キングコブラ青春こじらせ物語 ⑦大巨人とハードゲイと走り出したら、止まらない。
2009年夏の終わり、流血ブリザードのフロントマン ユダとアトランティスはバンドの大きな改革に乗り出した。
当時のユダとアタイ↓
当時のアトランティスとアタイ↓
奇しくも、初代ベーシストのヴォルドがバンドを辞めたいと言い始めていた。その改革とは『ガタイがデカくて強そうなメンバーを入れる』というものだった。
「ハードコアの先輩には頭を下げて、メロコアの若手には威張り散らす。やっぱこの世界、演奏の上手さよりケンカの強さの方が大事や☆」とユダが言ったかどうかは知らないが、『北斗の拳』に出てきそうなルックスのメンバーを入れるというのが結成当初からのコンセプトだった。
それに、ステージを汚すパフォーマンスでライブハウスのスタッフや共演者に嫌われていたユダが、いざという時強そうなメンバーに自分の身を守ってほしいと思ったのは間違いないだろう...。
そして白羽の矢が立ったのは、当時"酔拳666"というパンクバンドでベースを弾いていたカツヤさんだった。
カツヤさんはアタイらよりちょっと歳上で、背が高くて、和彫りのタトゥーを入れていて、レザーのハンドメイドが得意で、アサヒビールで主任として働いていた。
...この成りで流血ブリザード唯一の正社員!!
ユダとアトランティスは、カツヤさんに「アビゲイル」という名前を授けてまずはドラマーとしてデビューさせた。(当時、流血ブリザードには正式なドラマーがいなくて常にヘルプが不足していた。)
そしてまもなく、初代ベーシストのヴォルドがバンドを辞めた。アビゲイルはベース担当になり、同時に名前も「ドクラテス」に変わった。
ドクラテスは、バンド経験者ということもあって問題なくベースやコーラスができたし、自分で衣装をカスタムすることにも長けていた。
彼は硬派なキャラでいきたかったようだが、ユダとアトランティスに「あっはぁ〜ん!!私は重度のスカ○ロマニアです、好物はマダムのビチグソです☆」と毎回ライブで言わされる羽目になり、意外にもそれが観客にウケていた...。
ドラマーは相変わらず定着しなかったが、この頃知り合った"桃色神社"というバンドのドラマー、カントクさんがしばらくの間ヘルプを引き受けてくれるようになった。
カントクさんはドラムがうまく、しかも愛嬌があり、そこにいるだけで周りを笑わせるような雰囲気が彼にはあった。ユダとアトランティスは、カントクさんにハードゲイ風ファッションを提案した。彼はすぐにレイザーラモンHGのような見た目になり、HIV感染のゲイドラマーという設定で「ポイズン・パワー」という名前が与えられた。
こうしてメンバーが新たになった流血ブリザードは、バンドらしい活動ができるようになり、ライブ本数が一気に増え、毎月KING COBRA(以下キンコブ)での自主企画『狂喜!! 鬼畜人間集会』も平日にも関わらず盛況だった。
この頃からアタイは、これまでの人生になかった未曾有の経験をするようになる。それは、自分のファンがつくということだ。昔やってたバンドでも、毎回来てくれるお客さんはいた。でも、ほとんどが知り合いの延長だったと思う。まったく知らない人がライブに来てくれて、応援してますと言ってくれる経験は、バンドをやっててよかったという気持ちにさせてくれた。
毎月、狂喜!!鬼畜人間集会が終わった後は、火曜にも関わらずオールナイトでアメリカ村で打ち上げをした。
対バンもお客さんも参加して、みんな朝まで帰らなかった。ある時は居酒屋、ある時は焼肉屋、ある時は三角公園で外飲み、ある時は20人くらいでゾロゾロ歩いて難波の公園で深夜にバーベキューをした。警察がバーベキューに割って入ってきて中断させられたけどね★
アルバイト先に差し入れを持ってきてくれた人もいるし、車で家の近くまで送ってくれた人もいるし、プライベートな打ち明け話を聞くことも度々あった。素直に嬉しかった。そんなこと今までなかったから。
よくキンコブに来てくれた、女子高生のマユミちゃん(仮名)。モデルみたいにスタイルが良くて可愛い17歳。
いつも一人で来て、キンコブで他の高校生達と合流し、ライブが終わっても終電で帰らない。
打ち上げの一次会がおひらきになって、帰らなくて大丈夫なのか聞くとここにいたいと言う。仕方ないから一緒にファミレスに行って、二人で話をした。
お母さんと二人暮らしみたいで、この間流血ブリザードのタオルを洗濯機に入れたら「何これ?」って言われました、と言って笑っていた。始発が出る時間が近づいてもマユミちゃんは帰ろうとせず、ファミレスのテーブルで寝ると言う。
こんな女子高生を置いて帰るのは気がひけた。アタイは、彼女をネットカフェに連れていって受付で身分証を貸して後からこっそり受けとった。みんなはマネしないでね。
流血ブリザードのスタッフをやると申し出てくれた神戸のパンクス、カワちゃん(仮名)。流血には当時すでに二人のスタッフがいたし、彼はウチのライブに来てる女性のお客さんをナンパする癖があったからその申し出は断っていた。
それでもライブに来てくれたある日、打ち上げで「今日オレの誕生日なんすよ」って言ってたから、お店のマスターに頼んでお好み焼きにマヨネーズで"お誕生日おめでとう"って書いてもらった。
そのお好み焼きが運ばれてきた瞬間、カワちゃんはボロボロ泣きだした。大げさやなぁ!!ってみんなで笑ったけど、彼は泣きながら真剣に「誕生日祝ってもらうなんて生まれて初めてっすわ!」と言っていた...。
腰まで届くピンクのロン毛のキューちゃん。キューちゃんは年齢不詳だったが、多分アタイらより一回りくらい歳上だったと思う。しかし彼には大人の落ち着きは一切なく、流血のライブでステージに上がってきて寝転んだり、乱闘騒ぎを起こしたりとメチャクチャだった。
ある日ライブに来てくれたキューちゃんが、松葉杖でびっこをひいていたのでどうしたのか聞くと、駐輪場で全速力で走って三角コーナーを倒していたら、自転車に突っ込んでしまい脚と肋骨を骨折したという。それでもユダにつかみかかっていたから常軌を逸しているとしか言いようがない。
そんなキューちゃんが、ある日酔っぱらって話しかけてきた。「オレ、むかし、サラリーマンやっててん。」"まじで?"
「うん、まじで。髪黒くて短かったし。毎日朝から晩まで働いてたし。めーっちゃ、マジメ。」
"へぇー、なんでサラリーマン辞めたん?"
「同棲してた彼女に浮気されてん。」
"キューちゃん..."
「ほんまにキツかった。死のうかとも思ったけど、それから自分の好きなように生きることにしてん。」
そう言ってキューちゃんはニカっと笑った。歯のない口を開いて。
"キューちゃんって、なんでキューちゃんって呼ばれてるん?"「だってオレ、キュートやから。」
やかましいわ...。
そんな個性的な同志に囲まれて、ライブはとても楽しかったが、アタイらはバンド活動を前進させることを目指していた。曲を作って、レコーディングして、CDをプレスしてリリースするという活動を。しかし、ここに来て思いがけない別離を経験することになる...。
-つづく-



