急いで身支度を整え
従姉妹もまた仕事を休んで、父が入院する病院まで同行してくれた。
本当に感謝。

父の顔を見る前に
医師からの説明を受ける。

「実はですね、明け方から容態が急変しまして、肺炎が悪化しました。
昨日は肺の底辺辺りが少し炎症を起こしている程度でしたが、今現在、肺の半分以上が炎症を起こしている状態です。
今すぐに挿管すれば回復する可能性もありますが、それも五分五分です。
お父様にもお話させて頂きましたが、挿管は拒否されています。
ご家族のご意向はどうですか?」


どうですか?って…

そんなの即答出来るはずがない。
その時既に思考回路停止。
何も言葉が出てこない。

「一先ずお父様に会って来られますか?」

はい、そうしました。

どれだけ辛そうにしてるのだろう…
普通の顔をしていられるだろうか…


病院に入ると、酸素マスクは着けているものの、普段通りの父がいた。
意識もほぼ元通り。
昨日の事も断片的だが覚えていた。

まぁ~良く喋ること!
肺炎が悪化しているので、呼吸は苦しそうだし声もかすれていたが、
新聞と水が欲しい
着替えを持ってきて
少しお金を置いていって
眼鏡と時計を持ってきて
などなど…
覚えきれない程の要求をしてきた。

挿管は嫌だ!
もう苦しい思いはしたくないから
酸素マスクにしてもらった。
食事はまだダメだけど、水分と飴は良いって言われたよ!
昨夜はまだ眠れなかった…

うんうん、そうだね。
散々苦しい思いしてきたもんね。
一人で不安だったよね…

でも、これだけ喋るんだから大丈夫そうじゃん!
医師は最悪の事を言うから
あくまで可能性の話をしているだけで、
治療は長引くかもしれないけど
元気に退院出来る!と
その時は思っていた。

父に面会したらまた医師に声をかけるようにと言われていたので、
看護師さんにその旨を伝えた。

すぐに医師は来てくれた。
「どうでしたか?」

「父も挿管は嫌だと言ってますし、このまましばらく様子を見て、苦しむようなら挿管する方向で…」

と、言い終わらないうちに医師が
「元気そうに見えるかも知れませんが、今呼吸が止まってもおかしくない状況です。
挿管するなら今しかないです。
今より悪化してから挿管しても回復はしません。」

「でも…父も挿管は嫌がってますし…
このまま挿管しなかったら、どうなるのですか?」

「先程も申し上げましたが、いつ呼吸が止まってもおかしくない状況です。
呼吸が先に止まるか…
心臓が先に止まるか…
覚悟しておいて下さい。」


人生で何度目の絶望感だろう。
涙が自然と頬を伝った。

「とにかく、父がこれ以上苦しまない治療をお願いします…」
これ以上の言葉が出なかった。

ここで泣きじゃくる訳にはいかない。
新聞と水は病院の売店で買って、すぐに届けなければならない。

父に届けた時に
泣き腫らした顔を見せる訳にいかない。

耐えて
耐えて
耐えて
再度父の病室へ。

「先生がね、肺炎が少し悪くなったから、治療は長引くかもしれないけど、早く元気に退院出来るように頑張ろうね!
それまでずっと傍にいるから!」

すると、ほんの少し微笑んで
頷く父。

あー、ダメだ!
涙腺崩壊しそう!

我慢!
我慢!
我慢!!!

程なくして私が居る安心感からか、ウトウト眠る父。

でも、4人部屋で看護師さんの出入りも激しかったので、物音でビクッと起きてしまう。

見守る事しか出来ないもどかしさ。

どうか嘘だと言って欲しい。

しばらくの沈黙の後
父が口を開いた。

「気持ちがね、苦しい。
眠れなくて辛い。」

「そっか…。じゃぁ、
気持ちが落ち着く薬出してもらえるか聞いてみるね。」

今は、口は乾くが水を飲むのも辛そうなので、点滴での投薬を希望したが、点滴では適切な薬は無いと言われた。

精神安定剤の小さな錠剤を処方してくれたが…
飲めるのだろうか?

看護師さんが薬飲めるか見届けてくれるとの事で
乾いた口に錠剤を投入し
すかさず水を飲まされた?!

えっ?!
そんな無理矢理で大丈夫なの?

どうにか飲み込めたようだが
どうも気分が悪そう。
面会時間が終了近かったが
心配でしばらく傍にいた。
結局その日は
朝から晩まで付きっきり。

さすがに消灯時間が近付いて来たので、明日も朝から来ると約束して病院を後にした。

その日の夜、父の会社や親戚
お寺に電話をかけた。
もうその時は泣きじゃくり
上手く伝えられなかった。

だが、皆察してくれて
優しい言葉をかけてくれた。
余計に涙が溢れる…

翌朝、病院へ行くと
更に元気になった父の姿が!!

とても驚いたが、嬉しさの方が勝って自然と笑顔になった。
昨夜は良く寝れたと、父も嬉しそうで♪♪

前日よりも、もっともっと話をした。
スポーツドリンクが飲みたいと言うので、数種類買ってきたら
前日は水を飲むのも辛そうだったのに、ストローを使ってゴクゴクと沢山飲んだ!
「美味しい!美味しい!」と
言いながら。

やっぱり医師の言うことは大袈裟なんだよ!
日に日に元気になってるじゃん♪♪

そう思っていられるのも、その日の夕方までだった…