オープンキッチンやスシバーと違い、キッチンは客の目につかないところにある。
客の目につかないということは、ダイニングにいるウエイトレスからしても同じことで、スシバーなら、
できたよー。
よろしくねー。
と、シェフと言葉で、または目で、コミュニケーションをとることができるが、キッチンの料理ができたかどうか知るためには、自らがキッチンに足を運ばなければいけない。
そこで、使われるのがベル。
キッチンで、チーン、と鳴れば、料理ができた合図。
ウエイトレスは、何度も確認のためキッチンに行く必要がなく、チンと鳴ったときだけ戻ればよい。
キッチンから聞こえるベルの音に反応して、客がよだれをたらす、というのは見たことがないが、ベルを使う店で働くウエイトレスは、チンと鳴る、キッチンへ行く、という条件反射ができあがっている。
この道具、ウエイトレスからしてみれば、いつもキッチンから出される料理のタイミングに神経をとがらせる必要がなく、ほかの仕事に専念できるので便利なものだし、シェフからしても、出来上がった料理をなかなかウエイトレスが取りにこなくてイライラしたり、キッチンから怒鳴る必要もないので、便利なものなのであるが、
使い方を間違えると、大変なことになる。
あるシェフは、ベルを使う店で働きはじめたとき、自分の鳴らすベルに反応してウエイトレスが動く、というのを、おもしろく思ってしまったらしい。ある日、忙しくてウエイトレスがベルを鳴らしてもキッチンに戻ってこないのをいいことに、何度も鳴らし続けて遊んでいた。そして、
客のオーダーをとって、ようやくキッチンに戻ってきたウエイトレスに、
聞こえてるわよ。何度も鳴らさないで!(゙ `-´)/
と、怒鳴られたという。
お分かりだろうが、シェフがベルを鳴らす、ウエイトレスがキッチンに行く、というコミュニケーションは、キッチンからの一方通行。行きたいけど今すぐはムリ、というウエイトレスの気持ちはキッチンには伝わらない。
加えて、ふだんから、客に対して、へりくだって、楽しくもないのに笑顔で陽気に振る舞う、という自分に疲れ、
なんで、こんな仕事してんだろ、私。orz
と落ち込むことも多いウエイトレス。
気分が乗らない日、イヤな客に出会った夜。そんなとき、うるさくベルを鳴らされると、同僚との言葉のコミュニケーションでなく、シェフの使う道具によって動かされる自分、が、さらにみじめになる。
このシェフにしてみれば、ただの遊び、冗談のつもりだったのかもしれないが、ウエイトレスの怒りを爆発させるに余りある行為、まったく笑えない冗談だったと、私は理解できる。
ただ、もう一つ付け加えれば、キッチンのシェフがベルを鳴らすという行為は、言葉によるものではないものの、ウエイトレスに、
出来たよー。取りに来てねー。
と、知らせてくれるもの。使わない店はどうなのか、といえば、最悪の場合、
出来上がった料理が放置される。orz
そういう店のシェフは、料理を運ぶウエイトレスとのタイミングを計る、なんてこれっぽっちも考えない。料理が出来上がったかどうか確認するのはウエイトレスの仕事、とばかり、ガンガン作るのみ。
あるとき、忙しくてキッチンに戻るのをうっかり忘れてしまった。はっと思い出しキッチンに駆け込んでみれば、
冷めきった料理がポツンと置かれていた。orz
ちっ、一声かけれくれればいいのに…。(-_-メ
と思ったが、この店、シェフとウエイトレスの関係がかなり悪い店だったので、特異な例ではある。
こんなわけで、キッチンのベルは、諸刃の剣。
便利な道具だが、使い方次第。
この、ベルの使い方を間違えたおかげで、ウエイトレスに怒鳴られるだけじゃすまない、さらにひどい目に遭ったシェフを、次回紹介してみたい。