それから毎日
Jは私の上がる時間までお店にいて
上がると家の近くまで車で送ってくれるという生活になった。
でもJとは
その後もキス以上の関係にはならなかった。
もちろんMの事も全て話してあったので
家の近くまで送った後も引き留めるようなことはなく
ただ
ただ
私の為に動いてくれていた。
その日もいつもの通り
店を上がってからJの待っている場所へ急いだ。
その日
何があった訳でもなかった。
でも
私はなぜか、ずっとJといたいと思った。
自分のことは棚にあげて
奥さんのところへ帰したくなかったのかもしれない。
「今日はずっと一緒にいたいな」
Jの事を試したかっただけかもしれない。
Jはあっさり言った。
「いいよ。
じゃあ今日はずっと一緒にいよう。」
その日私は帰らなかった。
だからといってJと関係を持った訳でもなかった。
ただ
この日にたくさんたくさん話した事で
私はJへの恋心を確信した。
Mと別れよう
そう思った。
Jが既婚者であるということは
この時はさほど問題ではなかった。
翌朝
家の近くまで送ってもらった。
「大丈夫?」
「大丈夫!もう気持ちは決まったようなもんだから」
「ちゃんと話合ってくるよ」
そうは言ってみたものの
いざアパートの階段の下に立つと足が竦んだ。
息を止めて
鉄の階段が音を立てないように
つま先で階段を上がる。
玄関の前に立つ。
私の気配を察した猫のチーコが
『ニャー。』
と細く鳴く声が聞こえた。
玄関に鍵はかかっていなかった。
コタツに座っているMがいた。
テレビも付けずに。
もう、だめだ。と思った。
部屋の入口で私は言った。
『別れたいんだけど』
ものすごい激痛が頬に走った。
目の前が真っ暗になった。
自分がどんな態勢で倒れたかもわからないほど
一瞬の出来事だった。
自分に何が起こったのか
把握しようとする間もなく
Mが胸ぐらを掴んで私の体を起こす。
胸のボタンが飛んで床に転がった。
それを猫のチーコが無邪気に追いかける。
拳で何発も何発も殴られた。
後頭部を掴み、柱に何発も頭を叩きつける。
自分の血液が柱に着くのをぼんやり見ていた。
柱がどんどん赤くなる。
痛みなんて感じなかった。
とにかく
何が起きているのかわからなかった。
私を横倒しにし
Mが馬乗りになる。
首を絞めてきた。
Mの涙が私の頬に落ちた。
『あー・・・私もう・・・このまま殺されるんだな』
そう思うと
私も
今まで出なかった涙が出た。
なぜか
なぜか
その涙にMの首を絞める手が緩んだ。
今しかない!
私は思いっきりMの股間を蹴り上げた。
うめき声を上げながら床に転がるM。
私は玄関に落ちたままになっている鞄を掴み
一気にアパートの階段を駆け降りた。