イスラム暦第1ラビーウ月al-Rabii” al-Awwalについて

 

1日の星ごよみで「イスラム暦だと、今日12月1日は1438年の第3の月第1ラビーウal-Rabii” al-Awwal月の2日目に当たる。サファル(空の月)がおわっており、昨日から陰暦では新月、第1ラビーウ(春)月を迎えている。12月29日まで続く。翌30日からは次の第4の月、ラビーウ・サーニー(al-Rabii” al-Thaanii第2ラビーウ)に入る。いずれ第1ラビーウ月についても、近々述べる積りである」と記しておいた。すでにその月に入っているので、ここで述べておく。

今日は12月3日、イスラム暦では第1ラビーウの5日目に当たろう。そして12日はイスラム諸国が全域、この日マウリド・ナビーMawlid al-Nabii’(預言者生誕祭)が挙行される。


イスラム暦の第3の月 ラビーウ・ル・アッワルとはどんな月なのか。
3月ラビーウ・ル・アッワルRabii”u al-Awwalの名称は「第一ラビーウ」の意味である。この連接語の名称からも分かるように、ラビーウと呼ばれる月も二か月続く期間を言う。4月の名称はラビーウ・ッサーニーRabii”u al-Thaanii、「第二ラビーウ」、またはラビーウ・ル・アーヒルRabii”u al-Aakhir、「もう一つのラビーウ」と呼ばれる。

3月・4月も「二つのラビーウ月、両ラビーウ月」として、ラビーアーンal-Rabii"aanと呼ばれるのも、1月・2月の両者を「二つのサファル月」サファラーンal-Safaraanと呼ぶ慣習と同じである。こうしたことからも分かるように、アラブは一年を古くは2カ月毎6季に分けていたことが考えられる。


ラビーウal-Rabii"とは「春」を表す代表語である。3月・4月の時節は、この春の真ん中にあることから命名された。ラビーウは広く季節を表す「春」「春秋」、「冬を挟んだ温暖な時期であって秋も含む」が一般であった。<季節>が主体なのにここで述べているように、もう少し狭く「一か月」をもラビーウal-Rabii"で「春」のみを表すことにもなった。そのために、紛らわしく、古くからいくつかの説を産んできている。そのため前者は「時節の春」の意味でラビーウ・アズマナRabii”u al-azmanahと、後者は「月々(12か月)の春」ラビーウ・シュフールRabii”u al-shuhuurと区別される。


さらにラビーウの意味は広がっている。3月・4月、この頃の降雨もまた「ラビーウ(rabii”)」と言われる。即ち「春雨」である。降雨期である冬から春にかけての雨全体を指して広く用いられる。ラビーウとは元来「春」という季節を表わし、二義的にその時期に降る<雨>としと「春雨」と意味を拡大させている。「春雨」だから〈春〉が中心になると考えられるが、中東の場合、春秋期は短かく、殆んど冬期に吸収されて理解されている。そのため大きく「乾季」と「雨季」に大別されて理解されている一面がある。


雨季すべてが春、すなわちラビーウと理解される場合があり、秋すら第一の春(ラビーウ・ル・アッワルRabii”u al-Awwal)であり、我々が知る春が第二の春(ラビーウ・ッサーニーRabii”u al-Thaanii)とされる地域もかつてはあった。第一の春(=秋)は黄道28宿の内、第19宿シャウラ(al-Shalahサソリの尾)の出現(tuluu”)、すなわち12月8日を限度とするとされる。(12月8日はシャウラのラキーブ・対星の第5宿ハクアのナウに当たる)。シャウラの出現は、それをもってシターウ(shitaa” 冬)の始まるを告げる宿である。


この概念に中には夏期は、その暑さで諸作物の成長を促し、秋には成熟、収穫の時期を迎える。冬の降雨は土壌に水分を供給して、その後の春が緑の発育期、植物の生育期とされる意識がある。ラビーウとは真冬は除かれ、その両端の人間にも動植物にも温暖な気候を提供してくれる時期、春秋の時期を言っていた。

 

ラビーウ が「春、春秋、春雨」の字義になるが、具体的にはrabii”uとはどんな語義を持つのであろうか。その語根√R・B・” の動詞raba”aは「牧草や作物を育てる」から由来する。降雨や温度が大地に湿り気をもたらし、植物を生育させるraba”a、この時期をその派生名詞のラビーウrabii”というのである。「雨が大地をラビーウにした」raba”a al-mataru al-ardaとは「雨が大地を潤し、牧草や作物の芽を生育させて、一面緑にした」と喜色とともに発せられる言い回しである。受動形で「大地がラビーウにされた」rubi”at al-arduとは「ラビーウrabii” が牧草や作物を育てた」とも言われる。


「春」ラビーウは語形的には形容名詞である。ここでは他動詞の形容名詞であるから、受動分詞marbuu”と同義と採られる。従ってrabii”とは「牧草や作物が育てられる(もの、とき)」が原義で、それが「牧草や穀草が育てられる時期」→「春」との意味を獲得したものと思われる。
それが嬉しさや楽しさを持って迎えられるのは、気候も温暖で、人間も動物もイルティバーウ(irtibaa” 肥え太る)からである。春の食草やそれで肥えた肉を食することが出来るからである。興味深いことにラビーウrabii”uは、言語系統の異なるパキスタンやインドでも「春」の義で用いられている。おそらくイスラム暦の名称の影響か。

 

古代アラブ・アード族では3月はハッワーンKhawwaanと呼んでいた。「不誠実な者、裏切り者」の意味であるが。三月が何故こう呼ばれるのかは、どの資料も明らかにしていない。ハッワーンKhawwaanには「ライオン」の意味もあるが、そう呼ばれるのもライオンの属性に「不誠実な者、裏切り者」の意味であるからである、とする。恐らく春への期待が膨らみ過ぎて、現実には期待ほどではなかったことがハッワーンKhawwaan(不誠実な者、裏切り者)との、不名誉な名称となったものなのであろう。

 

この月ラビーウ・ル・アッワル(3月)の行事・祭事には、
1日 預言者がメディナに安着して、ヒジュラが完成した。
4日 教友アブー・バクル、初代正統カリフになる。
11日 預言者の生誕祭の前夜祭
12日が預言者の命日であり、それは同時に誕生日でもある。アラブの伝統では誕生日を祝う習慣がなかった。それ故、死亡日が明らかなので、誕生日として後世には祝われた。この日マウリド・ナビーMawlid al-Nabii’(預言者生誕祭)がイスラム世界こぞって祝われる。しれぞれのスーフィー教団はグループごとに旗を立てて、目抜き通りを行進する。そして、主要なモスクや修道場の前や中で、ジクル(念行)を行い、預言者を祝福する。

 

この月の厄日は10日と20日とされている。