蝉が鳴くこの時期。

今から14年前のお話です。

歯医者で麻酔と抜歯をし、その日の給食で、
嫌いな食べ物を口にした娘は、
それ以来、全く飲食をしなくなりました。

歯みがきもNG。

口に近づけようものなら、自傷やパニックを起こしました。

お腹は空いているのに、
口を開けるのが怖い。


嫌な体験は、
いつまでも脳裏にやきついて放すことができません。

辛かったことを思い出し、
口を開けることで、また同じ思いをするのでは…という恐怖。

空腹のイライラ。

自傷とパニックはひっきりなしに繰り返されました。


入院をして1ヶ月半…。

食べなくなってから2ヶ月近くが経とうとしていました。

体重ー7㎏減。

6才児の体型ではありません。

夜中に点滴の管を手で引き抜いたり、
管の繋ぎめが外れて緊急処置をしたこともありました。

一時も目が離せません。

四六時中、気持ちが張り詰めていました。

医師からは
「食べるようになるまで入院です」
という返事。
2ヶ月近く食べることができなかった娘にとって、
出口のないトンネルを手探りでさまよっているような…一向に出口の光が見えませんでした。

それどころか
どんどん衰弱していく娘が、消えてなくるのでは…という錯覚さえおきました。

そんな不安から
娘の葬儀の夢を見て魘され、横で寝息をたてている娘を見てほっとしました。

水分が足りないので唇もガサガサ。

口の中もカラカラなんだろうね……。


少しでも何かしたい…。

使い捨てのスポイトをたくさん買ってきてもらい、
夜中、熟睡しているときを見計らって
スポイトに水を入れて口に含ませました。


寝ている時は、
無意識に水を欲しがっていることがわかりました。
スポイトなので少量の水ですが、
本能なのでしょうか…。
一生懸命お水を吸って飲み込んでいました。

でも、はっと目が覚めて意識が戻った時は、
恐怖に満ちた形相で拒みます。


やはり…(・_・;)


何度も何度も
毎晩、熟睡を見計らってスポイトで口に含ませる。

起きたら寝たふりをして熟睡するのを待ち、
口に含ませるを繰り返しました。

疲れてうとうとしていると、朝になっていました。


先が見えませんでしたが、
心の奥底にある、たぬちゃんの“飲みたい”という気持ちが聞こえてきたような…

少しだけ光が見えたように思えました。

(続く)