらかしたな、俺…」
(…光樹に、あんな姿見せて……ほんま、ばかや…せっかく隠し通せると思ってたのに…)
寝顔を見つめながら自分を止められなかったこと、声を荒げて光樹を巻き込んだことが胸に重くのしかかる。
「上手くいけると…思ってたのに…」
苦笑混じりに言い空いている手で自分の額を押さえる。
「なにが…〝上手くいけると思ってたのに〟…なの?恭大…」
いつの間にか起きていた光樹は低音でそう言った
「えっ…お、起きてたん…?」
(え…今の聞かれてた…?
ビクッと肩を震わせたあと、光樹の方を見た
「うん。…で、どういう意味?それ」
光樹は体を起こしてじっと恭大を見つめ、肩に手を置く。
「え、あ…いや…なんも…ないって…」
じっと見つめられて、思わず恭大は慌てて言葉を濁しながら目を逸らした
「きょーた?答えて?それどういう意味なん?」
光樹は声を低く、鋭さを帯びる。額に少しシワを寄せ、手をぎゅっと肩に押し付ける。
「……っ」
そう言われても恭大はなんも言わないままだった
「……上手く、リスカ隠せると思ってた…とかじゃねぇよな?きょーた」
光樹は肩に置いた手の力を少しだけ強め、じっと恭大の目を覗き込む。声は柔らかいのに、視線だけが鋭いままだった
「……なんのこと?」
恭大は目を逸らしたまま、笑いながらそう言った
「恭大が言ってたこと…当たってんだろ?お前の事だから…ぜってぇ当たってる」
光樹はにこりともしないまま、恭大の顎を持ち上げたあと、ゆっくり顔を近づける。優しい口調なのに、目が全く笑っていない
「…っ、ちが…う。それ言うてへん…っ」
震える声でそう言いながら小さく首を横に振る
(嘘だな…こういう時の恭大は嘘ついてる)
「……違う?違うって言うなら、ちゃんと目ぇ見て言えや」
恭大の顎を持ち上げたまま、じっと見つめ続けた。
「……っ」
恭大は一瞬だけ目を合わせるが、すぐ逸らす。喉が鳴る。
「なぁ、恭大…もし俺、あのまま気づけなかったらさ…続けてたでしょ、これ」
(俺が気づけなかったらゾッとする…)
光樹は淡々と言いながら、もう片方の手で恭大の腕を軽く持ち上げる。包帯の上から、指先でなぞる。
「……」
恭大は思わず息を止め、布団を握る手に力が入る。
「俺の前でまで平気な顔して、何事もなかったみたいに過ごしてさ…。昨日これ見た瞬間、頭真っ白なってたんだよ?」
怒りと切なさが混じってるような表情でそう言いながら見つめた
「……だからなに?俺……俺なりに耐えてきたんやで…?…悪いことちゃうやろ…?」
恭大は肩を震わせ、光樹の目を合わせられずに声を絞り出すように呟いた。息が詰まるようで、唇も微かに震えていた
「…は?なにそれ、耐えてきただけだって?悪い事じゃないだって?…自分で何やってるのか、わかってんの?」
光樹はじっとその震える肩と視線を見つめ、眉をわずかに寄せた。腕を軽く引き、視線を強く合わせる。切なさと怒りが混ざった声でそう言った
「しゃーないやん…!それしかなかったんやから…っ!…俺なりに我慢してきた」
胸に詰まる思いを吐き出すように、恭大は少し声を荒げた
「だからって自傷に逃げてもし、俺が気づけなかったら、もっと大事になってた」
光樹は少しだけ腕を強く握り、指先で包帯をなぞって怒り混じりにそう言いながらも、声の端には優しさがある。
「そ、んなの…自分の体やから別にええやん…っ」
声を掠れさせながら必死に言う。
(ここは落ち着いて話す…うん…)
「よくない。好きって言ってあげなかったせいでこんなことになった俺が悪いから。あと俺に言って?俺、お前のいない生活なんて嫌だよ?」
〝だから、こんなことするなら俺にぶつけて〟と言った後に優しく抱きしめた光樹
「みつき…」
光樹に抱きしめられたまま、最初は腕が宙に浮き、どうしていいかわからないみたいに、指先だけが迷っていた。
「俺は、お前が居なくなったら耐えられないから…」
そう言いながら光樹は抱きしめる力を少し強め、恭大を胸に引き寄せる。
「…ぶつけたら、嫌われる思うやんか…重いって、思われる思うやん…」
(嫌やから我慢してきた…嫌われたくない一心で…)
額を光樹の肩に押し付けながらぎゅっと、抱き返す。遠慮がちだった腕に少しだけ力が入る。
「俺がお前を〝重い〟なんて思うわけないでしょ…こっちは好きで好きでたまらないんだよ?」
(お前を手に入れる前、どんだけ俺が我慢してたと思ってんだよ…このバカ恭大)
恭大がそう言い終わった瞬間、光樹は即答する。恭大の背中を撫でながらそう言った
「…俺な、怖かったんや。好きって言われへんくなって……あぁ、俺もういらんのかなって…思ってん…」
顔を上げないまま、震える声でそう言いながら光樹の服をギュッと強く握った
「俺がどんだけお前に執着してる思ってんの?それに言っただろ、恭大好きだって、行動でわかって?お前ならわかるでしょ?」
そう言いながら光樹は少しだけ笑う。でも目は真剣だった。
「みつき…ごめん…なさい」
「好きやから怒るんだよ?どうでもいいなら放っとく。俺は好きだよ」
と言ってニコッと笑いながらチュッとキスをした
「んっ…みつき好き…」
「いや、お前より俺の方が好きや。ばーか」
そう言った後、光樹は恭大の額を軽く叩いた。二人はこうしてお互いの気持ちをぶつけたことでさらに仲が深まっていった
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