樹脂・麒麟血 竜血樹 麒麟血(3)
(亜)Zunjurf、Zinjarf、Dam Akhawayn
キーワード:
竜血樹の樹脂・麒麟血
カナリア諸島の竜血樹の学名Dracaena draco
ソコトラ島の竜血樹はDracaena cinnabari
cinnabarは「辰砂」
別名ズンジュルフzunjurf、ジンジャルフzinjarf「辰砂、朱」
別名ダム・アハワインDam Akhawayn「兄弟の血」
麒麟血伝承
ダム・テインニーンDam al-Tinniin竜血、
ダム・スウバーンDamm al-Thu”baan大蛇血
大蛇(竜)と象の混合血
大蛇(または竜)と象は敵対関係にあり、死闘の果て
麒麟血の採取法
麒麟血の用途 薬用および染料
樹脂・麒麟血についてここで補っておく。詳しくは前々回から4回にわたるブログ稿末の「ソコトラ島をめぐる話題1-4」を参照されたい。
竜血樹をリュウゼツランに属するという説があるが、どう見ても類縁が浮かばない。またCalmus dracoとも称しているようだ。Calmusとは「籐」のことであるから、「ドラゴン籐、竜籐」とも称しえよう。y確かにごつごつした幹がいくつも天井に向かう格好は、「ドラゴン籐、竜籐」と称するに相応しかろう。
竜血樹の樹脂から製したもの、これが麒麟血といわれる。樹脂が血の色であるから、当然赤色の樹脂、硬く綺麗な赤色樹脂である。しかし長期に陽にさらしたり、扱いがぞんざいだと、表面から次第に黒味を帯びてくる。従って良品は酸化せず、朱色を保ったものとされている。
カナリア諸島の竜血樹の学名がDracaena draco、すなわち「竜のドラセナ」とされるのに対して、ソコトラ島の竜血樹はDracaena cinnabariは「辰砂のドラセナ」とされている。それほどに赤の色、朱の色が強いことを示している。すなわちソコトラ島の竜血樹の産物である麒麟血は、鉱物であり染料として用いられる「辰砂」cinnabarが亜種名としてとされているほどに鮮明な乗附氏を産しているわけである。
麒麟血という名も、中国で命名されたものが我が国で用いられているもので、想像的動物の麒麟は竜の一種であるから、「麒麟血」も竜血樹の「竜血」も基本的には同じものを指していよう。
アラビア語では麒麟血はペルシャ語からの借用語で、ズンジュルフzunjurfとかジンジャルフzinjarfとされる。いずれも鉱物の「辰砂、朱」から派生したものである。
しかしアラビア世界では、固有でもっとポピュラーの名称がある。ダム・アハワインDam Akhawayn「兄弟の血」がある。カインとアベルが関わる名称であり、話が長くなるので、これについては次回述べることにする。
麒麟血伝承
他の麒麟血伝承として、竜、大蛇、象の混合血とするものがある。というのも麒麟血の別名に、さらに①ダム・テインニーンDam al-Tinniinと、②ダム・スウバーンDamm al-Thu”baanがポピュラーの名として知られているからである。
①は「竜の血」の意味であり、②は「大蛇の血」である。テインニーンtinniinは「竜」の総称語であり、また天の星座「竜座」Draco(羅),the Dragonnoのアラビア語の正式名称である。西欧名エルタニンEltaninは竜の頭部にあるγ星が訛ったもので、またスウバーンthu"baanは大蛇の意味で、同じく竜座の竜の尾の付け根にあるα星であって、訛ってトゥバンThubanとなっている。
大蛇(または竜)と象は敵対関係にあり、闘争もたびたび生じた。死に物狂いの闘争は、大蛇が象の体に巻き付き締め、頭部に噛みつき、牙と舌とで象の血を吸い取る。致死量に達した象は地面に倒れる。その重さに大蛇も耐え切れず、血を吐きながら息絶える。こうして象の血と大蛇の血が混じって固まったものが「麒麟血」だというのである。
麒麟血の採取法
さてその麒麟血の採取法であるが、十分成長して,太味のある幹肌に切れ込みを入れる。樹脂であるから、ねばねばした樹液が沁み出してくる。それを片手であまり鋭くない小刀を用いてそぎ取る。もう一方の手を下に持って行き、受け皿、多くはボール型のアルミニウムで受ける。
上図、左は竜血樹の幹に切れ込みを入れ、赤い樹液が滲み出てきたところ。右は樹液がガム状に固まって時間をおいて採取している。刃を鈍くした幅広のナイフでこそげ落とし、左手で持つ深い受け皿に落とし込む。
上図二枚は朱色の染料として用いられる鉱物の辰砂sinnnabar。
下図は筆者がソコトラ島で入手した麒麟血。左はソコトラ島の首都ホデイボのスークで、右は山中泊した時に拾い集めたもの。
麒麟血の用途
薬用および染料として用いられている。
麒麟血の品質で良質なものは薬用に回される。
それ以外の麒麟血は染料として用いられ綺麗な朱色を醸し出す。
薬用として止血剤、収斂剤、防腐剤、消毒剤、敗血症剤、さらに歯痛に対して用いられていることが知られる。
染料として、貴重な赤色染料として用いられる。赤色染料の原料としては、鉱物の辰砂が知られているが、より高級な染め物と仕立て上げられる場合、この麒麟血が求められる。