チョウゲンボウの仲間三種
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チョウゲンボウの仲間四種 小チョウゲンボウ・ユウユウYu’yu‘は鷹狩り向き
チョウゲンボウ(長元坊) Falco tinnunculus、Kestrel、アラビア名バーシャクBaashaq
チョウゲンボウの名称、異称、方名 サクル・ジャラードSaqr al-Jaraad(バッタダカ)
亜種:バイダクal-Baysaq(東方チョウゲンボウ) 停止飛行・ホバリング
竜涎香を宿すチョウゲンボウ 古代エジプトでのチョウゲンボウの神格化
ヒメチョウゲンボウ(姫長元坊)学名Falco naumanni、
英名Lesser Kestrel 、亜名al-Baashaq al-Saghiir(小型チョウゲンボウ)
アカアシチョウゲンボウ(赤足長元坊) 学名Falco amurensis
英名Red-footed Falcon、Amur Falcon、亜名はal-Baaz al-Ahmar al-Qadam (アカアシ鷹) 最大の特徴下腹部から上肢までの羽毛が赤く目立つ。
チョウゲンボウの仲間四種
チョウゲンボウを中心としたFalconidae (タカ・ハヤブサ類)al-Fasiilah al-Baaziyaatを述べる。オオタカ(Baazii)類やハヤブサ(Shaahiin,Saqr)類については、すでに幾つかの鷹狩りの論考で記しておいたので、ここでは割愛して、それより小型の鷹狩りに用いられもするチョウゲンボウの仲間について述べることにする。
アラブ世界(半島中心)に生息する主なチョウゲンボウの仲間たち
1 チョウゲンボウ 学名Falco tinnunculus 英名 Kestrel 、亜名Baashaq、“
2 コチョウゲンボウ 学名:Falco columbarius、Falco columbarius aesalon
英名Marlin、亜名Jalam,Yu'yu',
3 ヒメチョウゲンボウ 学名Falco naumanni、英名Lesser Kestrel
亜名al-Baashaq al-Saghiir、“Uwaysiq、
4 アカアシチョウゲンボウ(赤足長元坊)、学名:Falco amurensis
亜名al-Baaz al-Ahmar al-Qadam 、Luzayq,
この4種の内、2の小チョウゲンボウはアラビア語ではユウユウYu’yu‘と言い、これについては筆者は二篇、鷹狩り詩のブログの中ですでに述べておいた。
①2022年1月26日付けブロブ「ユウユウ鷹(小チョウゲンボウ) 鳥を狩る アラブの狩猟詩(4)」。
② 2022年2月6日 付けブログ 「ユウユウ鷹を連れ出す アラブ狩猟詩(5)」
小チョウゲンボウの概要は①の号で図も入れ述べておいた。①の後半と②では小チョウゲンボウによる「鷹狩詩」を二篇訳出解説しておいた。
というのもこの種を代表するチョウゲンボウよりも小チョウゲンボウのほうが、気性も猟欲もより激しく、鷹狩り用として好まれていたからである。
ここでは他の三種について論ずる。
チョウゲンボウの仲間三種
1 チョウゲンボウ(長元坊) 学名Falco tinnunculus、
英名Kestrel 、亜名Baashaq。
チョウゲンボウ(長元坊)は、鳥綱ハヤブサ目ハヤブサ科に分類される鳥の一種。
チョウゲンボウは学名 Falco tinnunculus 英名 Kestrel 、アラビア名バーシャクBaashaqである。
これに対して先に述べたコチョウゲンボウ(小長元坊)は学名Falco columbarius)、英名 Merlin、Pigeon Hawk、亜名ユウユウYu’yu‘、ラジャムJalamであった。
チョウゲンボウのアラビア語の名称、異称、方名
チョウゲンボウの代表語バーシャクal-Baashaq。バーシャクで一般化されたが、この語の形態はバーシクbaashiqとされるのが語法であり、そのためバーシクal-Baashiqとも称される。語ぼ由来は二説あり、いずれも語根動詞√bashaqaが関与している。
一つは語義「鋭く見る、見据える、凝視する」の意味からであり、チョウゲンボウのホバリングで下を凝視している様子から名づけられたものと思われる。この派生語を用いての「鋭く激しい視線、一睨み」はnazarun bashqunという。
二つ目は語義「(布地などを)破る、引き裂く」であり、猛禽類の武器ふぇある鉤爪の属性を言い当てたものである。
複数形なバワーシクbawaashiqとされている。
別名、方言:アラブ世界では“バーシャクの他にも語形の変化形と思われる類似表現としての名称があり、アウサクAwsaq、ハウサクHawsaqとも称される。
別名はウッラームal-"Ullaamともいわれる。辞書類ではバーシャクbaashaqと同義としているのみで、詳しい説明はない。ウラームal-"Ulaamとも。
またセーカーハヤブサの一種とみられ、サクル・ジャラードSaqr al-Jaraad(バッタダカ)との異称も持つ。
方名:湾岸地方ではタランバTarambah(雄)、シャルヤース・アラビー Sharyaas ”Arabiyyとの方言も持つ。
亜種:バイダク 東方チョウゲンボウ
またバイダクal-Baydaqという亜種がおり、これは「東方チョウゲンボウ」al-Baashaq al-Sharqiiと言われている。学名はFalco badiusであり、より暖地を好み、イラクでは迷鳥として飛来する稀種であるが、エジプトではナイル河東岸砂漠、シナイ半島に普通に生息している。
エジプトのチョウゲンボウal-Baashaq 4態
エジプトのチョウゲンボウ。右方から成鳥雌、成鳥雄。右方は雄の飛行する姿、左方は雌のホバリングの姿。成鳥雄はもう少し色鮮やかである。左下に見えるのはラナーハヤブサ。Tuyuur Misr al-Shaa’i”ah, byB.Burawn、Cairo,1984,p.21
分布:
ユーラシア大陸とアフリカ大陸に広く分布する。寒冷地で繁殖した個体は、冬季に南方へ渡り越冬する。アラブ世界では留鳥であり、北方のものは夏季に南方に渡るものもいる。
我が国では、チョウゲンボウは主に留鳥や漂鳥として河川敷や農耕地、海岸沿いなどに生息しており、一年を通して観察できる可能性のある野鳥であり、特に冬は平地でも多く見られるようになる。
アラブ世界では春季になると砂漠地帯でも散見される。特にエジプトでは中央砂漠のオアシスであるファッユームには多くのオアシスにチョウゲンボウが周辺の砂漠辺りに生息するのが見られる。(“Azziyy,46)
形態
ハトくらいの大きさで全長 30–40 cm。平均は体長34cm。
翼を広げると 65 –80 cm になる。体重は雄が 150 g、雌が 190 g 程度である。他の鷹類同様、雌の方が大型である。
コチョウゲンボウと比較すると、後者の方は名前の通り少し小型で雄27cm、雌33cm。
羽毛は綺麗な赤褐色で黒斑がある。コチョウゲンボウとの違いは体の大きさだけでなく、外見もオス同士は明白であり、すぐ見分けられる。明瞭な茶色い背中に黒点があるチョウゲンボウに対し、コチョウゲンボウの背中ははっきりしない灰色をしている。
メスや幼鳥は非常によく似ているので識別が難しい。
雌は褐色で翼の先が尖っている。
チョウゲンボウとコチョウゲンボウのメスには尾羽に特徴的な違いがある。。
両種のメスとも、尾羽に黒い帯が入っているが、この帯の太さに違いがある。チョウゲンボウの帯が細いのに比べて、コチョウゲンボウの帯は太くなっている。また帯の数も細い分だけチョウゲンボウの方が多くなっている。下から見るとよく見える。
チョウゲンボウの雄の頭と尾は銀色にも見える綺麗な青灰色。一方コチョウゲンボウは頭頂部と顔の一部がはっきりしない灰色をしている。
顔に関しては一般的にチョウゲンボウとコチョウゲンボウの違いとして眉班があげられ、チョウゲンボウに比べてコチョウゲンボウは白い眉班がはっきりしているといわれる。眉班には個体差が非常に激しく、特にメス同士ではチョウゲンボウでも白い眉班がはっきりしていたり、コチョウゲンボウでも白い眉班がはっきりしていない個体もよく見られる。
腹部に関して、チョウゲンボウの胸~腹にかけて薄い黒茶色の斑点がある。コチョウゲンボウのメスにも茶色いまだら模様があるが、脇腹に白斑が目立つものもいる。
この白斑は幼鳥や雌成鳥で個体差があるが、チョウゲンボウにはほぼ見られない特徴となっている。
オマーンに見られるチョウゲンボウ。右下が鮮やかな体毛色をした成雄、うえが成雌。雌は目立たないが尾筒の横班は密である。上はチョウゲンボウの雄の飛行姿。Tuyuur al-Umann (オマーンの鳥類)p.103
生態
肉食鳥類としては、モズやわが国のツミとならび、最小の猛禽類とされている。そしていずれも小鳥を捕食する習性から、鷹狩りにも用いられ、また愛玩動物としても可愛がられている。貪欲さと執着力とから小チョウゲンボウが最も好まれておる。
しかし小鳥以外に、大物獲りをするのは他のチョウゲンボウ類ではなく、この両種チョウゲンボウとコチョウゲンボウとの2種だけである。
飛行ではチョウゲンボウの停止飛行、ホバリングはよく目にするところである。空中で翼と尾羽を大きく広げ、停止飛行をして、地面の獲物を探し、獲物を見つけたらバーシャク(鋭く激しく見つめる)を行う。それから急降下を行い鉤爪を立て襲撃する。
一般的にチョウゲンボウはゆっくりと旋回やホバリングをしながら地上の獲物を狙って捕らえる。これに対して、コチョウゲンボウは小鳥の群れなどに猛スピードで突っ込んでいって狩りをします。また飛ぶスピードは目に見えて違う。チョウゲンボウはゆっくり飛び、コチョウゲンボウは速く飛ぶ。それ故、後者の方が飛行中の小鳥も捕食しやすい。鷹狩り用に向いている。
ダミーリーによれば、水を飲むときは両翼を左右に傾けながら、水面に嘴を入れて水をすくって飲む、ということである。(“Azziyy46)
農耕地、原野、川原、干拓地、丘陵地帯、山林など低地、低山帯から高山帯までの広い範囲に生息する。単独かつがいで生活する。立ち枯れ木の洞に巣をつくる。
齧歯類や小型の鳥類、昆虫、ミミズ、カエルなどを捕食する。小型の鳥類も好んで捕食する。飛翔中の獲物を素早く追い回し捕らえる。飛行中のバッタ(jaraad)を好んで狙うところから、別名サクル・ジャラードSaqr al-Jaraad(バッタダカ)ともいわれていることは紹介した。
またハヤブサ同様に、獲物の背後に回って蹴落とすこともする。
アラブ世界ではトカゲ類が豊富なので、それを主食とするものもある、素早く羽ばたいて、体を斜めにしながらホバリングを行った後に急降下して地上で獲物を捕らえることが多いのが特徴。
最近の研究では、その視力は紫外線を識別することが可能で、この能力は主食である齧歯類の尿が反射する紫外線を捕捉し、捕食を容易にさせていると推測されている。ハヤブサと異なり、捕らえた獲物は持ち運びせず、周囲が安全ならばその場で食べる。
岩場の上など地上に木の枝などを組み合わせた皿状の巣を作る。森林地帯で繁殖する個体は、カラス類の古巣を流用することが多い。
繁殖形態は卵生。5-6月に平均4卵を産む。雌雄共に抱卵を行うが、主に抱卵はメスが行う。
越冬地では、数羽から十数羽の群れで一角を占め、集団の営巣地や塒とすることが多い。
日本では4–5月に断崖の横穴や岩棚、樹洞などに小枝を作って営巣するか、直接卵を産む。アラブ世界では年初の1-2月が多い。産卵数は1腹4–6個とされるが、アラブ地域のチョウゲンボウは3-5個とされている。抱卵日数は27–29日で、主に雌が抱卵する。アラブ世界では、チョウゲンボウの抱卵期は20日間余りとされている。また産卵で複数の卵がある場合、最初に孵化するのは雄が多いということが信じられている、(Jah.Ⅲ178-80)
雛は27–32日で巣立つが、親から独立するにはさらに1ヶ月以上かかる。1年で成熟する。
ハラール(可食)か不可食(ハラーム)か、
Hukm(イスラム法)では、肉食をする、猛獣類、猛禽類は、その肉をムスリムが食べることはご法度(ハラーム)である。それ故他の鷲類、鷹類同様チョウゲンボウ類もまた肉利用はできない。
我が国ではかつて沖縄に渡ってくる鷹類であるサシバを食利用していたことが知られる。その慣習を今に伝えるのが、石垣島であったか、焼酎名に「サシバ」があったことを思い出す。
Jah.Ⅱ185-86
アラブ世界のチョウゲンボウ二態
いずれも成雄。左図はUAEのアルアインの農場のスプリンクラーの上に留まり、辺りを窺う。Birds of Southern Arabia 76。 右図はソコトラ島(イエメン)の竜血樹の生える丘陵地で目線を定めてホバリング態勢に入っている。al-Yuyuur wa-l-Nabaataat fii Jaziirat Socotra(ソコトラ島の鳥類と植物)14。
竜涎香を宿すチョウゲンボウ
香料の一種、竜涎香はクジラ類(アラビア語ではバールal-Baalという長大な大魚)の結石が芳香を放ち、イスラム期に香料としての活用が始まったものである。産地はアラビア海岸、スワヒリ海岸に集中する。打ち上げられたこの結石は、それを捕食するものをすぐに殺してしまう。毒として作用するのである。しかも激しく突き刺して食べようとした鳥類はその嘴を落とされ即死する。
また鉤爪でその結石を踏みつけたものも、その鉤爪が剥がれ落ちる、ということである。
そして僅かな量を食べた海岸の小鳥が元気なうちに、また弱って生きているうちに何羽も捕食したチョウゲンボウにも、その捕食したものから竜涎香が沈殿累積して行き、やがて死ぬことになる。その死体のチョウゲンボウから腐らず残っている固形物がある。それが竜涎香である。こうした事情でチョウゲンボウから竜涎香が取れることが知られている。これはチョウゲンボウに限ったことで、他の猛禽類には見られない。また内陸や砂漠に生息するチョウゲンボウには見られず、海岸近くのチョウゲンボウの特性と考えられる。
それ故、香料商や漁業、船舶関係者は竜涎香を求めて、鳥類の嘴や鉤爪を目にすると、それを手掛かりに、もしやと思い、その周囲を探し回る。こうした事情でチョウゲンボウから竜涎香が取れることが知られている。
なお竜涎香については拙稿がある、「イスラムが始めたお香・竜涎香」『別冊「環」④』
藤原書店、平成14(2002)年5月、pp.270-73。興味のある方はこちらを参照されたい。
Jah.Ⅴ362、Ⅶ106、
古代エジプトでのチョウゲンボウの神格化
古代エジプトでは三神信仰があり、女神がイシス神を中心として、その兄であり夫であるオシリス神、そしてその二人の子であるホルス神。この三体は壁画などに描かれているのでよく知られている。
ところがこのホルス神は、太陽神、天空の神であったこともあり、ハヤブサの頭を持つ姿で描かれている。古くからその頭部はハヤブサというより、チョウゲンボウではないかとの説があった。神々はミイラ化され、死後の世界も役割を担った。
ミイラ化された鳥については、非常に種類が多い。ホルス神の神聖動物であるハヤブサ類はもちろんだし、ネクベト女神やムト女神の神聖動物であるハゲワシもミイラにされた。
しかし最近のニュースとしてハヤブサのミイラの中にはチョウゲンボウも入っていたことが判明した。すなわちハヤブサ同様チョウゲンボウも神格化されて崇められていたことになる。
それゆえにハヤブサもミイラ化され保存されている。そしてハヤブサはときとしてチョウゲンボウとしても具象化されていた。
そして最近のこと、ハヤブサの一つのミイラを最新技術で撮影調査したところ、ハヤブサではなくショウゲンボウのものと特定された。
左図はよく目にするハヤブサの頭を持つホルス神。右はハヤブサのミイラとされているものをを最新技術で撮影調査したところ、ハヤブサではなくショウゲンボウのものと特定したとSwansea Universityが公表。いずれもインターネット図像より。
最近の研究は進み、猛禽類のミイラについては、3次元スキャンを用いた測定結果から、チョウゲンボウ(Falco tinnunculus)に非常によく似ており、頸部の損傷が死因とは考えにくいことが示唆された。
ロンドン(CNN) 英スウォンジー大学の研究チームは20日、古代エジプトで作られた3体の動物ミイラについて、高精度な3次元スキャンを駆使して「デジタル的に開封」することに成功したと発表した。
同大学の声明によると、研究チームはミイラの分析を通じ、2000年以上前にさかのぼるこれらの動物の生活や死亡時の様子を知ることにも成功したという。
ミイラの中身がヘビや鳥、猫であることは以前から分かっていたものの、今回の研究では、医療用CTスキャンの100倍の高精度画像が得られる「X線マイクロCTスキャン」を使用。動物の歯に至るまで詳細に調べることが可能になった。
この結果、例えば猫は生後5カ月に満たないことが判明。脊椎(せきつい)が分離していることから、首を絞められ死んだとみられている。鳥の種類については、骨の測定によりチョウゲンボウと特定された。
Jah.Ⅱ188、Ⅲ157、180、Ⅴ362、Ⅶ106、Ⅶ109、Dam.Ⅰ224、669、,
“Azziyy 45,46,66,81,168, Oman p.102-03 ,Egypt20-21、
2 ヒメチョウゲンボウ(姫長元坊)
ヒメチョウゲンボウ(姫長元坊)はハヤブサ目ハヤブサ科ハヤブサ属に属する小鷹である。学名Falco naumanni、英名はLesser Kestrel 、亜名はal-Baashaq al-Saghiir(小型チョウゲンボウ)。
ヒメチョウゲンボウには、アラブ世界では別にウアイシクal-“Uwaysiqとの名称がある。
この名称はチョウゲンボウの名称の所で、別称として述べたアウサク“Awsaq、この指小辞であり、「小型アウサク」の意味である。
オマーンに見られるヒメチョウゲンボウ
左図は雌雄のヒメチョウゲンボウ。右の鮮やかな方が雄。左の方が雌。違いが明白。右図は飛行姿形。上が雄、下が雌。翼下面は綺麗な白色。チョウゲンボウ類は翼の先端と尾翼の先端が黒色系の帯となって明確なアクセントを持つ。いずれもTuyuur al-Umann (オマーンの鳥類)p.103。
分布
夏季にユーラシア大陸中緯度地方西部で繁殖し、冬季になるとアフリカ大陸中部以南や西アジア、インドへ南下し越冬する。日本にも迷鳥として、対馬、西表島、与那国島、高知県で記録されている。
アラビア半島湾岸部では渡りは早期の場合、春早く2月下旬から、また晩期の場合6月初旬までになる。夏季を湾岸で過ごす。またさらに南のアフリカ東部沿岸に向かう。北への渡りは秋季、10月から11月中旬までに行われる。山岳地帯では留鳥も見られる。
より西方のエジプトの方に渡るのもあり、地中海に面するアレクサンドリアには秋季に渡って来て、営巣をするものもある。
形態
ヒメチョウゲンボウの全長29-32cm。アラブ世界のも平均30cmと言われている。雌の方が大きい。翼開張61-66cm。
オスの成鳥は綺麗な色彩を帯び、上面が青みがかった灰色の羽毛で覆われる。雨覆には明るい栗色ないし褐色があり、目立たない黒い横班が入っている。翼の両端、それに尾は頭部と同じ灰色が囲んでいる。
メスの成鳥や幼鳥は上面が赤褐色の羽毛で覆われる。頭部や頸部は黒い縦縞、背中や雨覆、尾羽には黒い横縞が入る。尾筒には細かい濃褐色の横班が12ほども入る。
下面の腹部は、雄は咽喉元から下に淡褐色の羽毛で覆われ、淡い黒い斑点が入る。初列風切や次列風切の色彩は黒い。
雌は頬から頸部にかけて薄い橙色で、下に行くほど濃くなる。
眼の周囲に雌雄とも黄色い輪模様(アイリング)がある。嘴や上嘴を覆う肉質(蝋膜)の色彩は黄色で、先端は黒い。後肢の色彩は黄色で、爪の色彩は淡黄色や白。
生態
草原や開けた農耕地に生息する。越冬地では群れを形成する。
開けた砂漠や草原や丘陵地、山岳地帯、また開けた農耕地に生息する。越冬地では群れを形成する。
食性は動物食で、主に昆虫を食べるが、小型哺乳類、小型鳥類なども食べる。強力なものは兎や砂鶏なども捕食する。越冬地では集団で獲物を捕らえる。
崖の岩穴や樹洞、建物などにコロニーを形成し、5-6月に産卵する。卵数は3-5個、抱卵日数は28日。雛は孵化後、26-28日で巣立つ。
UAE77、80, Watching193, Somalia129,Bahrayn37,Oman102-03、
3 アカアシチョウゲンボウ Falco amurensis
アカアシチョウゲンボウ(赤足長元坊)は、他のチョウゲンボウ類同様、ハヤブサ目ハヤブサ科に属する鳥類の一種である。
学名をFalco amurensisと言い、英名はRed-footed Falcon、Easternを語頭に付される場倍もある。またAmur Falconとも称される。
アラビア名はal-Baaz al-Ahmar al-Qadam (アカアシ鷹)との名称であるが、別称もありルザイクLuzayq(執拗なもの)とも称される。セーカーのように追った獲物は、一回目を失敗しても執拗に追いかけて仕留める習性から名づけられてものでえろう。
アカアシチョウゲンボウ二態
左図はオマーンに見られるアカアシチョウゲンボウの雌雄。右が雌、左が下半身に赤色が目立つ雄。Tuyuur al-Umann (オマーンの鳥類)p.103 右図は一般に見られる雄のアカアシチョウゲンボウ。黒さが目立つ。また脚部の赤色もそれほど際立たない。インターナット図像より。
分布
アカアシチョウゲンボウは渡り鳥であり、長距離移動を行う。夏季は東アジアのシベリヤ南部、中国東北部、朝鮮半島北部の比較的限られた地域で繁殖するが、冬季は西南に向かい、インド洋を跨るように、インド、西アジアやアフリカ南部へ渡り越冬する。
湾岸諸国には北方から冬季に向かう10月から12月に渡って来る。オマーンの南岸サラーラでは1983年4月に25羽が確認されている。
そして3月から5月中旬にかけて再び北方へ旅立つ。集団に渡りを見せる4月下旬から5月中旬には多くが集まって移動してゆく姿が見られる。同種だけでなくチョウゲンボウや他の鷹類とも一緒に渡ることが多い。
形態
アカアシチョウゲンボウは,全長約30cm。
雌雄では体毛色が全く異なる。
雄は体の上面が灰黒色で、翼はさらに黒さを増す。風切羽は黒い。
より大型の鷹類の黒翼タカ(al-Baaj al-Aswad al-Janaah、Falco subbuteo)や灰色タカ(al-Baaj al-Ramaadii、Falco concolar)と姿形が似ている。
雌雄とも、蝋膜、眼の周囲のアイリング、足は赤橙色である。
下面は青灰色、下腹から下尾筒は赤褐色である。尾の横縞は目立たないか無い。
最大の特徴は名づけの通り、脚が赤色をなしていることである。下腹部から上肢までの羽毛が赤く目立つ。雄の方がより濃く、雌はそれほどでもない。
雌は全体に目立たず、頭部が黒褐色で頬は白い。体の上面は雄と比べて淡い褐色で覆われ
ており、下面は薄褐色の中に黒褐色の縦班が無数に走る。尾筒には雄と異なり、明らかな濃褐色の横班が帯状に入る。
雌には嘴、蝋膜、眼の周囲のアイリング、足ともに黄色味の方が強い。
生態
チョウゲンボウに似ている。平原や山麓、丘陵地、農耕地、干拓地等の開けた場所に生息している。小チョウゲンボウほどには気性が激しくないので、チョウゲンボウと混住して生息している地域が多い。
食性もチョウゲンボウに似ており、主にバッタや昆虫類、トカゲなどの小動物を捕食する。
生殖もほぼチョウゲンボウと同じである。
“Azziyy66、Watching193、Somalia131、Oman102-03、Misriyyah320、