スズメと食  スズメのアラブ民族誌(4)

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スズメと食 スズメが食べる  イネ科の収穫期の害鳥  雀対策あれこれ

すぐ腹が減り絶えず食探し モーゼとヒドルal-Khidr(緑衣の人)

スズメの飲み水 知識貯めたとてスズメの飲み水ほど

スズメを助命、救命  生あるものはそれを全うする

スズメを食べる 「スズメあり〼」「ツグミあり〼」 スズメやウズラの串焼き

イスラム法ではスズメ肉はハラール(可食)

スズメ肉の四体液説  スズメのkhawwaas(薬膳、特効)

ホムスのスズメ 美味のスズメはホムス(シリア)産

スズメ肉料理  アサーフィーリッヤート“Asaafiiriyyaat(スズメ料理)

スズメ串焼きシーシュ・ウスフールShiish Al-“Asaafiir

スずめ肉保存法  「塩漬けスズメ」と「酢漬けスズメ」

揚げ物風にした料理カラーヤー Qalaayaa

煮込み風にした料理タバーヒジャートTabaahijaat

中世料理タバーヒジャートのレシピ2例

もてなし方・食事量「スズメ肉ほどの量」の真意 賢者ルクマーンの息子への遺訓

 

 

      スズメが食べる

スズメの食べ物は、あの太い嘴が明らかなように、普通食べるものはを主として穀類である。わが国では稲の稔る頃、大挙して周囲の稲穂に留まり、稔った実をついばむ。

スズメの数によるが、その数に比例して被害も増えることになる。農家にとっては害鳥であり、その対策も昔から案山子や凧のように揺れる目玉風船など講じられてきたし、鳥追い歌などでスズメが来ないよう、来ても追い払われるよう祈りを籠めた歌などがある。

 

筆者も散歩がてら稲穂実る田んぼ道も通るが、その中に何百羽とスズメたちが穂先に留まって啄んでいる光景をよく目にした。堪えきれずに農家のためと思い、石を稲穂の波の中に投げ込んだことがある。すると百羽は下らない数のスズメが飛び上がって、近くの電線上や木に逃げ込む、電線など鈴なりになって、何事かと見遣っている。もう一度別の角度も稲穂の波に投げてみた。そこからも同じ数ほどのスズメの群れが飛び立った。驚いたことに、先に投げた石の辺りからも、何羽か飛び立つではないか!欲張りで警戒心が弱い性質のものもやはりいるのだ。電線や見晴らしの良いところで、自分の番を待っているスズメたちもいる。今では稲は風水害対策で品種改良してあり、穂は簡単に折れないこともスズメを穂に留まらせ食害を大きくしている大きな一因であろう。

 

稲の収穫期、その被害がどれほどか農家の心中を考えると、スズメに対してもこも時ばかりは中立ではいられない。というのも秋が収穫期を迎えるのは、多くの穀類、稗や粟の野生種や原種、イネ科の雑穀類も実っており、背の低い土のある所、野原一面に餌が見いだされる。やはり人間の主食の、品種改良されて味もうまくなっている稲のところに集中することになるのであろう。

作り手の農民の方でも雀対策として、案山子や様々なスズメ脅しが案出されてきた。最近では鷹を象った凧が稲穂の上を待っているような高度の雀対策道具も出てきている。

 

上図2点は最近見かけるわが国のスズメ脅しの凧。「鳥追いカイト鷹」として商品化されている。三千円前後で売られている。稲穂の波の上をゆったりと舞う。風があれば舞うであろうし、無ければぶら下がる形になり、その映像だけでも案山子以上の効果は出よう。いずれもインターネット画像より。

 

アラブでは「スズメはすぐ腹が減り、絶えず食探しに当たらねばならない」と見做されている。(Jah.Ⅱ328)

アラブ世界は稲作ではなく小麦主体の農業である。スズメは小麦、大麦などの穀類も食べるが、やはりイネ科の雑穀があり、また木の実や芽などが主食であるが、虫やミミズ、昆虫、バッタjaraadや白アリardahなども捕食する。時には飛ぶ昆虫を捕食することがある。

                             Jah.Ⅰ29,Ⅱ327、Ⅳ36,Ⅴ207,Ⅶ29,146

 

 

     スズメの飲み水

  モーゼとヒドル  知識貯めたとてスズメの飲み水ほど

 モーゼは預言者として出エジプトの偉業を達成する前のことである。知識量を増やし慢心してしまった。自分より知識のあるものはこの世にいないと豪語した。そこで神はそれを咎めて、モーゼに忠告し、ある人物に会うように啓示を下した。ヒドルal-Khidr(緑衣の人)という聖者であった。二人はともに旅をし、いろいろの場面に出くわし、その都度モーゼはヒドルの奥を読む知識経験に驚かされ、また秘義を教わった。そうした逸話の一つにスズメも例えとして出て来る:

ある時モーゼとヒドルは湖を渡るため、舟を漕いでいた。そこへスズメは渡って来て、舟の縁に留まり、水を一口二口飲んだ。そこでヒドルはモーゼに声をかけた、「このスズメの飲んだ水も我らが知識の量と大差はない。神の知識はこの湖の水の量ほどもあり、われらの方はこのスズメの飲んだ一二滴にも過ぎない。創造主と被創造者とはそれほどの違いがあるものだ」と。                                        Dam.Ⅱ214

 

 

    スズメを助命、救命

教友アブー・ダルダーウAbuu al-Dardaa’の話として:

食肉としてスズメは子供たちに捕らえられ、市場や通りで行き交う人に売られる。大抵は殺され羽がむしられ丸裸になったものが売られている。しかし生きたまま売られる場合もある、生きたままで売られているスズメ目にすると、アブー・ダルダーウはすぐさまその少年のところに行き、買い取って放してあげていたという。

生あるものはそれを全うするのがイスラムの教えである、たとえ小さいものであっても、弱いものであっても生類を憐れむべきである。                    Dam.Ⅱ216

 

 

         スズメを食べる

一昔前まではわが国でも山間や峠道の茶店や食事処、屋台などでウズラを中心に、スズメや野鳥を焼き鳥として食べさせていたものである。冬季には身が引き締まり、美味さを増した。「スズメあり〼」、などと書いた張り紙もその匂いと共に目についた。特に「ツグミあり〼」などと書いてあると、先を争って注文し、その鶫の甘肉を堪能したものである。

スズメは骨まし食べるので、多少歯ざわりするガリガリ感があるが、鶫は鶏の中でも最も美味として珍重だれたが、今では鶫は狩猟してはならないことになってしまっている。またその他の野鳥、野獣に対しても、その保護のために狩猟期間が設けられ、なかなか食味する機会も得られなくなった。

スズメ肉に関しては、現在は京都の伏見稲荷大社の門前辺りで、味合うことができる。スズメやウズラの串焼き出す店が数は少ないが、名物として数軒の老舗がある。下の図は多くその辺りから撮られたものである。中国から輸入されていたが、輸出規制で入らなくなり、ヴェトナム辺りから輸入されていたが、支障が多く、最近は国内産を仕入れ先にして、安定供給を図っている。いずれもインターネット画像より。

 

 

さてアラブ社会のスズメの食利用について述べるが、先ずイスラム法の観点から述べよう。  イスラム法Hukm、すなわちその対象の食利用がハラール(可)かハラーム(不可)か。

スズメの食利用はハラール(可食)である。しかし殺行為自体はマクルーフ(忌避される段階)なので、遠慮ない度を越えた殺傷は控えるようにとある。またまずくはあっても殺傷したならば、食利用すべきであって、食に適しない部位を除去して食材として生かすように心がけなければならない。

猛禽類を除いて、スズメ類はそれ以下の体形の小鳥であってもハラール(可食)とされる。前回述べたように、ミソサザイ類もスズメ以下の小ささであるが、スズメ類に準ずるとしてハラール(可食)とされている。またアヒルなどの水禽類、ウズラ、鶏やハトなどの家禽類もハラール(可食)である。但し猛禽類は肉食ゆえにハラーム(不可食)である。 

                                               Dam.Ⅱ214 

 

しかし法医学者の間でも多少の意見の相違がある。ムフタール・イブン・アドナーンなどの医者は、スズメ肉を食べるべきではない、と主張する。なぜならばその食べやすさで骨まし食べてしまうと、それは食道(mariy')や内臓(ma"y)に脂肪分を蓄えることになってしまい、障害が起こりやすいと主張している。

一方では、スズメ肉はまた性欲増進剤として良い、とされる。性欲増進剤には4種あり、①スズメ肉、②大型種のベニバスモモ(atriifal、mirobalan)、③ピスタチオの実(fistiq)、④クルミの実(jawz)だとされる。                                    Dam.Ⅱ215

 

肉質:スズメの肉は、四体液説では「熱」くして「乾」燥している。鶏などの家禽より硬い。最高の良肉は冬季に獲れたもの。その肉料理は精力をつけ、性欲を増加させる。しかし本来「湿」の体質の者にとっては、多量の摂取は有害となろう。その対策はアーモンドオイルを用いれば解決してくれよう。スズメ肉は黄胆汁を生み出し、老齢のもの、「冷」の体質の者、また時期は冬季には効果が発揮されよう。

スズメ肉は、何もせず家に籠って太ってくる人間には、食害となろう。

スズメの雛肉と卵、それに玉葱でオムレツを調理して食べると、精力をつける。

若鳥でスープを作り、食とすると、体液の増加をもたらす。

若鳥の肉、特に痩せていて、丈夫そうな若鳥の場合は顕著で、四体液の滑らかな結合を促す。

ヤブスズメ(トゲスズメ”usfuur al-shawq)の肉を、塩をまぶして焼き、食すと睾丸(maththaanah)や腎臓(kulliyy<kulyah)にできた石を溶かし去ることができる。

糞:スズメの糞(dharq)を歯の涎(lu”aab)と混ぜ合わせて、疣(いぼ)類(tha’aaliil<thu'luul)に塗り込めると、除去することができる。これは経験済み(ⅿujrab)である。

                次回で述べるスズメのkhawwaas(薬膳、特効)の一部より。

 

 

    ホムスのスズメ=美味のスズメ                   

アラブ世界にもスズメの肉の美味い名産地がある。シリアの北方ホムス地方がそれで「ホムスのスズメ」として知られる。この辺りのスズメは、餌が違ったものが多く、また豊富である。特に露を含んだ穀類の穂藁(rafuuf<raff)を食べることによって、みな肥え太ることになる。それゆえ肉量も多く、肉質も美味となる。したがってホムスのスズメは調理せず、そのまま塩をかけるぐらいで焼き鳥として、直接の肉の食味を味わえて、おいしく食べることで知られる。それゆえお土産ともされ腐らない程度までの地域ならば、そのまま持ち帰られる。最良の手土産ともされる。また王侯貴族や富豪たちへの献上品としても扱われている。

                                                Jah.Ⅴ243、

 

   スズメ肉料理

スズメの肉を調理した料理をアサーフィーリッヤート“Asaafiiriyyaat(スズメ料理)と称している。スズメ”usfuurの複数形“asaafiir。その複数形に関与性も意味を加えた語尾/-iyyah/を付し直接的には「スズメ的なもの、スズメに関与するもの・こと」を表す。ここでは「スズメの料理」という具象性を表すことから、その女性形複数形語尾/-iyyaat/を付しており、長たらしい名称となってしまっている。

スズメの肉をメインにしたアサーフィリッヤート“Asaafiiriyyaat(スズメ料理)。長たらしい名称、それ自体によほど食利用が様々工夫されていたことを物語っていよう。

スズメ肉のいくつかは、上でスズメのkhawwaas(薬膳、特効)との関連でその一部述べておいた。

 

またわが国でもかつて食べられていたように焼き鳥風に、串焼きにした。アラブ地域では羊肉のぶつ切り串刺しのシシ・カバブ(Shiishu al-Kabaab)がよく知られているが、スズメも同様に風味をつけて焼いて供せられる。しかし串(shiish)自体がジャンボであり、スズメ自体は小さいので、一羽を串刺しにするか、より小さいものは二羽を一つの串に刺して焼く。脚は取り除くが、骨も柔らかいので、ゴマをかけて頭ましすべて食べられる。シーシュ・ウスフールShiish Al-“Asaafiirとして、ハト料理同様そこここに名物料理としてある。

 

 保存・貯蔵スズメ

これから述べる揚げ物風にした料理、煮込み風にした料理のほかに、大量に獲れた場合保存食にも加工された。「塩漬けスズメ」および「酢漬けスズメ」とである。

腐りやすい内臓を取り除いて、瓶や陶器壺に塩をまぶして詰め込む「塩漬けスズメ」、これをアサーフィール・マクブース「塩漬けスズメ」 “Asaafiir Makbuusと称された。語根動詞√kabasaは「野菜果物などをを圧縮して塩漬け保存する」である。

もう一つが酢(khall)を利用して保存するもので、こちらは「酢漬けスズメ」、ムハッララートMukhaallalaat と、またアサーフィール・トゥルシー“Asaafiir Turshiyyとも呼ばれた。両者ともハレの場合の馳走として、様々に調理されて食卓の花形になったり、また食料の乏しい時、体力が落ちたり、病弱であったりしたときに、体力をつける万能薬として効果があった。

上図左は「揚げスズメ」料理。アサーフィール・ムハンマラal-“Asaafiir al-Muhammarah。

複数のスズメがバター油で高温ではなく中火でまんべんなく揚げられる。黄金色になってきたら、あと少し時間ををかけてとろ火にして塩やレモン汁、ザクロ汁、それに胡椒をまぶして出来上がる。皿には八羽のスズメが揚げられている。両脇に茸とジャガイモの細切りにして揚げられたもの(ポテトチップスと同類)が添え物とされている。皿の外の駕籠の中には、調理する前の10羽のスズメ肉が置かれている。

右図は「ハト焼き、ハトグリル」al-Hamaam al-Mashwii。塩と胡椒を混ぜたバターを表皮の内外に塗る。オーブンに入れ、中火で焼く。時々位置をずらしながら時間をかけ、黄金色になると出来上がる。添え物としてタヒーナ(tahiinahゴマのペースト)とフッムス(hummusイナゴマメ)が良い。図には三羽のハトのグリルがあり、右端の大き目のが雄、他に二羽が雌。飾りとして雄肉の尾羽と二羽の雌の尾羽が添えられている。     L.B.Chebaro、N.M.Halawani共著Arabic Cooking,Step by Step,Beirut(Lebanon)1997 p.147、p.135より。

 

 

スズメ肉としてメインディッシュとなる料理がアッバース朝時代には知られていた。ジャーヒズはその代表として揚げ物風にした料理カラーヤー Qalaayaaと、煮込み風にした料理タバーヒジャートTabaahijaatとを挙げている。(Jah.Ⅴ222)

 

1カラーヤーQalaayaa 「スズメ揚げ」であり、その単数はカルヤqalyahという。単品はしたがってカルヤといわれる。語根動詞は√qalaa<qalayaであり、「食材を揚げる、フライにする」である。そのための鍋である「フライパン」のことはその派生形でミクラーmiqlaa (pl.maqaaliyy、直義「揚げる道具」)と言っている。上図の「揚げスズメ」料理、アサーフィール・ムハンマラal-“Asaafiir al-Muhammarahをより豪華にした一品。

ゴマ油やオリーブ油で足を除いて丸ごと揚げる。空揚げもあり、コロモをつけたフライもあった。豪華なものは香草や香辛料を効かした「スズメ揚げ」となる。特に琥珀(“ambar)色に揚げる「スズメ揚げ」アンバリッヤal-“Amariyyahと言って、最高のカラーヤーQalaayaaとしてもてはやされた。

                         Arberry:Medieval Arab Cookery,281,302,303,343,358

 

2タバーヒジャートTabaahijaatは「スズメ煮込み」と称して良かろう、タバーハジャートTabaahajaatとも言われる。単数はタバーヒジャTabaahijahまたはタバーハジャTabaahajah とも。ペルシャから由来した料理であって多くの辞典やレキシコン類には記載されてはいないが、ペルシャ語に詳しいSteingassの『A Learner’s Arabic-EnglishDictionary』には  Tabaahajとして「卵と玉葱とを混ぜ合わせたこま切れ肉、挽肉料理」とある。

スズメ肉を細切れの挽肉にして、それに卵、玉葱などで煮込んだ調理。贅沢なタバーヒジャほど、それに付け加えられる香料や香草は高価で貴重なものが使われた。

 

「スズメ煮込み」タバーヒジャTabaahijahのレシピ1

雀肉をスライスして挽肉のように細切れにする。ソースパンを用意して、少量オリーブオイルを入れる。そしてスズメ肉を入れ、塩を半デルハム銀貨(およそ3,2g)の量ほど、および香料サフランを一ダーナク(2.2g)ほどを混ぜて置く。その後ソースパンに水分を加えて、その中の肉を煮込む。大きく刻んだ玉葱を適量、薄荷及びセロリを一枝づつ入れて、さらに煮込む。水分が蒸発するまで待ち、その後コリアンダー、クミン、キャラウェイ、シナモン、生姜をよく挽き潰した香料類の半分を混ぜる。半分は食卓で好みに応じて振りかけられるよう食べるときに用いるので取っておく。ワイン酢、ブドー汁、レモン汁を混ぜ合わせ、ソース用に用いる。各種香料も用意し、好みに応ずるよう配慮する。煮込みが仕上がるまで、折々これらの汁類を加える。最後の仕上げとして、野菜類を添え、できればムッリー(murrii、醬油味に似た大麦製ソース)や胡椒を加える。付け合わせに卵は欠かせない。さらにヨーグルトと薔薇水を添えるのがこの料理である。                                                                                                  ArberryTabaahajah243 

 

「スズメ煮込み」タバーヒジャTabaahijahのレシピ2

スズメの挽肉を1ポンド、タロイモと玉葱を1.5ポンド、ゴマ油4オンス、ムッリー(murrii、醬油味に似た大麦製ソース)を3オンス、それに胡椒、セイロンシンナモン、薄荷、キャラウェイ、ヘンルーダ、大き目のレモン10個を用意する。

ポットにごま油を入れ、火をつける。ゴマ油の量は予定量の肉のぐあいに塩梅する。湯気が出てきた段階でスズメ肉と玉葱を入れる。その際、肉には胡椒を振りかけ、キャラウェイとシンナモンを粉にして振りかけて置く。肉が煮えてきて、香ばしい匂いがしてきたら、火を止めてしばらく待つ。そしてムッリー(murrii、醬油味に似た大麦製ソース)を肉に垂らして蓋をする。脂肪分が全体に行き渡り、その脂肪下にムッリーが行き渡った頃合いとなる。そうしたらレモン10個を搾ってヘンルーダ、薄荷と共にかける。三者の香りが十分沁みてくるまで待つ。それから同時に作っておいたタロイモ揚げと一緒にして混ぜる。火は止めたままで予熱利用する。両者を混ぜるとき、塩を少々まぶし込む。ムッリーをかけるとき、味見して適量を加える。

付け合わせに、サフランで染めた卵焼きを半割ずつにしたものは欠かせない。燻製肉の細切りにしたもの、タロイモなどを添える。細心の注意をもって料理に当たることが肝心。

                                        ArberryTabaahajah328

 

 

   もてなし方 食事量 「スズメ肉ほどの量」の真意

アラブ世界にも古くから、イソップ物語と似た賢者、訓戒者としてルクマーンLuqmaan なる偉人がいたとされている。そしてその数々の人生訓、処世術が残されており、『ルクマーン物語』として、以前から口頭伝承で伝えられていたものが、イスラム期になって正書法が確立される段になって、学者の努力によって断片が集められ書き留められて、『ルクマーン物語』として書物化されるに至る。ここでは『ルクマーン物語』の中から、ルクマーンが死ぬ間際、後継者である年若き息子に対して遺訓を残す。その一部を如何に紹介する。「スズメ肉ほどの量」の真意とは:

   賢者ルクマーンの息子への遺訓 

おお息子よ(yaa bunayya,定型句)、わしは重い物、大石や鉄製品などを運んだものだが、重い物って性悪な隣人ほど重いものは無かったぞよ。わしはずいぶん辛い思いを経験したが、辛いって貧乏程つらいものは無かったぞよ、

おお息子よ、無知なものを使者としてはならない。賢い者が見つからなければ、お前自ら使者となりなさい、

おお息子よ、嘘・虚言にだけは用心せよ!人がスズメ肉(程の少量の肉)で良いから食べさせてくれと言って、お前が相手の言う通り実際少量の肉を差し出したならば、相手はお前を(心中を察しないと)恨むことになろう。{そうでなくとも客人に対しては、寛大に振舞うことがアラブの倫理}

おお息子よ、葬儀に必ず参列せよ、されど結婚式にはそれに及ばず。葬儀は来世を念じさせてくれようが、結婚式は現世の楽を味合うことになるのであるから。

おお息子よ、食欲に任せて大喰らいしてはならない。大喰らいするならば、それは犬に等しいものとなる。

おお息子よ、……                       Dam.Ⅱ210-11