ブルブル アラビアウグイス・アラビアヒヨドリ

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ブルブルBulbul アラビアヒヨドリ アラビアウグイス

学名Pycnonotus ズグロ(頭黒)ブルブル P. xanthopygos

シリアブルブル  デーツ(ナツメヤシの実)を好む  侘し気な美しい囀り

ホウジロブルブル(頬白ブルブル)  学名P.leucogenys

イラクブルブル  カラスの声を聞くと不吉、ブルブルの声を聞くと吉兆

ブルブルを謳う詩

 

アラブ世界ではその鳴き声の美しさから西洋では「アラブのサヨナキドリ(小夜鳴鳥)」、「アラブのナイチンゲール」と称されている。また我が国には生息しないため、ヒヨドリ属であるから「アラビアヒヨドリ」との和名にされている。ウグイスとは大きさが異なるが、美しい鳴き声の類似から「アラビアウグイス」が最もふさわしかろう。

 

西洋のサヨナキドリ (小夜啼鳥:Luscinia megarhynchos)は、スズメ目ヒタキ科に属しており、体長約16cmでブルブルよりは小さいし、一見外見も全く異なる。わが国では「西洋ウグイス」とも言われ、鳴き声の美しい鳥で、英名Nightingaleナイチンゲールもよく知られている。ヨナキウグイス(夜鳴鶯)とか静かな人気のない墓地で鳴くことから「墓場鳥」とも呼ばれる。

 

アラブ世界のウグイス、「アラビアウグイス」であるブルブルbulbul。口語や日常世界ではボルボルbolbolと発音されて親しまれている。

アラブ・イスラム世界でも人名にはナビールNabiilという名が多いが、彼らは親しみを込めてボルブルBolbol と呼ばれていた。私にもアラビア語でお世話になったカイロ大の学生で銀行員になったナビールという友人がいた。彼の名もナビールであった。自宅を訪問する機会が多くあったが、家族からボルボルと呼ばれていた。それで私もそう呼ぶようになった。なお現地では私の名前はMasaruであるから、アラブイスラム風に変えてマンスールMansuur(勝利者)と普通に呼ばれた。

 

西洋のサヨナキドリ(小夜鳴鳥)あるいはナイチンゲールは、現代の分類学では、鳥綱スズメ目ヒタキ科ツグミ亜科の鳥ということになってにな,っている。

アラブ世界のナイチンゲールと比されるブルブルBulbulも、古来から民俗分類でもスズメ類(anwaa” al-“asaafiir)として理解されている。

 

我が国のウグイスと言えば、すぐに「早春賦」の唱歌を思い出す。今の時期と少しずれるが、中田章の作曲も良いが、吉丸一昌の作詞が素晴らしい。早春のウグイスの囀りかねている様を良く謳いこめている。「歌は思えど」、「春と聞かねば」辺りの詩句はななかなもの。

 

                       

ブルブルは日本にはおらず、形態はヒヨドリと似ているため和語では「アラビアヒヨドリ」などと訳され用語になっている。が、見た目も明らかに異なり、またあの鳴き声はとてもヒヨドリが及ぶところではない。わが国のヒヨドリもヒーヨ・ヒーヨと鳴くほか、「車鳴き」と言って雄が繁殖期になって無く綺麗な車を引き回転させるような鳴き声を持っている。

イソヒヨドリはさらに美しい囀りを持つが。

しかしブルブルはそんな比ではない。西洋で言う「サヨナキドリ(小夜鳴鳥)、ナイチンゲール」よりもさらに美しい囀りを絶えず聞かしてくれている。囀りも多々あるが、わが国のウグイスの囀りによく似たケキョケキョとかホーケキョと囀ることも多い。

チュニジアなどに行くと白い鳥籠が名物となっており、中でもブルブル用のそれは形もドーム型、モスク型、家形様々にあって興味をひかれた。耳脇にジャスミンを挟んだ良いおじさんたちがいらっしゃいと寄って来る。スーク近くにあり、何処でも見られるはずである。ホテルでも庭園に面していたり、住居の立ち並ぶ街通りの中にあっても、とくに早朝にはその少し哀調を帯びたケキョの鳴き声が聞こえてくる。というよりも聞こえてきたら、その美声に耳を傾けざるを得ないほどなのだから。

 

ブルブルBulbulは学名をPycnonotusという。ギリシャ語の合成語であって、前接語puknosは "thick、compact" の意味で、後接語-nōtos は"-backed"との意味であり、その合成義は「背が厚い、コンパクトな(鳥)」となる。すなわち全体に翼羽、羽毛が膨らんでおり、厚くコンパクトに見えるところから名づけられた。

ブルブルは分類学上ヒヨドリ亜科ではある。が学名にもそのままBulbul とされており、ブルブル名の亜種が32種もある。

そのうち、アラビア半島を中心に、9種ほどがブルブルBulbulの名で知られている。そして最近の研究ではPycnonotus類のブルブルは限定されており、4種ほどであり、他はヒヨドリ属の、ホウジロ属の、シロガシラ属の仲間の方に分類されるようになった。

 

メソポタミア、地中海南岸、アラビア半島ではごく一般に見られる。代表種二種、頭黒ブルブルは「シリアブルブル」との俗称であり。頬白ブルブルは「イラクブルブル」との俗称を得ている。この2種を中心に述べてゆく。

 

ブルブルの代表的2種。頭黒ブルブルと頬白ブルブル。両者ともに実がみのる刺アカシアの枝に止まっており、頭黒ブルブルの方は囀っている。図はオマーンp.217

 

ブルブルを代表するこの二種のことをもう少し詳しく言及しておこう。

 

     ズグロ(頭黒)ブルブル

ズグロ(頭黒)ブルブルはわが国での用語はアラビアヒヨドリ(アラビア鵯)との用語である。学名はPycnonotus xanthopygosと言い、その種小名xanthopygosとはギリシャ語の合成語で、前接語は xanthosに由来し「黄色」の意味、また後接語は pōgōn に由来しており「毛、髭、尻毛」の義である。「黄尻鳥」となろうか。

この学名からでろう、英名もYellow-vented Bulbul (黄腰ブルブル)との名称でも知られる。腰の下部に黄色味を帯びた部位があり、それになぞらえて付けられた名である。しかし<黄腰>は「ホウジロブルブル」にも同じようにあり、区別指標とはならない。

むしろ頭の黒さにこそ特徴があり、それゆえにもう一つの英名Black-headed bulbul があり、こちらの方がよく鳥の特徴を浮き出させている名称と言えよう。

本ブログも「頭黒ブルブル」で通す。

 

アラブ世界の名称では「頭黒ブルブル」の名称そのままal-Bulbul al-Aswad al-Ra’s(黒い頭のブルブル、黒頭巾ブルブル)という。あるいはシリア地方に多いので地域名を代表させて「シリアブルブル」 al-Bulbul al-Shaamiiとの名称である。またアラビア半島南岸にはアフリカの方から飛来する種もおり、アフリカブルブルal-Bulbul al-Afriiqiiとの別名も知られている。

 

またかつては、囀りが得意場ところから、いかにもそうでろうと思われるブルブリ・シャーイウ al-Bulbul al-Shaa’i” 「喋繰(しゃべく)りボルボル」などとも呼ばれた.。(UAEp.134)

頭黒ブルブルはよほど親しまれているのであろう。地域によって方名がある。湾岸ではBulbulの後半部を長く伸ばしブルブールBulbuulと言っているし、イエメンではアウジャルal-“Awjar(頭部をヴェールで覆うもの、黒頭巾)と言われている。

 

UAEではペルシャ湾に突き出たムサンダム半島の西側、アラビア湾・インド洋に面したほうに多く見出され、反対側の東側のペルシャ湾に面した地域には少ない。

UAEには他に「頬白ブルブル」P.leucogenysや「シリアカヒヨドリ」(尻赤鵯、Pycnonotus cafer)なども共存している。

 

スズメより少し大きく、全長19cm、翼開長26–31cm、体重31-43g。雌雄同色であるが、雌は淡い色となっている。頭部が最大の特色で暗黒色、少し尖がり頭の頭高(カシラダカ)。顔面は確実に暗黒色であるが、この頭黒となる部分が頭部の後方のどの辺りまで行くかは個体差がある。ブルブルの眼の周囲には目白のように白いアイリングがある。

上面・背面は灰褐色で、翼部は濃い目の褐色をしている。下面・腹部は首から下は淡灰色をしており、下腹から下尾筒がYellow-ventedとの名称のごとく淡黄色である。

尾は長めで暗褐色。

幼鳥は頭部が褐色で成鳥よりアイリングは不明瞭。

 

頭黒ブルブルは留鳥であり、庭園や畑、民家近くの樹林、ワジの土手、平原など比較的に標高の低いところを好む。したがってその美しい鳴き声が人を魅了するだけでなく、頬白ブルブルよりは人目に付きやすい。茂みが疎らなアカシアに止まって鳴いているところを見出すと、立ち止まってしばらくそちらに向きその姿と囀りに聞きほれてしまう。

 

果物農園、都市の庭などによく飛来する。頭黒ブルブルの方は住宅地や庭園など割に人間と居住空間に近く、また頬白ブルブルの方は住宅地から距離を置いたワジ底や土手の茂みを生活空間とする。

 

食性は草の実、木の実、特にデーツ(ナツメヤシの実)を好む。また芋虫などの幼虫や小昆虫、バッタなどの小動物も捕食する。空中で飛翔する虫類の狩りも行う。

 

生殖活動は2月ごろから始まり、巣は、細い小枝、草の茎、葉、苔、羽毛などを素材にして小さな碗形を作る。通常低木に造られ、細く刻まれた樹皮や細かい根で裏打ちされる。3月ごろには3-4個の卵を産む。卵の色は全体が薄桃色に褐色と赤褐色の多くの班を持つ。

ほぼ2週間で孵化し、雛となる。

寿命は8年とされる。

 

鳴き声はどこか侘し気な美しい囀りを断続的に行う。ウグイスに似ているが、少し低温で聞き飽きない。ケキョ、ケッキョケキョ、ホーケキョなど様々に表現できよう。

 

またCommon bulbulとして学名Pycnonotus barbatusともされている。種小名Barbatusとはラテン語で bearded「髭の生えた、有髭の」の義である。しかし、髭の方ははっきりとは視認できず、むしろ頭の黒い方が識別が容易かろう。Commonの通り、この頭黒ブルブルが最もありふれ、親しまれている種である。

 

   “Azzii p.190, オマーン216-17、286。Yaman36, UAE124plate13、Egypt33-34、 

             Somalia232、 Bah.97。 N.Yemen146-67、Watching  211、ソマリア232

                                  (文献一覧は前ブログの稿末に)

 

頭黒ブルブルの図2枚。左図は人里の人家近くで木の枝の留まる頭黒ブルブル、Yemen p.36、右図は湾岸地域のアカシア類に止まる二羽の頭黒ブルブル、Southern p.90。

 

 

 

 

    ホウジロ(頬白)ブルブル

もう一つの最も一般的なブルブルは、下図で示したホウジロブルブル(頬白ブルブル)ある。その命名の通り、頭黒の中に頬だけ大きく白斑がある。

学名は P.leucogenys、種小名のleucogenysとはギリシャ語で「頬が白い、ホウジロ」の意味である。英名もそのままにWhite-cheeked Bulbul。

アラブ世界ではal-Bulbul al-Abyad al-Wajnatayn(al-Khadd)と称される。Wajnataynはwajnahの双数形で「両頬」、khaddも「頬」の意味で、同じく「頬白ブルブル」の意味となる。またこちらのブルブルはイラクの方に多いことからイラクブルブルal-Bulbul al-“Iraaqiiとも呼ばれ親しまれている。

 

頭黒ブルブル同様留鳥である。分布は湾岸から内陸のイラクにかけてが多く、東は北インドにまで及ぶ。

頬白ブルブルは頭黒ブルブルよりは大型で、全長20cm以上、翼開帳は28㎝。その命名の通り、頭黒の中に頬だけ大きく目立つ白斑がある。眼の周りのアイリングは白いか黄色みも帯びる。

上面・背面は灰褐色で風切り羽の両端や尾筒は黒褐色である。下面・腹部は首から下は灰白色であり、尻の方に頭黒ブルブル同様の黄色に帯びる。黄色味は頭黒ブルブルほどには濃くない、尾は頭黒ブルブルよりは長い。両の尾端にも白羽がある。

雌もほぼ同様で、色はより淡い。

 

頭黒ブルブルと比べて、頬白ブルブルの方はどちらかというと人里離れた地域、森や鬱蒼とした木々の中を好み、樹陰に隠れていてもケキョ・ケキョとかチュク・チュクという囀りが聞こえてきて在り処を教えている。この鳴き声が地鳴きかチュカルChukarと呼ばれている。時折繁殖期などに群れで密になって飛び回ることがある。

ブルブルの美しい囀りはタグリードtaghriidと言われるが、この頬白ブルブルの方がより美声だされている。また「カラスの声を聞くと不吉、ブルブルの声を聞くと吉兆」ともされている。

 

先に述べた如く、ペルシャ湾岸からイラクに多く、それゆえイラクブルブルとも呼ばれている。生息分布は東に延びて、イラン、パキスタンや北インドまで広がる。UAEでは頭黒ブルブルと好対照で、生息域がムサンダム半島の東であったのに、この頬白ブルブルの方はその西のペルシャ湾に面した地域に多い。アブダビやドバイでも樹木の多いところでは散見できるはずである、その声と共に。

 

果物農園、都市の庭などに留鳥として生息する。頭黒ブルブルの方は住宅地や庭園など割に人間と居住空間に近く、また頬白ブルブルの方は住宅地から距離を置いたワジ底や土手などの茂み、丘陵地などで生息する。

雑穀、果実が好みで、動物食の芋虫などの幼虫や小昆虫、バッタも捕食する。空中で飛翔する虫類の狩りも行う。デーツも好みであり、ナツメヤシの木に留まっていることも多い。

 

営巣は春の初めに、小枝や枯草、羽毛類などを巣材として行う。湾岸では頬白ブルブルの数が2月から7月にかけて特に多くなる。この頃が繁殖期で雌は木々の枝の上を利用して巣作りを行う。高いところに巣は作らず、2-4mほどのところである。その後、3-5個の卵を産む。卵の色は薄桃色に褐色と菫色の多くの班を持つ。抱卵してほぼ2週間後には孵化する。

野生では8年が寿命とされているが、飼育下では20年生きた記録がある。飼育も難しくはなく、人里とは距離を置く習性はあるが、接触を増やせば結構人馴れはする。それ故チュニジア人は別格にしても、バハレーンや湾岸人はその美声を聞きたくて、多くの人が飼育してペットにしている。

             頬白ブルブル二体。

左図 小枝に止まって囀ろうかと様子をうかがう。Southern p.53、

右図は、安全と思って思いきり囀りを上げる。黄色味のアイリングも目立つ。バハレーン p.97

 

鳴き声は美しい囀りを断続的に行う。どこか侘し気な人恋しさをいざなうものである。

ガルガラghargharahと言いあらわされるが、文字通りには水で咽喉や口をうがいする音とか、鍋釜で水が煮立つ音とか言われる。わが国ではガラガラとかグツグツという擬音になるが、アラブ世界のウグイスでケキョ・ケキョが基本であるから、もう少し透明で美音のはずである。

 

以下にブルブルを謳う詩を紹介する。悲恋増すブルブルのさえずり。作詞は中世詩人のアリー・イブン・アル・ムザッファル(Alii ibn al-Muzaffar Abuu al-Fadl al-Aamidii)。悲恋に終わる恋に、ブルブルの鳴き声にさらなる悲しみで心を掻き毟(むし)られる;

 

1. 恋する者にとって何と悲しいこと!

      (共に過ごした)放牧地が想い出されて思わずのため

                     waahaa la-hu dhikru l-himaa fta’awa-haa

   (恋人住まう彼方より来たる)東風誘うが如く彼を呼び招き惑わせる

                                  wa-da”aa bi-hi daa”i s-sabaa fa-tawalla-haa

2.  ブルブル美しく囀りて千ゞなる困惑 いやが上にもかき乱す

                   haajat balaabila-hu l-balaabilu fa-nthanat

         悲哀の情 増し増して体面保つも今や限界

                        ashjaanu-hu tathannaa “ani l-hilmi n-nahaa

3. 不平ごち、嘆き、忍び泣き、悲痛にもがく

                            fa-shakaa jawaa wa-bakaa asaa wa-tanabbaha

      過ぎ去りし恋情 再び想念の場を占め、ぬぐい去ることはもはや絶望

                                   l-wajdu l-qadiimu wa-lam yazal mutannabahaa

4. 癒す手だて無き彼を厭うことなかれ どれほど長き間

                laa takrahuu-hu “ala s-sulwi fa-taalamaa

     恋の責め苦に耐え来しことか 策弄してもいかほど彼の慰みとなろうや!

                                   hamala l-ghulaamu fa-kayfa yasluu makru-haa

5. 恋人スウダーよ 汝を責めるに非ず 心ひろく持ちて

             laa “atba yaa su”daa “alai-ki fa-saamihii

      来て見よブルブルよ、汝が囀れば彼の悲嘆の極み今あるを見ん

                         wa-silii fa-qad balagha s-saqaamu l-muntahaa

                                脚韻語/-haa/ (ダミーリー I p.257)

第2詩行のブルブルの囀りはもの侘しい音調を帯び、悲しさをいや増す。悲恋の身にはそれが一層募る。前半詩行の直訳は「ブルブル達は(al-balaabilu)彼の困惑(balaabila-ha)を駆り立てる」である。ブルブルも困惑も、どちらも複数形はbalaabil。複数同形語ジナース技法。前者の単数形はbulbul、後者のそれはbalbalahで異なる。みごとな同音異義語技法の例である。

第5詩行、スウダーSu”daaは恋人の仮の名前。類似しているがスアードSu"aadの方が知られている。自分の恋人の名前を詩に歌ってしまうと、相手の恋人の一家のイルド(守るべき家族の尊厳)の倫理観に抵触してしまうから偽名で紛らわす。

 

‟Azzii 52、67、213、Dam.Ⅰ257-60、オマーン216,286、Watching 211 Bah.97、UAE133(plate12)、 N.Yemen146-47、Yaman36,、Egypt33-34、Somalia232

                                  (文献一覧は前ブログの稿末に)