「こわいよ~」
私の布団に潜り込むゆんた。
ぎゅっと私にしがみ付いてそう言った。
最近恒例になっている寝る前の儀式である。年明けくらいからだろうか。
私が「ゆんたちゃん、電気消してくれる?」とお願いして、ゆんたが電気を消した後、必ずこの動作をするのだ。
「なにが怖いの?」と聞けば「オバケ」という返答が来る。
どうやらオバケが怖いらしい。
まだ2歳だもんね、怖いよねオバケ。本当にいたら私も怖いもんね。と思う一方でまだ2歳だからこそとても不思議に思う。
なぜオバケが怖いって思うのだろう?
オバケ怖いものってどうやって知ったの?
そもそも怖いっていう概念はどこから来たの??
たしかに、オバケ嫌いになってしまった要因は母親である私にもあるかもしれない。
夜あまりにも寝ないので『ねないこだれだ』の本を読んで「寝ないとオバケに連れてかれちゃうんだよー」と言って脅してみたことがある。
なんて酷い母親だろうか。
脅迫することは刑法でも定められた犯罪であるにも関わらず、子どもにはうっかりやってしまう。
しかし、当時まだ1歳半だったゆんたは、まだオバケが怖くなかった。
『ねないこだれだ』は多くの人が知ってると思うが寝ない子どもをオバケの世界に引きずり込むという恐ろしい絵本だ。
その『ねないこだれだ』を読んでと言ってくる日もあったし、読んであげて「早く寝ないとオバケになっちゃうよー」と言ってもニヤニヤ笑っているだけだった。
オバケが本当に怖くなったのは、つい最近のことな気がする。
一週間くらい前の夜の出来事である。
私とゆんたが遊んでいたスペースから少し離れたおもちゃを取りに行った時、帰りは走って私のところに来たことがあった。
不思議に思ったが、数回それを繰り返したために、私は少し離れたおもちゃが入ったキャビネットの中に、何か怖いものがいるのではないかと思った。
私が世界で一番怖いものは虫である。
田舎育ちのクセにと罵られそうだが、苦手なモノは仕方がない。
私はその引き出しの中に虫がいたらどうしようと怯えた。
しかし、私は成人している大人である。ゆんたのためにも私がいかなくて誰がいくのだ。
と意を決して、そのキャビネットの引き出しの中を覗き込んだ。
結果的に、何も無かった。
おもちゃがただそこにあっただけだった。
なーんだ、と思った。
次の瞬間に、私はゆんたのさっきの行動は私をからかおうとしたのだと思った。
きっと騙されて引き出しの中を覗きに行った私をみて笑っているのだろうと。
だから私もからかおうと、わざと驚いたふりをして見せた。
怖いものがいた!的な素振りをして、笑っているであろうゆんたの顔をみた。
大人げなかった。後悔である。
振り返ってみたゆんたは笑ってはいなかった。
顔を真っ赤にして、泣いていた。
号泣だ。
大粒の涙が小さな頬を伝って落ちた。
私は大慌てでゆんたを抱きしめた。
後で考え直して知ったことだが、おそらくゆんたはからかおうと思ったのでは無く、純粋に怖かったのだと思う。
夜、私から数メートル離れたキャビネットにおもちゃを取りに行くことが。
その時は何が怖かったのか聞かなかったが、おそらく『オバケ』だろう。
一昨日のことだ。ゆんたはyoutubeを観ていた。大好きなアンパンマンのおもちゃを紹介する動画である。
いつもはにこにこと見てみるのに、ゆんたが突然泣き叫んだ。
同じ空間でお皿を洗っていた私は、何事か!?とゆんたに駆け寄った。
すると、ディズニーチックなオバケのパペットがアンパンマン達を一体ずつさらっていくというシーンが画面に表示されていた。
真っ白いシーツを被せたような、典型的なオバケである。
子ども向け動画なので、全く怖い印象は無く、楽しい音楽も流れていたのだが、ゆんたはオバケが出てきた時点で嫌だったのだろう。
あまりに激しく泣くので、思わずテレビを消してしまったほどだ。
ゆんたはオバケが怖いのだな、と確信した瞬間だった。
しかし、本当に不思議である。
ここ1ヶ月くらいでなぜオバケが怖くなったのか。
2歳になると誰しもオバケが怖くなる?
保育園でオバケが怖いという教育を受けた?
少なくとも家では特別オバケが怖いということを更に知る機会は無かったはずだ。
もし半年前に私の言ったことの意味を今更思い出して怖くなったというならば、心から申し訳ないと思うが。
半年前は「寝ないとオバケに連れてかれちゃうんだよー」なんて言ってしまった悪い母親の私であるが、本当にオバケに怯えるゆんたを見ているとかわいそうで。
ゆんたにオバケが怖いと認識させてしまったことを心から後悔している。
世の中に怖いものなんて、無い方が良い。
毎晩オバケに怯えて眠るより、楽しいことを考えて眠った方が良いに決まっている。
今からでもオバケは怖くないと教えたいがどうしたら良いのだろうか?
ふと思い立って「オバケなんて無いさ、オバケなんてウソさ」と楽しげに歌ってみた。
しかし、歌い始めて失敗したと気が付いた。
その歌も最後はやっぱり「だけどちょっと僕だって怖いな」なのだ。
オバケはやっぱり怖いと再認識させてしまっただけであった。
ひとまず、「こわいよー」としがみ付くゆんたに「怖くないよ」と言い続けよう。
おもちゃだって一緒に取りに行ってあげればいいよね。
それでも怖いものを克服するのは難しいかも知れない。
だって30年生きた私でさえもまだ怖いものがたくさんあるのだから。
(予告:明日は子育ては痛いということについて17時に公開します)